38 男と女の事情 【38-2】

悟と岳の話が行われている店とは別の店で、梨那はかおるを呼び出していた。

かおるは予定の時間より少し遅れて店に入ると、梨那を見つけて手をあげる。


「ごめんね、前の予定が長引いた」

「いいよ、別に」


梨那は、久しぶりに外へ出たけれど、どこにも立ち寄る気がしなくて、

早めに店へ来てしまったとかおるに話す。


「どうしたのよ、梨那らしくない。きらびやかな場所に行くと、
買い物の神様が降りてくるんじゃないの?」


かおるは、そういうとメニューを開く。


「そんな神様が降りてこられるような、状況じゃないの、私は」


梨那は、先日、岳に呼び出されたので誕生日の仕切りなおしかと思ったのに、

実際には『別れ話』だったことを語る。


「別れ話?」

「そう……あまりのことに、言い返すことも出来なくて」

「どうしたのよ、もう一人いるとかいう女?」

「違うの。それが……」


梨那は、『三国屋』で岳と言いあいをしていたあずさのことを思い出す。


「中村流の跡取り娘なら、その方がまだ気楽だった」


かおるは近付いてきたウエイトレスに向かって、注文するメニューを指でさす。


「何……ノーマークの女がいたってこと?」


かおるは、少し気持ちが迷っても、

それは一時的なものではないのかとお手ふきを取る。


「そうならいいのに……そんな感じはしなかった。
岳にとっては、『待っていた人』だというような、ことを言っていたし……」

「待っていた人?」


かおるは首を傾げる。


「相原さんって、そんな人だっけ?」

「そう……私もそう思っていたの。仕事のこととか首を挟むことはいつも嫌がられたし、
私は岳がそうして欲しいと思っているだろうって、ずっと……」

「従ってきたのに……でしょ」


梨那は、かおるの言葉に小さく頷く。


「で、わかりましたって言ったの?」

「言わないわよ。でも、そこで泣き叫ぶわけにもいかないし……とにかく家に戻って。
でも、それならばどうするって考えも浮かばないし。岳からも連絡がないし……」

「で、ずっと閉じこもっていたと」


かおるはそういうと、『はぁ』と大きく息を吐く。


「はぁ……じゃないわよ、かおるが言ったのよ。少し放っておけって。
約束を破ったのは向こうが悪い。こちらがあれこれ機嫌を取る話しじゃないみたいなこと」

「言ったわよ、だってそうだもの」


かおるは、自分はいつもそうしてきたと胸を張る。


「……参ったな」


梨那はそうつぶやくと、また下を向く。


「ねぇ梨那」

「何?」

「相原さんとよりを戻そうと思うのなら、ここは使えるものを使わないとね」


かおるは、父親には話をしたのかと聞く。


「父には何も話していない。だって……それじゃおかしいでしょう」


梨那は、父親に泣いてすがるのはおかしいのではないかと話す。


「『BEANS』と『三国屋』。二人の結婚にはこの企業同士の絡みもあるでしょう。
父親同士だって、それなりの思惑くらいあるわよ。こういうときに使わないとどうするの。
『三国屋』は梨那の武器でしょう。彼だってもったいないと思うわよ」


かおるはそういうと、スマートフォンを取り出し、連絡のチェックをし始める。

梨那は、あまり乗り気がしないという顔をしながらも、

やはり最後は父の文明にすがるしかないのかと、軽く息を吐いた。





ライトが光る東京の夜とは違う、星空の群馬にある宮崎家には、

引っ越しの予定が変わったあずさからの連絡が入り、美佐は夕食が終わった後、

母の夏子に思いを打ち明けていた。


「あずさまた、相原家に?」

「そうだって。引っ越しをするって言っていたけれど、
大家さんが急にダメだって言ったとか、なんだかよくわからない理由だった」

「契約をしたのに、ダメだなんてあるのかね」

「そうでしょう。私……あずさがウソをついているのかしらって」


美佐はお茶を飲みながら、ため息をつく。


「あの子に限って。ウソなんてつかないでしょう」

「そうかなぁ……。ねぇ、お母さんはどう思った?」

「どうって」

「相原さんのところの息子さん。岳さんだっけ?
この間、あずさを送ってくれたでしょう」


美佐は、仕事のついでだと言っていたけれど、

もしかしたら、お付き合いをしているのかしらと心配する。


「あずさがそう言ったの?」

「それとなく聞いたわよ。そうしたら違うとは言っていたけれど」


美佐は、『心配だ』とため息をつく。


「いいじゃない、それならそれで」

「冗談じゃないわよ。向こうのことを考えている?
『BEANS』っていう大きな会社の息子さんなのよ。じき社長だろうと思われる。
ご両親だって色々とお相手に思いもあるでしょうし、
あずさにはそんな家の嫁なんて無理よ」

「美佐、あんたそこまで」

「だって25なのよ、あの子。
ほら、小学校の時の同級生のなんて言ったかな。
この間、お母さんにスーパーでバッタリ会って。
娘が結婚して北海道に行ったとか、立ち話になったのよ。あずさはそういう年齢なの」


美佐は、年齢的にはおかしくないことだと夏子を見る。


「美佐……」

「何?」

「私はね、あずさが東京に行くって言って、相原家にお世話になるって決まったときから、
もしかしたらそんなこともあるかなって、思っていたけれど」

「本気で?」

「本気よ。相原さん……いや、庄吉さんだって、
そんな思いもどこかにあったのではないかって、考えていたし」


あずさが玉子と似ていると表現していた庄吉なら、

そんな夢を見ていても不思議ではないと夏子は笑う。


「無責任ね、お母さん。あずさは一人娘なのよ。そんな苦労させたくないし」

「苦労かどうかは、あずさが決めることだよ」

「でも……」


夏子は急須にお湯をいれ、それをゆっくりと回し、湯飲みにお茶を入れる。


「何も問題がないように見える家だって、色々と抱えているものなのだから。
当たり障りのないところに行けば幸せだなんて、決めたらダメだよ。
覚悟と決めて、お付き合いするのならそれでよし! 
玉子さんなら、あずさが好きにすればいいよって、言うだろうね」


そういうと、仏壇で笑っている玉子の写真を見る。


「私もお母さんも、婿取りだもの。世間的に見たらお気楽なのよ」


美佐はお茶を飲み干すと、湯飲みを置く。


「わからないから、不安なの」


美佐はそこまで言うと、湯飲みを持ち、流しに運んでしまった。

夏子はそばにいないあずさを思う、娘の気持ちを考えながら、『ふぅ』と息を吐いた。



【38-3】



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