41 進行形の関係 【41-1】

耕吉は友華の手を振り払って、自分の部屋へと行ってしまう。

友華は、立っている2人に『ごめんなさい』と頭を下げる。


「富田さん……ううん、友華ちゃんが謝ることじゃないから。
いいの、いいの。岳さんもそんなことわかっているし……」


あずさは友華にそういうと、また明日、一緒に仕事をしようねと声をかけ、

岳も優しい表情を見せると、『失礼します』と頭を下げた。

二人が車に戻ってくることに気付いた玲子は、

『ありがとうございました』と、岳とあずさにお礼を言う。


「あの……」


今度はあずさが、玲子を引き止めた。岳は、先に運転席へ戻っていく。


「何か」


あずさは、『余計なことかもしれませんが』と言い、友華が自分の体が弱いことで、

みんなの間をギクシャクさせていると思っていることを話した。


「友華が……ですか」

「はい。お父さんには、アメリカで暮らすことを諦めさせてしまったし、
お母さんにはお嫁さんの立場で、肩身の狭い思いをさせているって……」


玲子はそんなことは初めて聞くと、驚いた顔をする。


「自分の体が弱くて、治療費などもかさんだから、
おじいさんとおばあさんの土地も減ってしまったと……。
自分が富田家からいなくなれば、家族同士が寄り添えるかもしれないって……。
一人暮らしをしようかな……とも」


友華がそんなことを考えていたとは知らなかったと、玲子は不安そうな顔をする。

運転席に戻った岳は、あずさの話しを聞きながら、少し前の時間を思い出した。

友華は確かに家族のことをぼやいていたが、

内容があっているようで、違っているようにも聞こえてくる。


「あの子が、一人暮らしを」


玲子は、子供の本音を聞き、真剣な表情を見せる。


「すみません、これで失礼します」


あずさは玲子に頭を下げると、岳の車に戻り後部座席に乗る。

3人を乗せた車は、富田家の前から出発した。





猪熊は遠慮をしたものの、岳はそのまま家まで送り、待っていた奥さんに事情を話した。

家族は驚いたが、お父さんらしいと笑い、しばらくゆっくりさせますと言ってくれる。

岳は扉を閉めて、マンションの廊下を歩く。


「相原さん」


振り返ると、家に戻った猪熊が携帯を持ち、あらためて近付いてきた。


「どうしました」

「すみません、ちょっと……お話しが」


猪熊は、携帯を開き、ある写真を岳に見せた。

黒い軽自動車が、駐車場から走っていくものになっている。


「これは?」

「実は……この人が富田家の塀を乗り越えて、車で走り去ったのを見たのです」


猪熊は、今日も耕吉との面会は空振りに終わったと駅に向かっているとき、

この男性とすれ違った。何度も富田家に通っている中で、

彼が駐車場を借りている人間なことにも気付いていたが、

相手は猪熊から目をそらしたと言う。


「少し、おどおどした態度がおかしいなと思いながら歩いていたのですが、
どうも気になって、気になって」


猪熊は彼の歩く方向とは別の場所から、富田家に戻ろうとしたという。


「ちょうと駐車場の裏に出ました。そうしたらわざわざ彼が塀を飛び越えて、
それで車に乗って出て行ったから、おかしいなと」


猪熊は、車に乗るのなら、正面の入り口から入るのが普通で、

富田家に用事があったのなら、玄関側から出てくるのが普通だとそう話す。


「その後、物置から煙が立ちました」

「……じゃぁ」

「ではないかと」


猪熊は『放火』の犯人が、この彼ではないかと思っていることを話す。


「明日、警察に事情を話すつもりです。最初は怪我のこともあったし、
やたらに人を疑うのもと、そう思いましたが。
知っていて知らないふりをするというのも……」


猪熊は、わざわざここまでありがとうございましたと、あらためて頭を下げる。

岳も、『無理はしないように』と猪熊に話すと、あずさの待つ車に戻った。





「猪熊さんが見たって事ですか」

「まぁ、そういうことだ」


あずさは相原家に戻る車の中で岳から話しを聞き、驚きの顔を見せた。


「だとしたら、絶対に掴まえてもらわないと。
友華さんのおじいさんに、これ以上疑われても困りますし……いえ、
猪熊さんがかわいそうです」

「まぁ、興奮するなって。あの人は、口ほど疑ってはいないと思うな」


岳はそういうと、ウインカーを出し、車線を変更する。

通りはさらに大きくなり、車の数も増えていく。


「富田さんは口ほど強くない。猪熊のことを疑うようなことを言われて、
ここはちょっと真剣にやってやるぞと前へ出てみたら、目が泳いでいた」


岳は、そういうと軽く笑う。


「ちょっと真剣にって……」

「これ以上は言わせないぞという意思表示だ。
もっと意地の悪い人間は世の中にたくさんいるよ。そうだな、
腹黒さから言ったら、富田さんなんて、ドンの数分の1くらいだ」

「ドンって……あの。以前、お見舞いに行った」

「そう、土地の買収という話しをかぎつけるのがうまい、瀧本という男」


岳は、美味しいものばかりもらっているので、

痛風になったらしいと近況を語ってくれる。


「通風ですか」

「あぁ……」


岳は、しばらく華やかな場所には出てこないだろうと、ハンドルを右に切っていく。


「それじゃ、岳さんも口ほど怒っていなかったということですよね。
少しほっとしました。もしかしたらあのまま、噛み付くのかもしれないと」

「噛み付く? するわけないだろう。俺が噛み付いたことがあったか」

「……歯ではないですが、言葉ではあちらこちらに噛み付いてますよ」


あずさはそういうと、楽しそうに笑う。


「そういう自分こそ、友華さんが話していたことを、おおげさに伝えていただろう」

「大げさ?」

「いや、大げさどころではないな。ウソも入っていた、結構」


あずさが玲子に話していた内容を聞いていたと、今度は岳が笑う。


「どこがウソなんですか……ひどい。私、ウソはついていません。
人には感じ方があるのです。私は、友華ちゃんの言葉を、
あぁいう心の叫びだと、そう思いましたから」


あずさは、彼女はいつも家族のことを気にしていると、そう話した。

建設中の『岸田』のマンションが見えてきたため、

岳は、かけられている宣伝の看板に目を向ける。

モデルルーム公開の日付はまだ決まっていないが、

すでに問い合わせや、パンフレットの申し込みなど、積極的な人たちが動き始めている。

猪熊の思いを継いだ『BEANS』の営業マンたちが、

丁寧な仕事をしてくれるだろうと思いながら、岳はアクセルを踏んだ。



【41-2】



コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪

コメント

非公開コメント