47 彼女の魅力 【47-3】

『アカデミックスポーツ 西東京』


花輪とあずさが向かったのは、『BEANS』にほど近い西東京の店舗だった。

入社当時、小原に聞いていたように、このジムは名前貸しをしているだけで、

オーナーは別の人物になる。しかし、『ザナーム』がその親企業として着いたため、

花輪の頼んだ撮影に対しては、快諾していた。


「宮崎あずさです。群馬のジムで、以前、受付事務をしていました」

「そうですか」


あずさは、懐かしいユニフォーム姿をしている職員たちを見ながら、

こうして働いていた頃のことを思い出していく。すると、事務所の外で、

一人の女性が手を振っていることに気がついた。


「あ……」


あずさはその女性に駆け寄ると、そのまま抱きしめる。


「小原さん」

「宮崎さん……お久しぶり!」


あずさが撮影のために顔を出すことを知った、小原延子が、西東京店舗に顔を出した。





「驚きましたよ、まさかここで会えるなんて」

「うふふ……そうでしょう。でも、宮崎さんが今度の撮影に関わるらしいという話を、
ちょこっと耳に挟んだものだから。用事を作って、出てきてみたの。
思い切りビンゴだったわ。でも、いいの? 一緒にいた……ほら、花輪さん」


小原は、花輪は先に帰ってしまったけれどと心配する。


「大丈夫ですよ。花輪さんには午前中に色々と、
1日分くらい嫌みを言われていますし……」

「エ?」

「いえいえ、大丈夫です」


あずさと小原は、久しぶりの再会だからと『アカデミックスポーツ』の店舗から、

『BEANS』の社員食堂に向かうこととなった。

歩いている二人の視界に、『Sビル』が飛び込んでくる。

作業の音が周りの迷惑にならないようにと張られている幕の向こうから、

機材の動く音だけが、二人の耳に聞こえてきた。


「思い出の場所、変わってしまうのね」


小原は、大きなビルだと思っていたのに、崩されたらあっという間だったと、

なんとか笑おうとする。


「はい……」


あずさは、『ザナーム』に入ってからここには普段来なくなっていたため、

建設工事を見るのは今日が初めてだった。

すでに建て替えの予定が、囲いに張り出されている。


「でも、こうなったら早く新しいビルが建つといいですよね。
『ミドルバンド』のみなさんも、待っているようですし」


あずさは、これから新しい日々がまた始まりますからと、前を向く。


「そうそう、1番下は喫茶店になるそうよ。そのまま地下に降りられる階段があって、
スタジオの管理もするみたい」

「喫茶店ですか……」

「『BEANS』の人たちも、使うのかしらね」


二人は現場の横を通り、そのまま『BEANS』に入る。

以前と同じように、社員食堂直通のエレベーターに乗った。



「何にする?」

「そうですね……」


二人はそれぞれ好きなものを選ぶと、会計に向かう。

小原は財布から、懐かしい『ありがとうカード』を取り出した。


「『ありがとうカード』懐かしい」

「でしょ。これ、まだ使えるの。前にこっちへ来たとき、どうかなと思って出したら、
問題なく使えてね」


小原は、他にも食べる店はあるのに、つい立ち寄ってしまうのだと笑みを見せる。


「気持ちはとってもわかります」


あずさも『ありがとうカード』の恩恵を受けると、二人は揃って窓際の席を選んだ。

小原は食べ進めながら、あずさに職場の居心地はどうだと聞いてくる。


「最初はどうなることかと思いましたけれど、今は結構問題なく」

「そう……」


小原は、ほたるもしっかりやっていると近況を報告してくれる。


「柴田社長は、ちょっとしたビジネスを始めたようよ」

「ビジネスですか」

「そう」


小原から聞いたのは、柴田が『派遣』の会社を立ち上げたというものだった。

『アカデミックスポーツ』はそれぞれのジムが個別経営ではあったが、

柴田の人柄をいいと思うトレーナーなども数人いて、今は、子供たちに体操を教えたり、

イベントでダンス指導をするような仕事を請け負っているという。


「数名でこじんまりだから、それほどの規模ではないけれどって、
でも、社長、楽しそうだった」


小原から柴田の近況も聞き出し、あずさは内心ほっとしていた。

持ち逃げ事件の責任を取り、離れていった後、どうなっているのか、

口には出さなかったものの、心配はし続けていた。


「よかった」

「うん」


社員食堂に、『BEANS』の社員たちが入り始める。

その中に岳の姿を見つけたあずさは、思わず笑顔になってしまう。


「ん?」


あずさの表情が変わったことがわかり、小原は視線を動かし、

そこに岳がいることを見つける。同僚たちと入ってきた岳も、あずさと小原に気付き、

優しく温かい笑みと会釈を返してくれた。


「『ケヴィン』よね……あれ」

「はい」

「あんなに優しい顔が出来るのね……」


小原はそういうと、『ねぇ』とあずさに聞きなおす。

あずさはそうですねと返事をすると、ドリアにスプーンを入れた。



それからもあずさと小原は互いの話をしながら盛り上がり、

気付くと1時間以上が経過していた。後から入ってきていた岳も、

すでに食堂からいなくなっている。


「あぁ、もう、話しが楽しくて」

「はい」


それでもいつまでも時を止めているわけにはいかず、

二人は重かった腰をあげ、そのまま下まで降りようとする。

小原が化粧室に行きたいと言ったので、あずさはエレベーターの前で待つことになった。

『BEANS』側の扉が開き、そこに偶然千晴が現れる。

あずさは、千晴もドラマの担当があると岳から聞いていたため、頭を下げた。

千晴は、あずさの顔を見ながら近付いてくる。


「あなた、宮崎さん……よね」

「はい」


あずさは、今回自分が『星川美佳』の付き添いになったことを話し、

よろしくお願いしますと千晴に声をかける。


「あなた……岳と付き合っているって、本当なの?」


千晴の質問は、あずさにとって予想外のものだった。



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