1 運命の出会い 【アイ・オープナー】 ①

1 運命の出会い

1-①


あと10分……



私は何もするべきことがない時間を、ただ無駄に過ごす。

『雑誌編集』という仕事柄なのか、これほど遅い時間になっても、

社内では特に異様な雰囲気は感じられない。

むしろ、原稿の入りを朝まで待ったとか、印刷所に駆け込んだとか、

どこか世の中とズレていることをうれしそうに話す人が多い場所のため、

誰もが、普通に日付変更線を越していた。



そう……あと7分。



スマートフォンを持つのが当たり前の時代となった今、

その小さな機械は、携帯以外の分野にまで、大きな改革を要求してきた。

カメラはもちろん、パソコン、そして……

個人で持てる精密機械は、『趣味』という分野を、明るい『アウトドア』から、

どんどん『地下路線』へと道を広げていく。

発売日を待ち、電車の中で読み続けるのが漫画だった時代は、もうはるか前になり、

今は『電子書籍』という分野が力を持ち出した。

スマートフォンが1台あれば、ファッション雑誌も、経済誌も読むことが出来る。

いや、どんな分野の雑誌や本でも、店員と顔を合わせて会計をする必要が無いため、

手に入れることに、抵抗感がなくなったと言えるかもしれない。

そうなると、今まで、『買うことをためらったもの』、『他人には見せたくない』ものを、

『趣味』として密かに読む人が増えた。

人に勧めることなどないから、ベストセラーにはならないけれど、

確実に求められているもの。



実際の恋愛なんて、たかが知れているから……

ただ毎日、欲望だけに明け暮れるなど、無理であることもわかっているから……



いい男にとことん愛され、壊されそうになる話に、現実の仕事に疲れた女たちは、

どこか憧れを抱きながら、ひとり『チュウハイ』を飲む。

そんな密やかな時間が『趣味』と言えるのか……

まぁ、そもそも趣味など、他人には理解できないことも多いのだから。

あまり深く考えるのは、やめておこう。



午前0時15分、ここで終了。



私は、ここからどう頑張っても、『終電』には間に合わなくなったことを時計で確認し、

しょうがないなという顔をしながら編集部を出る。

でも、会社の前に待ち構えているタクシーは無視して歩いた。

ここから数分の場所にある、『オアシス』を目指して。



インターフォンを鳴らすと、しばらく無音の時間がくる。

その後、『はい』と声がした。


「ごめんね、私」


この時間に訪れるときは、決まって『ごめんね』と挨拶をする。

確かに、人様の家に向かうには、非常識な時間だ。


「……おいおい」


これもまた決まった返事。でも、オートロックのマンションの扉は、

訪問を当たり前のように受け入れ、大きく開く。

私はそのまま3階にある、部屋を目指した。

ついたことがわかるように扉をノックすると、

開けてくれた男は、眠たそうな顔を見せる。


「未央、お前、わざとだろ」

「どうしてわざとなのよ。締め切り前だからもしかしてと話していたでしょう。
私だって困っているのよ。ここまでかかると思わずに。本当に予定外なの」



……いや……実は、計算していた。



「ねぇ、寝ていたの?」

「当たり前だろ、何時だと思っているんだ」

「何時って、まだ1時にはなっていないでしょう」

「は? 何を簡単に。あのさぁ、日付が変わったんだぞ、
お前、大学を卒業した編集者なのに、一般常識も知らないのか」


『岡野啓太』

家族が週末になると繰り出す、『ファミリーレストラン』の『コレック』で、

啓太はSDという名のポジションについている。

『コレック』は関東地方、主に都内を中心に35店舗展開していて、

それを社内10名の『SD サービスディレクター』が管理している。

詳しくは知らないけれど、パートやアルバイト、料理人などをまとめ、

お店を動かしているらしい。


「ねぇ……ここまで歩いたからノドが渇いた、何か飲むね」


私は自分の家ではないのに、勝手に冷蔵庫を開けると、

中から『小さなサイダー』を取り出した。小振りの缶なので、飲みきりサイズに見える。


「これ、いいサイズね」

「ん? あぁ」


啓太は、だからどうなのだということは何も言わず、

そのまま大き目のソファーに腰かけた。テレビをつけると、昔の洋画なのか、

白黒の映画が放送されている。

私は、缶を持ったまま、その横に座る。

空いている左手を、啓太の右の太ももに乗せた。


「なんの映画?」

「さぁ……今つけたからな」


啓太は、私が乗せた手をちらっと見た。

そして、私の首に腕を絡め、自分の方へ引き寄せようとする。


「あ……ちょっと……こぼれそう」



『始まる』。

そう思ったけれど、嫌がったふりだけ一応してみせる。

だって……



「文句を言うな。未央に起こされたんだぞ」


当然のように、啓太の手が、私の胸元に向かった。

外されていくボタン、何をしているのと言い返すつもりが、

体が待っていたと語ってしまう。望んだ指先が、すぐに私の触れて欲しい場所に届く。


「終電……わざと見送っただろ」


啓太の優しい声が、私の耳に触れた。

そう、私は終電を見送った。それはここへ来たかったから。

ここへ来て、啓太に抱かれたくて、仕方がなかったから。


「本当に今、忙しいのよ」


啓太の指が、『計画的な見送り』を確認するように、

私の胸の先に伸び、小さないたずらをする。

何かを見抜いたのか、口元が動く。


「よく言うよ」


視線で缶を置くように指示された私は、そこから言い返すことなく指示に従った。



1-②




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

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ありがとうございます

拍手コメントさん、こんばんは
まずは、『素顔のままで』のコメントから

>あずさの個性がよかったです。
 岳にいい子と巡り合えてよかったねと言ってあげたいおばちゃんです(笑)

ありがとうございます。
あずさのポンポンと思うことを言う性格には、
みなさんから『いいよ』のコメントをよくいただきました。
岳いわく、『ポイントがずれている』人なのですが(笑)
長い連載に、お付き合いありがとうございました。


>『プレラブ』は大人のにおいがプンプンですね^^;
 毎日の就寝前のお楽しみのお話~ いつもありがとうございます!!

そうなんですよ、みなさんどう感じるかなと、
本音を言うと、おっかなびっくりですが。
まぁ、色々あるからこその発芽室と言うことで、
ぜひ、お付き合いください。
寝る前のお楽しみと言っていただけると、
私のお楽しみも、続くことになります(笑)

これからも、お気楽に遊びに来てくださいね。