1 運命の出会い 【アイ・オープナー】 ②

1ー②


くだらないことに、時間を使うのは無駄。

私たちは、この時間が当たり前なのだと思っている。

唇が重なり、絡みあった舌先。息苦しくなるくらい、啓太が私に入り込む。

思わず『少し待って』と左手が動く。

啓太はその左手を、『待てないよ』とわかる場所へ連れて行く。

この先を望んでいるのは、私だけではないのだと……。

そして自分の手は、私の心を読み取るために、さらに下へ向かわせて……


「ねぇ……」

「ん?」

「このソファーって、よく考えると、意味なく広いよね」

「意味なく? 意味あるだろう」


ブラウスの残りのボタンが外され、下着のホックも勢いよく外れていく。

自分の胸が揺れたとわかったとき、あっという間に体勢が変わっていた。

啓太に愛され、導かれるのを待っている私の身体は、期待への熱に満たされ、

ほんのりと赤くなっていく。


「未央……」


次に何をするのか、どうすればさらに先へと進めるのか、

互いにわかっているからこそ、じらしたりウソをつくことなく要求する。

啓太を裸にして、私はこの後、自分自身が満足できるための準備をする。

テレビから聞こえてくる、意味のわからない英語のセリフと、私たちの吐息が重なり、

なぜだかさらに気持ちが前向きだった。

しばらくすると、啓太に『次へ……』と目で合図され、

私はソファーに自ら横になる。

脚の向こうにいる啓太、そして自分から出て行く声。

今日頑張ってきた仕事の全てが、今、このためにある気がしてしまう。

川口編集長のくだらないお小言も、読者からの身勝手な要求も、もうどうでもいい。

啓太の舌先と指先の送り出すリズムに、最初は従っていたが、

もっと素敵な時間を知っているだけに、まどろっこしくなった。


「啓太……もういい!」


私はそういうと、啓太に向かって両手を伸ばす。

私の脚の向こう側にいた啓太は、その手を掴むと、頷いてくれた。

押し寄せる感覚と、確かな快感。

世の中には『男と女』しかいない。先生たちの描く漫画でも、いつもそうだった。

『愛している』の先には、互いに求めるものがあり……



行き着く場所は、同じ……



でも……

私は、行きつく場所にたどり着くのは、

『愛している』の先だけではないことに、近頃気付いている。



私の上で、揺れている啓太。

私も、自分自身がもっと高みを知りたくて、自然と腰を上げる。

私たちはいつも、同等なのだ。

愛しているとか愛されているとか、与えたりもらったりする関係ではない。



ただ、『それだけ』の関係なのだから。





啓太に出会ったのは、去年の12月のことだった。

3年付き合っていた男『山下陽平』と、その日、別れることになり、

私はその見事なくらい身勝手な言い分に、何も言い返せないままになっていた。

私の性格が、いい意味でも悪い意味でもサバッとしているのが悪かったのか、

陽平はそれほど起用ではないと、思い込んでいたのか、

3年間のうち、2年も『二股』をかけられていて、その相手が妊娠をしたため、

責任を取ることにしたのだと、いきなり切り出された。


「責任?」

「あぁ……俺の決断だ」


『責任を取る』というかっこいいセリフを残し、あいつは席を立ったが、

3年という時間を重ねた私には、何も『責任』を取らなかった。

あまりにも矛盾していて、あまりにもバカにされている。

このまま恨みの文章でも書いて、毎日家に送りつけようかと思っていたが、

それをするために時間を使う自分自身を考えると、ただただ惨めに思え、

『数年間』を忘れてしまいたかった私は、徹底的に酔ってしまおうと、

ふと目に入った店の扉を開けた。



『ブルーストーン』



「ウイスキーのロック」


ゲームのリセットのように、全てを書き変えることが出来たら、

それで気分が紛れるのだろうが、やり方を知らない私は、ただ、

酔い続けることで、『忘れている』しか、出来なかった。

人間の体は、自分の思い通りにならないこともある。

身勝手な男のことを忘れていくうちに、自分が今、いる場所のことも、

どれくらい飲んだのかも、『忘れていく』。

覚えているのは、人が店からだんだん減っていったこと、

自分がカウンターに座っていたこと。そこから見えた啓太が、

別のテーブルに女性と座っていて、なんだか話をしていたということだけ。

店内には、啓太以外にも男性客が数人いた。

でも、私の目に入ったのは、啓太のことだけだった。

その理由はただ一つ。明らかに他の男たちとは違っていたからだ。

肩幅があり、私にはない胸板。確かセーターを着ていたと思うけれど、

着膨れとはいえないスタイルのよさが、目の前にあった。

3年間、『愛している』と思っていた男とは、正反対の姿だったからかもしれない。

前に座っていた女性の方は、必死に言葉を送り出しているのに、

啓太は何も語らないままで、飲み物も全く手をつけていなかった。

私は、視線を啓太に向け続けたまま、同じものを頼み続け、ただグラスに口をつける。

飲む店に入っているのに、全く減らない中身。

男の前にあるお酒は氷が溶け始め、店員が作ったときよりも、

絶対に味が落ちているだろうなと予想できた。

自ら注文したのに、無視されっぱなしのお酒が、男に捨てられた自分に思えてくる。


『あの男が飲み物を飲んだら、私はまた頑張れる』


とだけ思い続け、勝手に視線を送り続けた。

それまでは、何があっても、酔いつぶれそうになってもこの席を立たない。

決めていたのはそれだけだったのに、気付くと、自分の体がホテルの中にあって、

隣に寝ていたのが、裸の啓太だということだけがわかり、飛び起きる。


「何、どういうこと、やだ!」


慌ててケットを両手で持ち、自分の体を隠してみるが、啓太は動じることなく、

体を横にして、頭を腕で支えながら、私を見つめている。


「何慌てているんだ。どういうこと? 君は、俺をはめたのか」

「はめた?」


酔いが少し覚めた気持ちになっていたが、慌てて起き上がったからだろうか、

明らかに頭がクラクラした。ふらついたところを啓太につかまれる。


「ちょっと、何するのよ」


私は『知らない男』の手を、思い切り振り切ってみせる。


「今更、何言ってるんだ。少し前までうれしそうに声を出していたくせに」


言い返そうとしたが、言い返せなかった。

ホテルのベッド。裸の二人。経験値はそれほど高くはないが、

なんとなく自分の中に残る余韻。

どう考えても、相手のほうが正しそうな気がする。


「あの……あなた、『ブルーストーン』で飲んでいましたよね」

「あぁ……」

「いや、飲んでいませんでしたよね、あなた」

「……かもしれない」

「どうして……」


なぜだろう、こんなところに私を連れ込んで、

どうしてここにいるのかもわからない状態なのに、裸にされて。

人を責め立てるつもりだったのに、言葉を送り出せば出すほど、自分が情けなかった。

いくら失恋したとはいえ、相手に裏切られたとはいえ、今日初めて会った男と、

記憶にもないような体の関係を結ぶなんて、あまりにも惨めだ。

飲もうと思っていた、酔いつぶれてもいいと思っていた。


しかし、こんなことをしようと、決めていたわけではないのに。


「俺のことをじっと見ていたのは君の方だ。うつろな目で」


啓太は、裸のまま私に向かって偉そうにそう言った。



1-③




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