42 未来の風 【42-5】

仕事に関する場所に立ち寄り、満足そうに頷いていた庄吉の顔は、

あずさにとっては以前と変わらないくらい、しっかりとして見えた。

敦が話していたというような気弱な感じは、まるで見えない。

あずさは、もうすぐですと庄吉に声をかける。

庄吉は小さく頷き、少しだけ目を閉じていた。





「今日は、ハッキリ言おうと思う」

「ハッキリ? 何を言うのよ」

「何をって。あずさはこっちに戻ってもらいます。
東京に嫁にやるつもりはありませんってことよ。だって、そんなつもりないもの」


庄吉たちが墓参りの後、立ち寄ることになっている宮崎家では、

あずさの母、美佐が、あずさたちの前で話をするつもりだと、そう気合を入れていた。

夏子は、そんなことは辞めなさいと美佐に言う。


「お母さん」

「あずさからお付き合いの話を聞いているわけでもないし……」

「だからでしょう。言われる前にって」

「美佐。もしも、二人が自然と気持ちを寄せているのなら、
それこそ、親がどうのこうの言う話ではないでしょう。
相原さんの息子さんだもの、悪い人ではないだろうし」

「そんなことはわかっています。岳さんが悪い人だなんて一言も言っていません。
私が言いたいのは、あずさには荷が重いということなの」


美佐は、日本の建設業でも数本の指に入る企業が『BEANS』で、

その跡取りになるかもしれないのが岳だと、冷静に話す。


「あの子には、そんなところに嫁にいくためのことなんて、何も教えていないもの。
そういう人たちとの付き合い方も、きちんとした礼儀とか、作法とか……」

「美佐……」

「好きだ嫌いだだけで、入り込む場所じゃないし……」


美佐は玉子の仏壇に、手を合わせる。


「とにかく、親としての思いは話しておくつもり。
もう……こういう日にはいつも旦那はいないし。お母さんは口を挟まないで。
これは母親の私が決めたことだから」


美佐はそういうと、頼んでいた和菓子を取ってくると玄関を出て行った。





「悪いな、岳」

「いいですよ。坂道は大変だから」


玉子の眠る場所に到着したものの、階段が続いていたので、岳は庄吉を背負うと、

1歩ずつ進んだ。あずさも庄吉の背中を押さえて、フォローする。


「会長。玉子さんに言われますね、ずいぶん訪れるのが遅くないですかと」


あずさの後ろから着いてくる小野は、庄吉にそういうと、軽く笑う。


「いやいや、小野。玉子さんはそんなことは言わないよ。
ここまでよく来てくれたと、きっと笑ってくれる」


庄吉の言葉を背中に受けながら、岳は口元が軽く動く。


「ここです」


あずさの言葉に、庄吉が岳の背中から下りる。

いくつかの墓石が並ぶ中に、『宮崎家』と書かれたものがあった。

あずさは持ってきた花を横に置き、少し生えてしまった雑草を取り始める。


「すぐに、お水を入れてきます」

「いいよ、俺が行く」


岳は、バケツと水道のある場所を確認し、離れていった。

庄吉はゆっくりと前に進み、小野は持っていた簡易椅子をそばに置く。


「玉子さん……あなたに会いに来ました」


庄吉はそういうと、そばで雑草を取り、袋にまとめているあずさを見る。


「あなたの……大事なあずささんのおかげで、
相原家には、あなたが私のそばにいた頃のような、素敵な風が吹きました。
息苦しい戦争の時代から、私もあなたも、必死にもがいて生きてきましたが、
未来を託す若いものたちが、今、しっかりと地を踏みしめてくれています」


庄吉は、玉子の眠っている墓石を左手でそっとなでる。

水を入れにいった岳が、ゆっくりと戻ってきた。


「健康にだけは自信を持っていた私も、この年には逆らえず、
少し体調を崩しましてね。しばらく休んでいました。
でも、朝夕の寒さも気にならなくなり、ようやく穏やかな気持ちで来られました」


庄吉はそういうと、『失礼しますね』とお墓に声をかける。

小野が出してくれた椅子に、ゆっくりと腰掛けた。

岳は、庄吉が後ろに下がったのを待ち、前に出る。


「はい」

「すみません」


あずさは花のビニールなどを取ると、バケツから花立に水をいれ、花を分ける。


「玉子さん、庄吉さんと岳さんと、小野さんが来てくれたんだよ。
ちゃんと顔を見ていますか? もしかしたら、この時間は、居眠り中かもしれないね」


あずさは、『橙の家』でも、いつも昼くらいには眠っていたからと笑う。


「あぁ、そうですか。玉子さんは昔から働き者だから、
若い頃に頑張ったツケが、居眠りに出てしまうのでしょう」


庄吉はそういうと、岳に線香を出して欲しいと声をかける。

4人はそれぞれ線香をあげ、手を合わせると、玉子と語り合った。





玉子のお墓参りを終えて、庄吉たちが向かったのは、宮崎家だった。

庄吉がこの場所に来るのは、あずさが東京に向かう前のことになる。

運転手である小野は、自分は車の中で待ちますと強く訴えたが、

夏子がそれだとみなさんが気になってしまうからと、家へ迎え入れる。


「申し訳ありません、私まで」

「そんなことないですよ。小野さんには私もお世話になりましたし」


あずさは、東京に出たばかりの頃、

小野が杏奈のマンションまで連れて行ってくれたと、夏子と美佐に話す。


「そうですか。申し訳ないですね」


夏子は、東京は道路事情も複雑ですからねと、小野に話す。


「一方通行とか、色々ですから」


小野はそういうと、部屋の隅に座る。


「相原さん、長い時間車に乗られていたのですから、
よかったら、少し隣で横になりませんか?」


夏子は、隣に布団を出すので、少し横になった方がいいのではと声をかける。


「いえいえ、大丈夫です。今日、ここに来るのを楽しみにしておりましたので。
みなさんと同じ場所に、いさせてください」


庄吉はそういうと、玉子のいる仏壇を見る。

玉子が好きでよく食べていたという、近所の和菓子屋で買った、最中が置いてあった。


「前回、ここに立ち寄らせていただいたのは、
『橙の家』で玉子さんにお会いしたあとでした。あずささんが東京に行くことになると、
話しているのを聞きながら、よかったと……」


庄吉は、座っている座布団から降りると、夏子と美佐に深々と頭を下げた。★





【ももんたのひとりごと】

『染物教室など』

以前、私の親戚が入っていた老人ホームでも、こういった『教室』ものを、
あれこれ開いていました。染物や編み物それにパズルなど、指先を使うことは、
老化防止にも非常にいいそうです。昔の童謡を歌ってみたり、
タンバリンなどでリズムを取ったりすることも、脳に刺激を与えられるので、
いいそうですよ。私が見学したときも、みなさん楽しそうに歌っていましたから。




【43-1】



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