43 今の自分 【43-2】

「ブログを見ているときも、気になっていたし、今もそうなんだ。
涼子ちゃんが毎日を楽しそうにしていたら、
僕はそれを受け入れようと思ってここまで来た」


敦は、涼子の顔を見る。


「でも、コメントにくれた返事を見たら、とてもそんなふうには思えなかった。
もしかしたらあの日、僕にあんなことを言って、傷つけてしまったと、
涼子ちゃん自身が傷ついたままということではないのかな」


涼子からは、違うともそうだとも返事が戻らなかった。

敦は、お年寄りにも優しい涼子が、あの日、必死に自分を悪者にして、

自分の前から消えたのだと、あらためてわかる。


「昔からそうだった……涼子ちゃんは責任感の塊で」


敦は、幼稚園の頃の記憶の1ページを開く。


「発表会の練習も、人一倍頑張っていたし、ウサギ小屋の掃除も、
朝早いのに、よく手伝っていただろ」


敦の言葉に、涼子はよく覚えているねと少しだけ笑顔になる。


「覚えているよ。僕はウサギ、苦手だったからさ……」


敦はそういうと、同じように笑ってみせる。


「今は?」

「今? それはまぁ……それなりに」


敦はそういうと、涼子はウサギも犬もかわいいよとそう言い返す。


「かわいいのはわかっているけれど、いきなり飛ぶだろ、あいつ」


敦は、結構驚くよと言いながら、コーヒーに口をつけた。


「そう……あつくんとはお付き合いできないと言ってから、これでよかったと思うのに、
なんだか自分が卑怯な気がして、気持ちが重くなってしまったの。
あれだけのことを言ったのだから、染物を頑張ろうと思っても、
毎日、繰り返している生活の中で、ため息ばかりつくようになって、失敗が続いて、
先生にも怒られて……って、負のスパイラル?」

「うん」

「そうしたら、何もかもつまらないと思うようになった。
食べることも、起きることも、染物をすることも……」

「涼子ちゃん」

「あつくんの寂しそうな顔が、忘れられなかった……」


涼子はそういうと、『ごめんなさい』と頭を下げる。


「謝ることなんてないよ。僕も悪かったんだ」


自分自身、生き方に自信がなかったと、そう話す。


「涼子ちゃんの染物に対するまっすぐな態度と、宮崎さんの……
あ、そう。おじいちゃんの思い出の人のひ孫、
その人が相原家にしばらく居候していたことがあって」


敦は、涼子にあずさのことを話す。


「その人のことなら、前に聞いた気がする」


涼子の返事に、敦はそうだったかもと笑う。


「宮崎あずささんって言うのだけれど、
彼女は、普通なら無理だと諦めてしまうようなことを、なんとかしようとする人なんだ。
それが自分のエゴではなくて、周りの人のためにやろうとする。
だから、自然とその人に力があつまるというか……」


敦は、自分たちとあずさの時間を、頭の中で振り返る。


「出来ないと嘆いていないで、まずやってみること。
その人が真剣に取り組んでいることがわかれば、必ず助けてくれる人が出てくる。
そんなことを教えてもらった」


敦は、そういうと涼子を見る。


「僕よりも、兄といつもやりあっていたんだ。兄もストレスがたまるなんて、
彼女のことを話していたのに。今は完全に違っているね。
僕の予想だと……兄の相手は、おそらくその人だと思う」


敦は、『BEANS』の次期社長の相手は、大きな企業の娘でも政治家の娘でもないと、

涼子に話す。


「ストレスだって、言っていたのに?」


涼子は、千晴から聞いたのは、

『三国屋』という大きな店の娘さんだったはずと考えながら問い返す。


「うん……そう。ストレスだって言っていたけれど、
実はそれが兄自身の求めていたものなのかなと」


敦は、頭脳明晰な兄にも、全く臆せずにぶつかる人だと、あずさのことを語る。


「自分に対して、遠慮なく接してくれる人、それが兄にとっては彼女だった。
僕は、宮崎さんの人柄に思いを寄せた兄を、尊敬できる人だと本当にそう思う」


敦はそういうと、二人は今日、会長を連れてお墓参りに行っていると話す。


「お墓参りに?」

「うん……宮崎さんのひいおばあさんが亡くなったからね。
おじいさんにとっては、どうしても行きたかったみたいで」
あ、そう、『紅葉の家』を建てる『繊維工場』の跡地が埼玉にあるんだ。
近いから、そこも見てくるのではないかな」


敦の楽しそうな話を聞きながら、

涼子は、ストローで少しミルクティーを飲んだ後、優しく微笑んだ。





宮崎家では、少し遅めの昼食を食べ終えたため、

あずさは台所に立ち、使った食器を片付ける。


「あずさ……」


お皿を洗っているあずさに、美佐が声をかけた。


「何?」


あずさは水道の蛇口を止め、美佐の方を見る。


「ちょっと……いい?」


美佐は一度、茶の間の方を見た後、2階に向かう階段側に移動する。

あずさは美佐に続き、奥へ入った。

土産物の説明をしていた夏子も、そんな二人の様子を見る。


「あずさ……お母さん、あなたに聞きたいことがあるの」

「うん」


美佐はそこでひと呼吸おく。


「相原さんの息子さんと、お付き合いしているの?」


美佐の言葉に、あずさは一瞬戸惑ったが、隠すべきことでもないと思い小さく頷いた。

美佐は困惑に近い顔を見せる。


「といっても、まだ本当に始まったばかりなの。何か約束したとかはないし、
互いに気持ちが通じ合ったくらいで……」

「本気なの?」


美佐は、相原家に居候しているのとはわけが違うのだと話す。


「うん……」

「あれだけの会社を継ぐ人なのよ」

「わかっているよ」


美佐は、庄吉さんはあんなふうに言っているけれど、

武彦や浩美がどう思っているのかわからないのではないかと、心配そうに話す。


「それについては、私もわからない」

「わからない……」

「というより、今の私にはどうでもいいような気がするから」


あずさは、最終的にはどうなるのか全くわからないと、美佐に言った。



【43-3】



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