41 進行形の関係 【41-2】

猪熊の話が終わり、そこからは無言の時間が続く。

FMから流れる音楽を聴いているのかと思ったあずさは、いつの間にか眠っていた。

メーターのそばにある時計を見ると、すでに夜の11時を回っていたため、

少しでも早く家に着いてやりたくて、スピードをあげる。

街灯が眠っているあずさの顔を、同じ感覚で照らしていくものの、

揺れが心地よかったのか、疲れがたまっていたのか、

時々聞こえる救急車のサイレンにも、あずさのまぶたが開くことはなかった。





あずさは、自分の肩を叩く感覚に、ふと目を開けた。

そこは相原家の駐車場になっている。


「あ……」

「着いたぞ」

「……はい」


思いがけない出来事に巻き込まれ、それが解決した安堵感から、気付くと眠っていた。

あずさは慌てて現実を受け入れ、目をこする。


「気持ちよさそうに寝ているから、
このまま部屋まで抱いて連れて行ってやりたいところだけれど、
東子にでも見つかったら、大騒ぎだ」


岳はそういうと、まだ目覚めきっていないあずさの顔に、微笑みかける。


「……はい」


あずさは助手席から出ると、一度大きく背伸びをした。





猪熊が持ち込んだ写真をきっかけに、ぼや騒ぎから2日後、『放火』の犯人が捕まった。

それは以前、駐車場を知り合いに『また貸し』した男で、

犯行の動機は、『大家が理不尽すぎる』という、身勝手なものだった。


「警察の人にね、おじいちゃん。話していることは正しいけれど、
もう少し言い方を優しくしないと、
今の人たちにはきつく聞こえて勘違いされやすいですよって、そう言われたの」


友華が『ザナーム』の仕事に来た日の休み時間、

一緒に昼食を食べながら、あずさは事件の話しを聞く。


「うちの人間ならすぐに言い返すけれど、相手が警察の人でしょ。
なんだかそうですねって神妙に聞いていた。おじいちゃんが小さく見えるって、
叔母さんが、別の部屋で笑いをこらえていたくらいだもの」


寿美枝がおもしろがっていたと聞き、

あずさはなんだか耕吉がかわいそうに思えてしまう。


「こっちとしては、そんなつもりもなく伝えたことが、
相手の捕らえ方で、全く違う意味を持ってしまうことがあるんだなって」

「うん……」


あずさは、コンビニで出た新商品のサンドイッチをほおばりながら、

友華が明るい顔で話しているのが嬉しくて、思わず笑ってしまう。


「あ、そうそう、ねぇ……あずさちゃんもそう」

「何?」

「話しのこと。私が一人暮らしをする計画を立てているって、
お母さんにそう言ったのでしょう」


友華は、そんなことは言っていないのにと、あずさを見る。


「そうだっけ?」


あずさは『計画的だ』という意味を込めて、軽く舌を出す。


「そうよ。それに、みんながギクシャクしているのは、私が悪いみたいなことを、
話していたって……お母さんが、私がしっかりしないからいけないのねって、
急に張り切るようになってしまって」


友華の母、玲子が、今までは我慢していた部分を小さくするべく、

積極的に大家仕事などにも取り組み始めたと話す。


「ほら、今話した通り、相手の捕らえ方で意味が変わる」


あずさは、そういうと、耕吉や玲子に語ったのは、自分なりの作戦だったと白状する。


「作戦?」

「うん」

「友華ちゃんがそんなふうに考えているってわかれば、みんなそれなりに考えるだろうし。
もし、聞かれたら、あくまでも私がそう感じて話しただけのことだって、
誤魔化すことも出来るでしょう」


友華はそうだったのかと笑い、

あずさのおかげで、少しずつ変われるかもしれないと嬉しそうに話す。


「警察の人から、猪熊さんが情報提供してくれたことも聞いたの。
さすがのおじいちゃんも、何も言わなかった」

「うん……」


あずさは、カフェオレをストローで飲みながら、

後で岳にも報告しようと、そう思っていた。





その岳は、普段なら参加しないとあるパーティーに、

広報の担当者と一緒に、出席をしていた。


『企業広告宣伝賞』


テレビや新聞、そしてインターネットなどで、企業広告を出した企業が、

どんな印象を持ってもらえたのか、問い合わせや苦情など、総合的に判断され、

各分野で毎年、表彰されるというパーティーがあった。

『BEANS』も2年連続で入賞し、

そして『エントリアビール』も3年連続で入賞を決めた。

岳は、以前、新商品発表会でも存在感のあった愁矢なら、

この場所に顔を出すのではないかと思い、グラスを持ったまま姿を探す。

顔見知りと挨拶しながら会場の中を進んでいると、

同じように他企業の社員と会話を交わす、愁矢を見つけた。

岳はゆっくりと近付く。

すると、愁矢の顔が上がり、岳と目があった。


「お久しぶりです」

「どうも……」


愁矢の顔も穏やかに思え、岳はとりあえず安心する。


「少し、お話しが出来ますか」


岳の問いかけに、愁矢は外に出ましょうかと、そう言った。



パーティー会場から外れ、二人は地上の様子が見える大きな窓のある場所に立った。

少し手前に会場の入り口があるため、ここまで来る人は、あまりいない。


「相原さんは、広告の方にも参加されているのですか」

「いえ、今日は特別に来させてもらいました。2年連続で賞をいただいていますが、
昨年は来ていません」


岳は、『今年来た』ということを強調する。


「上野さんに、お会いできるのではないかと思いましたので」


岳の言葉に、愁矢は『そうですか』と笑みを浮かべる。


「先日、『桜北大学』の同級生同士が結婚して、その二次会に参加しまして、
中村逸美さんとも、お会いしました」


岳は、愁矢の顔を見ながら、あえて逸美のことをフルネームで話す。


「私自身、自分のことをあれこれ話すのは、あまり好きではないですし、
得意なことでもありません。でも、あれだけ落ち込んでいる彼女を見たのは、
初めてではないかと思うくらい、寂しそうな表情でした」


愁矢は、岳の言葉に、思わず下を向く。


「彼女からも具体的な話しを聞いたわけではないので、
私があれこれ言う立場ではないこともわかっていますが。
もし、何か上野さんの気持ちに、ひっかかりがあるのだとしたら、
それは……絶対にないことだと、ここで宣言していきます」


岳は、愁矢が自分と逸美のことを疑い、身を引いてしまったという話しを、

悟と逸美から聞いていたため、『よりを戻すようなことはない』と間接的に言った。



【41-3】



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