38 男と女の事情 【38-1】

猪熊と花。聞けばどちらにも落ち度があった。

しかし、それは時代の流れや、タイミングもあって、あずさにはどちらが悪いとも、

決断できなかった。実際、土地は別の人間のものになり、

花はもうこの世の中に存在しない。

確かに感情的には、どうにかしてわだかまりを取りたいという思いはあるが、

『組織』を考えなければならない岳にとっては、猪熊を責めることなど、

確かにできない話だった。また、あずさの気持ちを考え、岳自身が頭を下げることも、

社員を束ねる立場の人が取る行動として、ふさわしいとは言えなくなる。

もやもやが完全に晴れたわけではないが、それでもあずさの中には、

岳が富田家の勝手な話だと決め付けなかったことに、感謝する気持ちがあった。

心配してくれている友華にだけは話しをしようと決め、その日は眠りについた。





次の日、あずさは仕事が休みだったので、杏奈と広夢に会おうと、

『ツネザワ』の本社がある場所に向かい、昼食を取る事にした。

お昼休みを少しずらしてくれたため、入ったお店ではゆっくり話すことが出来る。


「そういうことだったんだ」

「うん……色々と迷惑をかけました。広夢さんもごめんなさい」

「いやいや、そんなことはいいんだけどね」


広夢は、それで一人暮らしはどうするのと、あずさに聞いた。

あずさはあらためて探すことにすると、レモンティーを飲む。


「そうなんだ、落ち着かないのか」

「うん……」

「当たり前でしょう広夢。考えてもみなさいよ、相原家は向こうの親元でしょう。
自由がないもの」


杏奈も、あずさが部屋を借りないと、岳は近くて遠い存在になると話す。


「……うん」


あずさにも、杏奈の言いたいことは伝わっていた。

岳との距離が近付き、日々、同じ時間を過ごすことが増えたため、

それが逆に窮屈さを生み出している。


「いい物件だったけどね……」

「こらこら、あずさ」

「うん」


広夢は、彼の力を頼ればいいんだよと、あずさにアドバイスをする。


「男ってさ、やっぱり頼られたいんだよね。あなたがいてくれるから安心って、
そう思われたいというか……」

「あら、広夢にもそんな感情があるわけ?」


隣に座った杏奈は、『驚いたわ』と笑いながら言う。


「当たり前だろう。それが男だって。しかも、相原さんはあれだけの人だ。
きっと、そう思っているって」


甘えてあげることも大事なことだと、あずさに話す。


「うん……」


あずさは、京子から『女はかわいく』と言われたことも話す。


「そうそう、それでいいんだって。何もかも委ねるのはダメだけれど、
受け入れたり、頼んだり。それでバランスを取らないと」


杏奈はあずさに意見を言う、広夢をじっと見る。


「何か、文句でも」

「いえ……私もぜひぜひ頼りたいなと」


杏奈はそういうと、笑い出す。

あずさは家に戻ったら岳に相談してみようと思いながら、二人と食事をし続けた。





その日、仕事を終えた岳は、悟と待ち合わせをしている店に入った。

その姿に気付いた悟が、こっちだと手をあげる。

岳は待ち合わせですとウエイターに話し、店の奥に進んだ。


「いいだろう、この店」

「そうだな。こんな雰囲気の店があるなんて、知らなかった」


悟が選んだのは、日本の銘酒を並べた和食のうまい店だった。

焼き鳥などリーズナブルなつまみも、あれこれ用意されている。


「お前のことだから、また店に来いって言われると思っていたよ」

「言わないよ。そう毎回店っていうのもなぁ」


悟はそういうと、俺に任せろと色々と注文を済ませる。

二人のテーブルには、つまみもお酒もあれこれ並べられた。

互いに好きなものを食べながら、ゆっくりとお酒を楽しんでいく。


「なぁ、岳、お前、武雄の招待状どうした?」

「あ……うん」


武雄とは、二人の『桜北大学』の同級生の名前『菊池武雄』で、

今度、結婚式を挙げることが決まり、二次会に来て欲しいという招待状のことだった。

岳は、出る予定だと話す。


「だよな、武雄だし」


悟は俺も行くから一緒に行こうと、そう話す。


「そこでさ、お前、逸美と話せ」

「は?」

「あいつ……婚約ダメになったそうだ」


悟は、武雄の相手も同級生で、逸美の友人だったから、

おそらく招待状が届いているはずだと話す。


「悟……」

「勘違いをするなよ。俺は別によりを戻せといっているわけじゃない。
お前の中にさ、同級生……いや、元彼女の婚約破棄のことを聞いて
何も感じることはないのかってこと」


悟はそういうと、岳を見る。


「今さら、話すほうがおかしいだろう」

「今さらだから話せるんだ」


岳はどういう意味だと悟を見る。


「いがみあったままっていうのは、周りも面倒くさい。
俺のように、両方と行き来がある人間としては、さらに面倒くさい」


悟はそういうと、焼き鳥を口に入れる。

岳は『女を不幸にする男』だと言って別れた、逸美のことを考えた。



【38-2】



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