49 華の仕事 【49-2】

「ありがとうございます」


あずさは、紙を手に持ち、また千晴のそばに戻る。


「こういうものも必要なのですね。千晴さんがいなかったら、私、
ただ、ボーッと見ていたかもしれません」


あずさは仮の台本を広げてみる。


「どう? 『ザナーム』としては……」

「今、この仮台本をくれたスタッフさんから、シーンのチェックに関しては、
花輪さんが来て話していきましたと教えてもらいました。
私は、忙しくてここに貼り付けない花輪さんの、連絡係のようなものなので」


あずさは、『ドラマ』なのに、最初のシーンから撮るわけではないのですねと、

千晴に尋ねる。


「そうよ……ロケをするには許可もいるし、規制が厳しいでしょう」


千晴は話を黙って聞き、頷くあずさを見る。

『業界話』がそこで途切れたが、あずさは千晴に対して、その先になる話も、

また別の気になることも、話しかけてくる様子はない。


「ねぇ……」

「はい」

「岳と話をした?」


千晴は、自分があずさに意地の悪いことを言った話を、岳自身に語ったため、

その後がどうなったのか、気になっていることを聞きだそうとする。


「……はい」


あずさは、岳と1つずつ向き合って話をしていますと告げる。


「すみません、色々と気にしてもらって」


あずさの言葉に、千晴は『どういう意味なのか』と顔を見る。


「何それ」

「何って……岳さんにも言いました。こういう現場は何もわからないから、
私はいつも千晴さんのやることを見ているって。そうしたら、頷いてましたよ。
その方がいいと、岳さんも……」

「いやいや、あのね」


千晴は、自分が言いたいのは、仕事のことではなくて、

『三国屋』のお嬢さんとの婚約破棄について、どう思うのかだとあずさを見る。


「あぁ……」


あずさは『それだったのか』という表情を見せ、それについても話をしましたと、

納得済みの顔をする。


「岳さんの話を聞いて、私なりに納得しましたから。これからも一つずつ……」

「一つずつ」

「はい。二人で話し合って……」

「ねぇ、あなた、岳に遊ばれているとは、思っていないの?
自分があの男に選ばれたと、本気で思っているの?」


千晴は、『相原岳』という人間が、どういう男かわかっているのかと言いながら、

あずさを見る。


「あいつには、自分にしかわからないものさしがあるのよ。
目に入ってくるものを見て、一瞬で判断するの。その基準から漏れたような人間には、
容赦ない。傷つこうがどうなろうが、おかまいないし……」


千晴は、今まで岳にどれくらい冷たい態度をとられたかわからないと、

文句を言い続ける。


「お前がどうしてここにいるんだ……って、そういう目でばかり人を見て……」

「でも、千晴さんを頼ればいいって……」


あずさの言葉に、千晴の発言が止まる。


「頼る? 誰が誰を」

「私が千晴さんをです。何も知らないから、千晴さんが頼りだってそう言って、
岳さんもそうだなって……」

「ウソ」

「ウソではないですよ」


千晴が次の言葉を送り出そうとしたとき、主演の『萩野カンナ』が姿を見せる。

スタジオは、一瞬で華やかな空気に包まれた。





『千晴さんを頼ればいいって……』


タレントたちが打ち合わせをし、リハーサルを重ねている間も、

千晴の頭の中には、あずさの言葉が回っていた。

敦の従兄弟として、顔を出すようになってから、

岳には冷たい目で見られることはあっても、温かみのあるセリフなど、

一度もかけられたことがない。

『縁故』という言葉を利用し、一流企業に入り込んだ自分の存在を、

汚れているもののように見続けてきた視線は、長い時間、千晴の気持ちの中に、

重なっている。

『三国屋』のお嬢さんとの婚約破棄だの、複数の女性がいるだの、

あずさにとっては、聞きたくない言葉を並べ続けたのに、

言われた本人は、なぜかそれにショックを受けている様子もなく、

それどころか、頼りにしていると、自分のそばを離れない。

嫌われて当然の言葉にも関わらず、それが響かないのかと思うと、

千晴はあずさという存在に、怖ささえ感じてしまう。

アシスタントから『休憩します』の声がかかり、千晴は気持ちを現実に戻した。





「すみません、休憩時間だと言うのに……」


あずさはあらためて、美佳のそばに向かった。

花輪から、現場に残るあずさあてに、美佳に確認してほしいことと言う項目があり、

それを聞くために楽屋に顔を出す。

そこは、数名の脇役たちが一斉に使う大き目の楽屋だったため、

あずさは、『ザナーム』の宮崎ですと名前を名乗り、申し訳ありませんと中に入った。

早速、花輪からの伝言メモを美佳に渡す。


「今日から撮影なのかと思っていました。でも、リハーサルだって」

「はい。今日はリハーサルです。カメラマンとかが、どう撮るのか、
照明はどう当てるのかって、チェックをする日で」

「そうなのですか」


あずさは、業界のことなど何も知らないのでと思わず笑ったが、

周りの役者たちから視線を向けられ、『すみません』と謝罪する。


「宮崎さん」

「はい」

「宮崎さんは、ここが終わったら会社に戻るのですか?」


美佳は、今日のリハーサルが終わるのは、8時くらいだろうと時計を見る。


「いえ、今はドラマ撮影の現場に携わるのが仕事なので、
『ザナーム』のリハーサルが終わったら帰ります」


美佳はそうですかと言いながら、鏡に映っているあずさの姿を見る。


「宮崎さん……お願いがあるの」

「はい」


あずさは、何かを買って来いなどと言われるのかと思い、美佳を見る。


「今日……仕事が終わったら、一緒に行ってくれないかな」

「一緒に?」

「うん」


美佳はスタッフに呼ばれ、別の俳優が控え室から出て行くのを確認する。

楽屋は、美佳とあずさだけになった。


「萩野さんに、顔合わせだけだと交流も難しいから、一緒に食事にでも行こうって、
そう言われたの。このドラマの主演だし、一緒に盛り上げないとならないのだから、
参加するのが当たり前なのだけれど……緊張して」


美佳は、自分だけだと緊張してしまうから、一緒に行かないかとあずさを見る。


「私がですか? いや……それは……」


あずさは、自分は芸能人ではないので、それは無理だと丁寧に断った。



【49-3】



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