43 今の自分 【43-4】

ゆっくりと食事をした敦と涼子は、店の近くにある公園へ足を運んだ。

海の見える場所は、ウォーキングや犬の散歩など、

近所の人たちが、思い思いの時間を過ごす場所になっているように見える。


「こんなふうに日差しがあたたかいと思うのは、久しぶりかも」

「そうなの?」

「うん……先生のところから家に戻って、しばらく考えていたからなのか、
カーテンも閉めていたし、どこかもやっとした日々ばかりで」


涼子は、『頑張らないとね』と、笑って見せる。


「そんなに無理をすることはないよ。人って、毎日生きているだけでも、
結構、あれこれ頑張っているものだし」

「どういうこと?」

「『豆風家』の仕事をするようになったからなのかな。
お年寄りが色々と取り組む姿を見ると、そんなふうに思うんだ。
焦ってバタバタするより、毎日ドンと来いって気持ちでいた方が、
うまくいくような気になってさ」


人生の先輩ばかりを見ているからなのかなと、敦は笑う。


「あつくん、強いんだ」


涼子はそういうと、少しだけ表情が和らいだ。


「いや、僕は強い人間じゃないよ。強かったら『BEANS』から抜けていない。
弱いから、だから毎日どうしたらいいのかわからなかった」


相原家に入り、兄の背中を追うようにと自然と敷かれていたレール。


「祖父と父が、僕に言ってくれたんだ。我慢をしているのではないかって。
相原の家に入らなければと、必死になっている僕の気持ちに、
二人とも気付いてくれていた。本当に、兄のように『BEANS』で仕事がしたいのか、
やりたいことが他にあるのではないかって……」


敦は、『気付いてくれていた人』がいるとわかったら、

気持ちがスッと楽になったと話す。


「今日の再会が、涼子ちゃんの気持ちを、少しでも楽にしたら……いいけれど」


敦は、そういうとベンチから立ち上がる。


「涼子ちゃんがまた会ってもいいと思ってくれたら、連絡でもください。
僕はいつでも大丈夫だから」


敦は、そういうと、涼子を見る。


「いつでも……」


涼子は小さく頷き、『ありがとう』と声を出した。





あずさたちは行きとは違い、帰りは静かな車内だった。

高速道路に入り、岳が運転を変わったため、あずさも黙ったままになる。

『大丈夫』だと言っていたものの、

さすがに疲れもあるのか、庄吉は寝息を立てながら眠っていた。


「岳さん、あずささん、今日はありがとうございました」


小野は助手席に座ったまま、そう言った。

岳は、あらためてどうしたのかと小野に聞き返す。


「いえ……会長が玉子さんのお墓参りをしたいと言われるでしょうから、
それまでは私がなんとしてもと、思っていましたが、この距離を一人では、
さすがにもう、難しいなと……」


小野は、1年前は、まだ元気に走っていたのにと笑う。


「こちらこそ、すみませんでした。うちは広くないので、小野さんが窮屈だったかと」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。私の想像どおり、温かいご家族でした」


小野の言葉に、岳の口元も動く。


「そう……あずささんが東京にいらして、会長のところからお友達の家へ向かうとき、
確かこの車を見て驚かれて、電車で行きたいと言われましたよね」


小野は、友達は確か『西日暮里』でしたよねとあずさに聞く。


「はい」

「会長の乗るような高級車に、自分は乗れないからと、すぐに断られていたのを見て、
こういう方なら大丈夫だと、私は確信していましたから」


小野はそういうと、運転を続ける岳を見る。


「今だから話しますが、『橙の家』を建設すると会長がお決めになって、
土地を探して、色々と動いている中、商店街の会長さんが、
実は学校が、創立記念なのだとそう教えてくれまして……」


『豆風家』の建設を円滑に進めるためにも、地元の人たちと交流をした方がいいと思い、

庄吉は創立記念行事に参加をしたという。


「その時、あずささんが指揮者として参加されていました。
私たちを誘ってくださった商店街の会長さんが、
あれは『宮崎あずさ』さんだと教えてくれて……」


あずさの名前に、庄吉は玉子の家族ではないかと思い、さらに尋ねたという。


「そこで玉子さんのひ孫だと知り、さらに宮崎家のことを聞きました。
祖母の夏子さんには、農業指導のボランティアをしてもらったこと、
あずささんのお父さんが、地域の夏祭りで太鼓を叩いてくれること、
そして、お母さんが働き者で、いつも明るく仕事をしていることなど、
そう……宮崎家の話を、たくさん聞いたのです」


小野は、庄吉は商店街会長の話を、とても嬉しそうに聞いていたと話す。


「会長は玉子さんのことを確かによく口にします。
でも、あずささんが玉子さんに似ているからという理由だけで、
相原家にと言われたわけではないですよ。
玉子さん、夏子さん、美佐さんと引き継がれた『宮崎家』の流れを知り、
ぜひにと望まれたのです」


小野は、だからこそ、『アカデミックスポーツ』のことで、

色々とウソの噂が流れたことを気にしていたと話す。


「でも、みなさんわかってくれたと、先ほど夏子さんから伺いました。
今では、そんなことを言う人は、誰もいないと」


小野は、会長はそれを聞いて、よかったと何度も繰り返したことを教えてくれる。


「人の出会いは、偶然のようで……ただそれだけではないような気もして、
不思議なものですね」


小野の言葉に、あずさは『はい』と返事をする。


「小野……」

「はい」

「長い距離の運転は、確かに大変かもしれないが、
まだまだ、おじいさんの役には立つはずだろ」


岳はそういうと、これからは話し相手としてそばにいてやってくれと言葉をかける。


「岳さん……」

「お前が引退だなんて言ったら、おじいさんがガッカリする」


岳の言葉にあずさも『そうですよ、小野さん』と声をかける。


「……はい」


小野は、口はこのようにまだまだ達者ですと言い、楽しそうに笑い出す。

4人の車は、順調に都心に向けて進み続けた。



【43-5】



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