3 視線を感じて 【ビジュー】 ②

3-②


「すみません、驚かせてしまって」

「いえ……」


いいえ、驚きすぎてどうしたらいいのかわからないです。

私は、いつも二人で触れ合っている大きなソファーに、啓太がケットを運び、

枕を運んでいるのを見た。そして、奥にあるベッドには、

なぜかスーツケースが一つだけ、置いてある。

色は『ピンク』。間違いなく啓太のではなく、目の前にいる彼女のだろう。


「『細川香澄』と言います。岡野SDが働いている『コレック』の『池丘店』で、
アルバイトをしている学生です」

「……はい」


目がパッチリしていて、かわいらしい。

こんなウエイトレスさんがいたら、通ってくれる男子学生もいそうな気がする。


「ちょっと彼女には事情があって、家に戻っていないんだ。で、友達の家とか、
色々と渡り歩いていたけれど、それも長くは続けられないからね」

「事情?」


私は、思わず聞き返していた。

いくらバイト先の上司とはいえ、

アルバイトの女の子を自宅に泊めなければならない仕事など、あるのだろうか。

向こうにある、旅慣れたようなスーツケース。

『3日』という決め事を作ったのは、

彼女との時間を邪魔されたくなかったからではないかと、

どんどん空想が膨らんでしまう。


「父と折り合いが悪くて、家に戻っていないんです。
戻りたくもないので、それでいいと言っているのに、SDがダメだって、
おせっかいをしてくれるものですから」


丁寧に話しているようで、失礼な言い方にも聞こえてくる。

啓太が自らの意思で、自分をここに置こうとしていると、

私、目の前の女子大生に言われているのだろうか。


「SD、彼女さん顔がこわばっていますよ。だから言ったじゃないですか。
私のことなんてどうだっていいですよって」

「お前は意見をしなくていい。さっさと風呂に入って寝ろ」

「……はぁい」


香澄ちゃんは、啓太に強い言葉をぶつけられたのに、どこか嬉しそうで、

戸惑いっぱなしの私の横を、ハミングしながら通り過ぎた。


「未央……」

「意味がわからない。妙な芝居、する必要ある?」

「芝居?」

「そうだよね、啓太の事情も考えず、勝手に尋ねてくる私がおかしいわ、確かに」


いやいや、何を言っているのだろう。こういう時こそ冷静に、

啓太が何を思っているのか、知らないとならないのに、気持ちがまとまらない。

でも、頭は何かを言いたくて、吐き出したくてたまらなくなる。

とある言葉を発しようとして、冷静に耳を澄ます。

浴室の扉が開き、確かに閉まる音がして、

やがてシャワーの音が私に『どうぞ』と語りかけてくれた。



これから先の話を、あの子に聞かせたくはない。



「そう、私と啓太は『そういう関係』ですし、
会わない時間に対して、あれこれ言わないことと決めてましたし、
私には何かをいう資格なんて、ないでしょうけれど」


ないかもしれないけれど、これはありえなくないだろうか。

せめて、インターフォン越しに、ウソをついて欲しかった。

自分の相手が部屋に入れる、別の女に会いたいなんて趣味の人、いるのだろうか。


「あの子、しばらくいるの?」

「明日、会えることになっている」

「誰に」

「だから……」

「あぁ、もういい! イライラする」


私は名古屋のお土産をテーブルに置き、

今日は帰りますと、そのまま玄関を出て行こうとする。

この動きを予想していたのか、啓太が私の腕を、すぐにつかむ。


「未央、終電ないだろう」

「タクシー、捕まえる」

「ここには来ないよ」

「会社に戻る。戻ればどうにかなるから」

「未央……」


嫌に決まっているじゃない。『自分だけ』と、女は思いたいのだから。

たとえ、『恋人同士』ではなくても、こんな関係にあるのは、自分だけだと、

思いたいのだから。


「離してよ……啓太」


納得するまで説明するからと、そう言ってくれると思っていた。

瞬間、私の腕は下に向かう。

支えていた人の手が、引いてしまったから。



ウソ……

離しちゃうんだ。



私は引っ込むことも出来ず、そのまま玄関を開ける。

とりあえず必死に前へ進み、生ぬるい空気を、取り払おうと歩き続けた。





私は怒りのまま会社に戻り、タクシーに乗った。

とんでもない出費。

実際には残業もしていないため、全て自分で払わなければならない。

それでも部屋にたどり着き、ライトもつけないまま中に入る。

自分のベッドに倒れこみ、考えたくないことが頭に浮かぶのを必死で払おうとした。

啓太の部屋を飛び出て1時間以上経っている。

お風呂に入ったあの子が出てきて、あのイラついた女はどうしたのと、啓太に聞く。

啓太は怒って帰ったと説明し、あの子は『そうなんだ』と軽く笑う。

私が勝ったのねと、少しだけ口角を上げて。

啓太は、バスタオルに包まれたあの子の身体をじっと見て、

止めている場所を取り去ろうとする。

すると、あの子は、ライトは少し落としてと要求し、啓太は無言で頷く。

抱き上げて連れて行ってとささやくあの子。啓太は優しく微笑むと、

ベッドにあの子を落とす。


「いや! スーツケースがあった!」


そう、スーツケースがあった。そのまま身体を落としたら、ぶつかるはず。





むなしい……





私は大きく息を吐くと天井を見る。

園田さんと一緒に、眉村先生のストーリーを考えているからだろうか、

身勝手な妄想が止まらない。

でも、それほど現実と離れていない気がしてしまう。

今頃、啓太の腕の中にいるのは、あの……香澄という女子大生。

バカじゃないの、私、泣いているんですけど。

自分で勝手に考えて、自分で勝手に泣き続けている。

こんなにもろいものなのかと、自分自身に問いかける。

私は、あの男のどこを好きになっているのだろう。

答えてくれないし、女子学生は連れ込まれているし、『最悪』ばかりなのに。



今も……

会いたくて仕方がない。



あの子の後でもいいから、私を見て欲しいと思ってしまう。



自分のバカさ加減に、全身から力が抜けて、

流れる涙を拭くティッシュを、しばらく取ることも出来なかった。



3-③




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