46 ご指名の人 【46-5】

『ウインド・ウーマン』

萩野カンナが主演を勤めるドラマの題名が発表され、

カレンダーが7月の後半に入ったある日、新作ドラマに関わる人たちが、

都内のスタジオに集められた。これからしばらく、

新人女優の手伝いをすることになったあずさも、花輪と一緒に向かうことになる。

タクシーに乗り込み、行き先を告げると、花輪は座席のクッションに身を預け、

黙ったままになる。隣に座ることになったあずさは、話しかける材料もないため、

外を見続けた。走り出してから20分くらいして、花輪が口を開く。


「宮崎さん」

「はい」

「金持ちがバックにいる生活は、楽しいか……」


あずさは花輪の言葉に、どういう意味なのかと思い振り返る。


「『BEANS』という大きな看板が、すぐそばにある生活は、楽しいのかと聞いている」


花輪はそういうと、両手を組み目を閉じる。

あずさは、花輪の嫌みとも取れるセリフが、

タクシーの床に落ちてしまうくらいの時間黙っていた。


「あの……以前から話をしていますが、私は『BEANS』の関係者ではありませんし、
今は、相原家にお世話になっているわけでもありません。
ひとりで『アパート』を借りて……」

「そんなことを聞いているわけではない。
地獄から這い上がってくる人の気持ちなど、あの家の人間たちには、
全くわからないんだろうなと……思ってね」


花輪はそういうと、目を開けてあずさを見る。


「それは、花輪さんが地獄から来たと言うことですか」

「……さぁ」


花輪はあずさから顔をそらす。

あずさは、相変わらず嫌みな人だと思いながら、また車外の景色を見続けた。



その頃、千晴も同じ場所に向かうため、車の中にいた。

運転しているのは、タクシーの運転手ではなく、岳になる。

『BEANS』を出てから20分間以上、どちらからも何も話さない時間が続く。


「無理に車を出してもらうことなど、なかったのに……」


千晴は、余りの無音状態に、自分から声を出す。


「無理も何も、同じ場所に行くわけだから、こうなるのが普通だろう」


岳はそういうと、右に曲がる。


「まさか岳が行くとは思わなかったわ。結構ヒマなのね」


千晴の嫌みな言葉に、岳はバックミラーを見る。


「ヒマなわけじゃない。間取りのチェックをすると言われて、来ただけだ」


芸能界という華やかな場所に憧れていたのだから、またそんな場所に顔を出すことを、

楽しみにしていたのだろうと思っていた千晴の顔は、

それほど明るいものではない気がしてしまう。


「そっちこそ、自分で立候補したわりには、あまり前向きな表情ではないね」


岳の言葉に、千晴は苦笑する。


「何よそれ。私のことなんて、興味もないくせに。
無理に何か考えようとする必要はないわよ。しばらく厄介者がいないから、
どうぞ、優秀な新人たちといい仕事をしてください」


千晴はそういうと、少し体を傾け、足を組む。

目の前には都心の高層ビルが、いくつも視界に入りだした。





都内から少し車を走らせた郊外にある某所。

『Pスタジオ』と呼ばれるこの場所は、『TVCテレビ』が持つ、

大きなスタジオになっている。周りを森が囲み、多少大きな音をさせても、

周りの迷惑にならないため、大掛かりなセットを組み、撮影をすることもあった。

大会議室という場所に集められた関係者は、出演の俳優人、そして業界の担当者、

今回のスポンサーなど、担当ごとに分けられ、

あずさは花輪の後ろにつき、会場の椅子に座る。

少し遅れて入った岳と千晴も、テレビ局の担当者に言われた場所に座った。


「それではみなさんもお忙しいですし、時間ですので、始めさせていただきます」


司会のアシスタントから、まずチーフディレクターが紹介され、

そしてその下になる川端が立ち上がる。


「今回、ドラマを現場で仕切る川端と申します。初の試みも多い、
期待のドラマです。みなさんのご協力をお願いします」


川端の挨拶から、出演者たちの顔見せ、そしてスポンサー関係者として、

岳と千晴が立ち上がった。あずさは岳がいることを知り、

その姿を見ようと自然と体を動かすが、隣にいる花輪の視線を感じ、

岳を見ていると思われるのが嫌で、何事もなかったかのように普通に座りなおす。


「今回、『BEANS』さんには、分譲中のマンションの間取りを、
完全に再現してもらいます。すでにセットをどうするのかという打ち合わせも
始まっていますので、よろしくお願いします」


それから協力企業として『ザナーム』の名前が登場する。

花輪が立ち上がったため、あずさも慌てて立ち上がり、今度は右奥にいた岳が、

あずさの姿を確認した。





「『萩野カンナ』です。よろしくお願いします」


岳と千晴は、主演を勤めるカンナとの関わりが多いため、

顔合わせをするために別の場所に入った。事務所のマネージャーがそばに立ち、

週のうち2日ドラマ撮影のために空けているので、

全ての予定をそこに合わせて欲しいと、言いはじめる。


「全ての……と言いますと」

「はい。『BEANS』内でのロケも、今回行う予定です。
ですので、カンナの時間に合わせて、こちらが指定する時間に、
場所を空けていただきたいのです」


マネージャーは、仕事をしているのなら、全て止めて協力してくれと、

当たり前のように手帳を見る。


「あの……」


岳が何かを言いそうになったので、千晴はその前に『わかりました』と返事をしてしまう。


「おい……」

「岳はあくまでも物件の確認に来たのでしょう。
これからずっと関わるわけではないのだから、一時の感情でもめたりするのは、
ここまで作ってきたスタッフに失礼よ」


千晴の言葉に、岳はとりあえず黙ったままになる。


「ねぇ、佐藤さん。バニラのアイスが食べたいの。すぐに買ってきて」


カンナはそういうと、説明をしているマネージャーに対して、

そばにあった財布をちらつかせた。担当マネージャーは、

話が終わってから向かいますと、声に出す。


「今しかないの。この後、すぐに取材だって聞いているから。
スタッフとの話し合いなら、私の取材が始まってからだって出来るはずでしょう。
ねぇ、早く行って!」


カンナの言葉に、マネージャーは少しこのままで待って下さいと言い残し、

言われたまま部屋を出て行ってしまう。

岳は、こんな話なら書面でも済むのではないかと思いながら、時計を見る。


「川井千晴さんって、あなたでしょ」


カンナの問いかけに、千晴は『はい』と返事をする。


「ふーん……確かに綺麗なのにね」


カンナはそういうと、そばにあった空のお弁当についていた輪ゴムを外す。


「あなたは?」


カンナは指に輪ゴムをつけ、鉄砲を持つように両手で構えた。

指につけられた輪ゴムの狙い先は、岳になる。


「ねぇ……名前」

「人に名前を尋ねる態度ではないな。君のしていることは」

「そう? 名前を聞いているだけよ。態度もなにもないわ。
それより、これがそっちに飛んでいったら、どうするつもり」


カンナはそう言いながら、構え続ける。


「それが知りたいのなら、行動してみればいい」


岳の言葉に、カンナは『クスッ』と笑みをもらし、

輪ゴムを飛ばすことなく指で取った。





【ももんたのひとりごと】

『スポンサー』

昔、学生時代に、とある活動のため『スポンサー集め』をしたことがありました。
お金を出してもらうわけですから、相手にもプラスがなければ無理になるため、
その『プラス』をどう作るのか、結構頭を悩ませました。
今回も、『BEANS』と『ザナーム』がこのスポンサーとして参加します。
あずさと岳の関わりも、またあらたなステージになると思います。




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