42 未来の風 【42-4】

『今度の日曜日、会えませんか』



敦は家に戻ってから、涼子宛にメールを打った。

場所は涼子が指定してくれたところで構わないと文章にすると、

1時間後に『青の家』近くにある『ブラウニー』という喫茶店を指定される。

敦は、涼子が自分と会う気持ちになってくれたことが嬉しくて、

その文面を見ながら、ソファーに寝転んだ。





そして、岳にとっても、敦にとっても大切な日曜日を迎えた。

最初は、岳が運転をして行くつもりになっていたが、庄吉が出かけるのならと、

小野が運転手を立候補したため、岳とあずさを含めた4名で行くことになる。


「小野」

「はい」

「運転は変わるから、無理をしないように」

「わかっております」


助手席に岳が座り、後部座席には庄吉とあずさが座ることになった。

気持ちのいい天気だったこともあるのか、庄吉は敦に聞いていた状態よりも、

シャキッとしているように見える。


「悪かったね、あずささんまで」

「いえ、そんな。私は親に会えますし」

「あぁ、そうか、そうだね」


庄吉は、出かけられることが嬉しいのか、楽しそうに笑ってくれた。

運転手の小野は、近頃、これだけの笑顔を見るのはなかったと、岳に話す。


「そう……」

「はい。玉子さんが亡くなられてから、やはり会長も少しずつ元気を無くされていて」

「うん」


岳は、休憩をしっかりとって、無理のないように行こうと、小野に声をかけた。



庄吉は、車から見える景色を眺め続ける。

あずさは、時々、庄吉の様子を確認した。

日曜日ではあったが、それほど混雑するようなことはなく、車は順調に進む。


「岳」

「はい」

「お前が決めた埼玉の分譲地に、先に立ち寄れるか」


庄吉は、せっかくこっちに来たのだからと、岳に言った。

岳はそれならばと次のサービスエリアで小野と運転を変わり、案内すると話す。


「この年になって、仕事の一線から退いているのに、新しいものが建つと聞くと、
ワクワクしてくるものだ」


庄吉は、あずさにその場所は、

岳の、亡くなった母の実家がある場所の近くだと説明する。


「はい……岳さんから聞きました。これからどんどん便利になるでしょうけれど、
まだ緑も多くて」

「うん」


庄吉は、武彦が結婚する前に、一度織田家に行ったことがあったと昔話をし始めた。



「麻絵さんは、綺麗な人だった。偶然、取引先の社長さんに、
知り合いのお嬢さんだと紹介されて、武彦がすぐに好きになって……」

「そうでしたね……私も何度か武彦さんに、話を聞きました。
お仕事がどんなに忙しくても、麻絵さんのところに行く日だけはと……」


助手席に座る岳は、二人の会話に、まだ幼かった頃の記憶を呼び戻す。

写真もあるので、母の顔は忘れていないが、膝に抱えてもらった思い出が多いからか、

顔よりも声の方が、懐かしく感じられた。


「その地元の土地に、うちが建物を建てることになるというのも、縁なのだろう」


庄吉の言葉に、運転を続けている小野は、そうですねと相槌をした。





サービスエリアから岳が運転を代わり、

『BEANS』が分譲を決めた最初の目的地に到着した。

すでに買収の決まった『繊維工場』は、仕事を終えていて、

少しさび付いた門にはしっかりと鍵がかかっている。

後部座席の窓を開け、庄吉は目の前の景色を見た。

高度成長期を迎え、日本が建設ラッシュだった頃、

郊外に建てられた分譲マンションのニュースが、新聞紙面を賑わした。

あの頃には、ライバル企業も自分たちもこんな場所を次々に探し、

目まぐるしいくらいのマンションが建ち続けた。

庄吉は、これから日本人はもっと豊かになると信じ、

そのタイミングで会社の規模を大きくしたことを思い出す。

岳は運転席から出ると、庄吉の横に立ち、どの方角にマンションが建ち、

『豆風家』はどう向くのか、保育園の規模はどれくらいなのかと話し続ける。

庄吉はその報告を、嬉しそうに聞き、時折手を伸ばすと、

右側には何があるのか、駅までの距離はどれくらいなのかと聞いていた。


「会長と一緒に、色々な土地を見に行ったことが思い出されます」


運転手の小野は、あずさの隣に立ち、そんな昔の出来事を懐かしそうに語った。

あずさは、いつも車だったのですかと聞く。


「そうですね。電車よりも、自分のペースで進めるし、休憩をしながら、
地元のものに触れることが出来るからと、会長はいつも車でした。
まぁ、もちろん東北や関西くらいになれば、とても無理でしたが」


小野は、関東ならほとんどの街を見た気がすると、笑みを浮かべる。


「庄吉さんと小野さんのタッグで、素敵な『家』があちこちに出来たのですね」


あずさはそういうと、前で話を続ける2人を見る。


「いえいえ、私など……」


小野は、会長のお気持ちですと、同じように前を見る。


「庄吉さんと小野さんの築いてきたものは、これから岳さんと敦さんが引き継ぎます。
二人は全く性格が違う気もしますが、でも互いに黒を白に、
白を黒にと変えられる柔軟な部分がありますから」


あずさは『オセロの石』に見立て、岳と敦をそう表現する。


「あはは……そうですね……あずささんお上手です」

「ありがとうございます」


あずさは岳の前向きな表情を捉えながら、しばらく緑の風に吹かれていた。



【42-5】



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