52 本当の心 【52-4】

『Pスタジオ』

あずさが到着すると、スタッフから声をかけられた。


「星川さんが、姿を見かけたら楽屋にって」

「私ですか」

「うん」


あずさは撮影の始まる前にと思い、美佳の楽屋へ向かう。

扉の前の名前を確認すると、軽くノックをした。

中からどうぞと声がかかる。


「おはようございます」


あずさが扉を開くと、すでに衣装に着替えた美佳が、明るい笑顔で出迎えてくれた。


「宮崎さん、ここに座って」

「あの……」


あずさは口うるさいマネージャーがいないかと、周りを見る。


「マネージャーさんなら、今日はいないから。
それに、私が宮崎さんと話しをするということも、知っているし」


美佳の言葉に、あずさはそれならとパイプ椅子に座る。


「ごめんなさいね、色々と。私のせいで迷惑をかけて」

「ううん……」


あずさは『仕事はどうしたのか』という疑問符を持ちながらも、

自分から聞きだすことではない気がして黙ってしまう。


「あの日、川端さんから言われた仕事、私、やることにした」


美佳はそういうと、チャレンジだと笑顔を見せる。


「うん……」


内容がどういったもので、どういうことをするのか聞いていたため、

あずさは素直によかったねと言えなくなる。


「迷っていたけれど、自分で決めた。ひとつのきっかけにして、
自分がどこまでやれるのか、試してみたいの」


美佳の言葉に、あずさは小さく頷く。


「原作も見て、ベッドシーンが重要だと言うことも知った。私の姿を見て、
より話に入り込んでもらえるのなら、それは成功だと思うし。
今、逃げ出して、他の人にチャンスを与えたら、一生後悔すると思うから」


美佳の決意を、あずさは聞き続ける。


「演じることが楽しいと、今、撮影していてもそう思うの。
だから、そういうシーンだと、そこだけ浮かべちゃうと、妙だけれど、
話に入り込めば、自分でも思い切り脱げる気がする」


美佳は、頑張るという宣言を、あずさにしたかったと笑顔を見せる。


「星川さんが、自分で決めたことですよね」

「うん、誰にも無理には言われていない」

「だったら……応援します」


あずさは、『頑張って』とエールを送り、美佳を見る。

美佳の笑顔は、本当に吹っ切れているように思え、最初に感じていた違和感は、

いつのまにかあずさの中から消えていた。



撮影があるということで楽屋を出た後、あずさは美佳の演技を見ながら、

少し前の決断を思い返していた。女優と言う仕事は、そういうものだと思いながらも、

知らない人たちの前で自分の裸を見せるという内容に、驚きを隠せなかった。

しかし、立場が違えば感覚も違うはずなので、それはおかしいなどと言えないことも、

わかっている。


「宮崎さん」


あずさが振り返ると、そこに立っていたのは千晴だった。


「会社の不利益だからあなたは外れたと、前に聞いたけれど」


千晴は、以前ここに花輪が来た時、そんな話をしていたがとあずさに聞き返す。


「はい。そうみたいですが、また変わったようで」


あずさは、花輪さんが忙しくなったのかもしれませんと、返事をする。


「ふーん」


千晴はあずさの顔を見ながら、

『高岩建設』と『BEANS』のトラブルについてのことを思い出すが、

あえて触れないまま、その場に立ち続ける。


「いえ、違いますね」

「何?」

「花輪さんには、なかなか認めてもらえないんです」


あずさは、先日、美佳と雄哉との打ち合わせに何も知らずに出かけてしまい、

寝てしまうことになったところを、千晴が助けてくれたと言う事実があったため、

頼りに出来る先輩と、話しをしているような気分だった。

そのため、つい、花輪とのいざこざを語ってしまう。


「何をしても、『BEANS』の名前を出されてしまって。それは違いますと言っても、
受け入れてもらえないというか……」


あずさは、仕事をこなすことで認めてもらおうとしているものの、

なかなかそれが花輪に届かないと、苦笑する。

千晴は、あずさの話を聞きながら、『もしも……』の事態を、思い浮かべる。


『高岩建設』と『BEANS』


互いに大きな企業であるため、ぶつかり合ったときの反発も大きいことは予想できた。

昔、芸能界の中にいたときにも、大きな事務所同士のいざこざや、

抱えたタレントの付き合いについてなど、常に力のある方が上からものを言い、

『世の中の常識』など、どこかに置き忘れた状態で結論が出されていく。

誰かに責任を取らせなければならないとき、決まって名前があがるのは、

『力の弱いもの』だったことも、千晴は見続けてきた。


「ねぇ……ちょっといい」

「……はい」


千晴はあずさの腕を引っ張ると、そのまま廊下をどんどん進んだ。

あずさは急に勢いをつけたように歩く千晴の態度に、不安が増していく。


「千晴さん、あの」

「いいから、とにかく来て」


千晴はあずさの手を引いたまま、長い廊下を進み続けた。





『青木会長を差し置いて、私が出るというのも』



武彦は、安藤とは別の視点で、仲介役となるべき財界人を探していた。

しかし、この先も互いの立場に中立を保てる人物と、ある程度の規制があるため、

なかなか人選がうまく行かない。

浩美からの電話で、副社長の安藤がすでに

『青木会長』へ打診しているのではないかという話も聞いていたが、

それを確認してしまうことで、『決定事項』になる気がしてしまう。

武彦は確認しないとならない書類をデスクに置くと、確実に進んでいく時計の針を見た。





「『三国屋』ですか」

「そう……」


『高岩建設』とのいざこざについては、あずさが岳から聞いていたことを知り、

千晴は、その仲介役として『三国屋』の青木会長の名前が挙がっていることを話した。

あずさは黙って聞き続ける。


「大きな企業同士だと、互いにぶつからないよう、バランスを保つ必要があるの。
特に『高岩建設』は老舗でしょ。プライドが高いから」


千晴は、互いの業界に縁がなく、それでいて経済的にも匹敵する人物でないと、

間を保てないとあずさに説明する。


「『三国屋』の青木会長なら、経済界での顔の広さも問題はないし。
実際、親戚の方も政治家になっていて、裾が広いのよ。武彦おじさんは、
岳とのことがあるから、青木会長には話が出来ないと別の人を探しているようだけれど、
副社長は、青木会長ほどの適任者はいないと、もう先に打診しているみたい」


あずさは『リクチュール』のスーツを買いに行った日、

岳の隣に立った女性を思い出した。



【52-5】



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