32 決意の日 【32-2】

「ここだけしか直さないと、おそらく」

「おそらく上に止められる。でも、そうしたらそこで話せばいい。
自分たちはしっかりと計画をした。決して、無理をさせて起きた事故じゃない。
余裕のあるスケジュールにしておいて、実際には詰めていくというやり方もあるけれど、
それはことを早く動かすだけで、上にはこっちの考えが伝わらない」



『同じだとは限りません……』



「人の理解力は、同じだとは限らない。でも、きちんと説明すればわかってもらえる」


岳は、プラモデルの箱を見ながら、あずさと村田のことを思い出しながら、

自分が折りたたんだメモを見る。



『古いものも、素敵なものだ』



古いビルを壊し、新しいものを建てようとした岳に対する、

『軽い嫌み』とも取れる言葉に、思わず口元が動いた。



『しかし、世の中はそれだけではない。あなたは、その中にある新しいものを見つけ、
可能性を広げてください』



村田のメモには、この一文も残されていた。

岳にくれたのは、『クラシックカー』のプラモデルだけれど、

遊び方、受け取り方はそれぞれになる。組み立てて飾ることも出来るし、

別売りの動力を取り入れると、動かすことも出来るという商品だった。

古さだけではなく、新しいものもあるという、村田からのメッセージ。


「石井は、こういうものは得意か」

「……プラモデルですか」

「あぁ……」


泰成は、プラモデルを嬉しそうに見ている岳を見ながら、

『あまりやったことはないです』と返事をした。





あずさは午後になり、『青の家』に向かった。

庄吉は、お土産として持っていった『クッキー』を受け取ってくれる。


「そうですか、明日ですか」

「はい。本当にお世話になりました」


あずさは、相原家に来たことで、貴重な経験が出来ましたと礼を言う。


「いや、あずささん。私が、玉子さんの面影をあなたに見て、
『東京』へとわがままを言ってしまったことで、逆にご迷惑をかけました」


庄吉は、自分が余計なことをしたので、『ザナーム』から疑われたと、謝罪する。


「そんなこと言わないでください。本当に感謝しています。噂のことは、
時間が解決してくれます。両親もそう言っていましたし」


あずさは、自分にやましいところがないのなら、堂々と生きて行くべきだと、

玉子からも教わったことを話す。


「そうですね……そう、玉子さんはそうでした」


庄吉は、海の上の青空を見る。


「もうあの人には会えないと思っていましたが……そんなことはないのですね」


庄吉は、そういうとあずさを見る。


「これからも、遠慮せずにここへ来てください。あずささんと話しをすると、
元気が出ます」

「……はい」

「岳や敦とも、ぜひ、交流を持ってくださいね」


庄吉の言葉に、あずさは『はい』と返事をした。





「東子……」

「何?」

「何じゃないよ、お前がずっとそこに立っていても、どうにもならないだろう」

「ならないとかじゃないの。岳はわかっているのかな」


夕方近くになり、相原家には、一人暮らしを始めた敦も姿を見せ、

滝枝や浩美が、あずさのためにと、料理を作っている。

本人が庄吉のところに行っているのはわかっているので、

あとは、岳が戻るだけだと、東子は何度も外を見た。

普段の土曜日なら、休みになることも多いし、たとえ仕事があっても、

それほどの時間になることはない。

しかし、今日の岳は、別の問題が急に入り込んでいた。

建設業界に名前を知られている『ドン』こと瀧本が、

岳たちが土地購入を申し込んでいる工場に、以前勤務していて、

現在は別会社にいる前任責任者と、『アルベンジホテル』で会うことになったので、

そこに同席をしないかという誘いだった。

急な話であることは向こうも承知していたため、無理にとは言わないがと、

そう付け足してきたが、岳にしてみると、

『そこを訪れた』ということに意味があると思い、挨拶に伺いますと返事をする。

急遽『豆風家』の担当者にも声をかけ、ホテルへ車を向かわせた。





「今日は、ありがとうございました。曾祖母の玉子と、
こちらの会長、庄吉さんとのつながりで、半年もの間、自由にさせていただきました。
何もお返しできず、すみません」


あずさにとって、相原家での最後の夕食が始まり、結局、岳は戻れなかった。

瀧本に会い、その後関係者と顔合わせをすることになり、

挨拶という話しは、実際それだけでは済まなかったからだ。

軽いお酒の席が出来上がり、仲介役となったドンは、機嫌よくグラスを空にする。

会場となっているホテルは、以前、岳があずさを連れ、立食パーティーに出た場所だった。

岳は、家に電話をかけ、滝枝に事情を話し、席に戻ろうとしたとき、

『ロスウッド』が目に入る。

岳は携帯で時間を確認すると、すぐに階段を駆け下りた。





あずさは、お風呂に入り、そのまま部屋に戻ろうとしたとき、

リビングに座っている東子を見つけた。

岳が戻ってこなかったことを怒り、食事中もふてくされていた東子が気になり、

近付いていく。


「東子ちゃん……」


東子はあずさを見た後、また頬を膨らませる。


「岳が、ここまで嫌なやつだとは思わなかった」


東子は、今日のことをあれだけ言っていたのにと、また不満を口にする。


「仕事だもの、当たり前じゃない」


あずさは、仕事をすっぽかしましたという方が、よっぽどおかしいよと話す。


「岳が今、やらなければならないことなんてないもの。
『BEANS』には、あれだけたくさん社員がいるの。他の人だって出来ることでしょう」


東子は、最後の日くらい、みんなで笑いたかったと口にする。


「小さい頃からずっとそうだった。兄妹3人いるのに、いつもどこかずれていて。
私が誕生日だって言うと、二人ともプレゼントはくれるのに、どちらかがいなくて」


岳は敦に、敦は岳に遠慮し、いつもどこかギクシャクしていたと、東子は話す。


「こんな広いリビングも、やたらに長いテーブルもいらない。
私は小さなこたつで、みんなで同じ番組を見て笑ったり、
一つのオセロゲームに、みんなで……」


東子はそういうと、下を向く。

あずさは、東京に来た時、夏子たちが持たせてくれた田舎の野菜とガンバレのメモを、

どこかうらやましそうに見ていた東子の事を思いだす。


「東子ちゃん……」


あずさは東子の横に座った。



【32-3】



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