35 悲しみの抵抗 【35-4】

「怒った? どうして大家さんが怒るの?」

「ねぇ、宮崎さんって、『BEANS』の関係者なの?」


友華はそういうと、『違うよね』と聞いた。

あずさは関係者ではないよと、答えを返す。


「だったら……どうしてだろう」

「何?」


友華は、不動産屋があずさには『BEANS』の一族がついているようなことを

話したと言い、それが祖父の怒りを買ったと、話し続ける。


「不動産屋の人がね、彼女には『BEANS』がついているようだから、
家賃の未払いも心配ないだろうし、いざとなったら土地のことも
相談に乗ってもらえますよね……なんて話しを」


杏奈は、そういえば不動産屋で契約するとき、冗談交じりに名前は出したよねと、

あずさに話しかける。


「いや、でも、だからといって、『BEANS』が着いていたらどうなのかって、
意味がわからないでしょう」


友華の説明に、杏奈が納得がいかないと意見をしていると、

ガタガタと音がし始め、3人の前に『洗濯機』を運んできた業者が到着した。

杏奈はここに止めてくださいと、手で合図する。

あずさは、不動産屋で受け取っていた鍵をカバンから出す。


「あ……あのね、宮崎さん」

「コラ! 何をしている。そんなもの、この部屋には入れん! 帰れ!」


車が到着する音を聞いた耕吉が、あずさが借りる予定の部屋から出てきて、

大きな声を出した。


「何をしているって……そっちこそ」


杏奈は『鍵はあります』と下から叫ぶ。


「関係ない、お前には部屋は貸さない! 出ていけ!」


荷物を運んできた業者は、思わぬ状況に、

どうしたらいいのですかとあずさに尋ねてきた。

杏奈は借りているのは正式な書類なのだからと、業者に上へと指示を出す。


「絶対に入れんぞ。もし、どうしても入るというのなら、私を踏んで行け」


耕吉は扉の前の廊下に座り、絶対に動かないとあずさたちを見る。


「踏めって言っているよ、あずさ」


杏奈は、部屋の前にいる耕吉を指差す。


「そんなこと出来るわけがないでしょう」


あずさは耕吉を指す、杏奈の指を軽くはたいた。


「お客様、この状態で上に運べませんよ」


業者は、トラブルが起こったと思ったのか、すぐに困った顔をする。

あずさは5分だけ待って欲しいと業者に頼み、一人で階段を上がり出した。

友華も自分が助けになればと思い、あずさの後に続く。


「すみません、宮崎です。あの……どうして『BEANS』の関係者だと、
ここをお借りできないのですか」

「嫌だ、ただそれだけだ。それ以上の何がある」


耕吉はそういうと、不動産屋にもう一度戻って、部屋を探してもらいなさいと言い返した。

友華は、あずさがきちんと契約もしているのだから、そんなことは無理だといい、

とにかく荷物を入れさせて欲しいとあらためて頼む。


「『BEANS』の関係者というのは、大きな誤解です。
祖父母の縁で、お付き合いが少しあるというだけで……」

「それで十分だ、来るな!」

「おじいちゃん」


それからもあずさと耕吉の言い合いは続き、気付くと10分が経過していた。

業者は車の時計を見ると、明らかにイライラとし始める。

杏奈がすみませんと頭を下げた時、向こうから広夢の借りた軽トラックが走ってきた。


「あ……広夢、広夢!」


杏奈は1秒でも早く来て欲しいと手を振り、広夢は杏奈のそばに車を止めた。

荷台には約束どおり、食器棚とテーブルが乗っている。


「何、どうしたの……」

「大家が急に気持ちを変えてしまって。あずさに貸さないって」

「は?」

「もうなんだかんだ10分も、貸してくれ、だめだの押し合いなの」


広夢は、契約はしたのでしょうと杏奈に聞く。


「したわよ。どうも何やら『BEANS』が気に入らないらしい」

「『BEANS』?」

「すみません、もう置く場所を決めてくれませんか。セッティングをするならするで、
時間もかかりますし」


業者の男性は、このままだと次の場所に向かう時間も迫ってくると、

杏奈に声をかける。


「どうしよう……洗濯機」

「あ、そうか、入れてもらえないのか」

「そう」


広夢は、それならばと自分が乗ってきた軽トラックに乗せて欲しいと話した。

業者はわかりましたと言い、2人で洗濯機を移動させ始める。


「エ? 広夢、何言っているの」

「何言っているのって、業者の人も困るだろう。
セッティングは、いざとなったら俺がやるよ」

「出来るの?」

「出来るよ。俺、これでも結構器用だし。実際、自分のところもやったしね」


広夢はそういうと、上で話し続ける3人を見る。

すると、何やらもめていることに気付いた寿美枝が、

母屋を出てアパートの前にやってきた。


「あらあら……なんだか賑やかなこと」


杏奈は、寿美枝の雰囲気に、またややこしくしそうな人ではないかと思い、

横にいる広夢を見る。そこに1台の車が、近付いてきた。


「あ……まずい」

「ん?」


杏奈が気付いたのは、

あずさの引っ越し場所を、自分の目で見ようとしている岳の車だった。


「まずい、まずい……今ここで彼の登場はまずい」


杏奈は、岳が来たことをあずさに告げるため、階段を上がりだす。


「あずさ……」


杏奈は振り返ったあずさに、岳の車が来たことを指で示した。

あずさは、確かに岳の車だと思い、一度下に向かう。

何もわからない岳は、目の前で業者が洗濯機を軽トラックに乗せているのを見た。


「では、これで」

「はい、すみませんでした」


広夢は、業者の書類にサインをすると、

これ以上巻き込まれたくない業者のトラックを、手を振りながら見送った。

岳は、何やら違和感のある雰囲気に、近付いてきたあずさを見る。


「何をしているんだ」

「岳さん……あの……」

「こんにちは、あずさの友達の鈴木杏奈です」


杏奈は、岳の前に出ると、いつもあずさがお世話になっていますと頭を下げた。

岳はすぐに気付き、『いえ』と挨拶をする。


「あの……これは……」


岳が事情を聞きだそうと話しかけたとき、

そばに来た寿美枝が『すみません』と声をかけた。



【35-5】



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