51 二人の特別な日 【51-5】

夜の11時過ぎ。パジャマ姿のあずさは、鏡を前に出し、化粧水をつけた。

食事も終わり、お風呂も終わり、あとは寝るだけになる。



『あずさ、26歳おめでとう』



毎年互いに送り続けている杏奈からのメールが、デコレーション状態で、

キラキラと携帯の中で輝いている。

明日もきちんと起きれるようにタイマーをセットしていると、

コンコンと扉を叩く音がした。あずさは予想外の出来事に、

ビクッと体を一瞬硬直させる。


「……はい」


今頃の時間、集金などあるわけがないしと、おそるおそる玄関に近づく。


「あずさ……俺」


聞こえてきたのは岳の声だった。

あずさはすぐに開けようとしたが、扉の小さなレンズから先に外を見る。

片目を閉じて見てみると、確かに立っていたのは岳だった。


「岳さん……」


あずさは鍵を開ける。

すると、入ってきた岳にいきなり抱きしめられた。


「こんな時間に申し訳ない。でも……会いたかった」


あずさが驚いたのはほんの一瞬で、飛び込んできた岳を包みこむように、

両手が自然と背中に向かう。


「仕事は、大丈夫ですか」

「大丈夫ではない」

「エ?」


岳はあずさと向かい合うようになる。


「大丈夫ではないんだ。だから今日は会わないでおこうと思っていた。
何もプレゼントもないし……。でも、おめでとうだけは言えるかと」


岳はそういうと、あずさの前髪に止まったピン止めに触れる。


「あ……」


あずさはそれと取ると、化粧水をつけようと思っていたのでと、

前髪を指で直していく。


「プレゼントだなんて、何もいらないですよ」


あずさの言葉に、岳はやはりそういうだろうなと、口元がゆるむ。


「落ちついてからでと言ったのも、本当に思っていたから言いました。
でも、やっぱり嬉しいですね。電話より、メールより。こうしてそこにいてくれるのは」


あずさはそういうと、思いがけないプレゼントの嬉しさに、

自らもう一度岳の胸に入り、手を回していく。


「私、26になりました」


その言葉を聞いた岳は、頷きながらあらためてあずさを抱きしめた。





東青山の相原家。

浩美はくつろいでいる武彦の前に座ると、『少しいいですか』と声をかけた。


「あぁ……どうした」

「今日、婦人会の集まりがありました。料理研究科の朝霧先生のご招待で、
そこに、『高岩建設』の小林社長の奥様もいらしていて」


浩美は、『高岩建設』とのトラブルについて、直接話があったと武彦に語る。


「奥様も、こういった離れた席なので、本音でとおっしゃっていて」

「うん」

「以前から、『BEANS』とはライバル関係にあるので、
互いに競い合うのは当たり前なのだけれど、社員同士の不満分子が、今回、
こんな形で出てしまったと」


『高岩建設』側も、実は正面きってぶつかるつもりなどなく、

互いに『落としどころ』を探していると、浩美は話す。


「落としどころか」

「えぇ……。今まで『BEANS』はどちらかというと、都心に近い場所で、
唯一にこだわるような客層を相手にしてきていると思っていたのに、『岸田』と、
次の埼玉の物件の情報を知り、『高岩建設』にも、色々と焦りがあるようで」


大衆性にこだわってきた『高岩建設』は、

テリトリーに、積極的に入ってきているような『BEANS』に対し、

どれくらいのやる気があるのか、見ているようだと、さらに話し続ける。


「奥様も、競い合うのは当然だからあれこれ揉めることではないのだけれど、
今回のようなことがあったからには、一度、形を整えてもらえないかと」


『形』と言うのは、正式な場を作り、

しっかりとした相手にとりもってもらうことという意味だと、説明する。


「『高岩建設』側も、
『さざなみ銀行』の松本さんにと思い、声をかけられたそうなのですが、
松本さんから、業界を離れている立場の人がいいのではと、そう言われたようで」

「うん……」

「具体的に『三国屋』の青木会長のお名前を」


浩美の言葉に、武彦は目を閉じた。





【ももんたのひとりごと】

『タイトルの『の』』

登場人物の名前同様、どうしましょうと悩むのが『タイトル』です。
内容が少し染み出しながらも、わかりきられてしまうと、つまらないし。
今回は『の』を全てに入れています。『~の~』というようにね。
私の一番最初の創作、『リミット』方式、とでも言うのでしょうか(笑)




【52-1】



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