3 視線を感じて 【ビジュー】 ⑤

3-⑤


上村さんは、『いやぁ……』と首を傾げたあと、急に真剣な目を向ける。


「中谷さんにウソをつくのは、嫌だなと」


なんだろう、この人。

どこの出身だっけ? いや、どういう人だろう。

ソフトな対応をしてくれているはずなのに、言葉だけはグイグイと前に出てくる。

近頃少し、落ち込み気味の女には、染み渡るような……


「ありがとうございます」


家庭に問題があるから、女子大生を部屋で面倒見なければならなくなったなんて、

どう考えても納得できない言葉を、当たり前のように押し出したアイツとは違って、

小さな話の中にも、形をしっかり作ろうとしてくれている。


「中谷さんは、お休みの日、どんな過ごし方をされますか」


質問したのだから、されるのは当たり前。


「基本、その日の朝、決めているようなところがあります。
天気がよかったら、外に行こうかなと考えてみたり。
そうです、お店をブラブラ歩いたり」

「あぁ……」

「天気が悪かったら、思い切って眠り貯金をしたり」

「眠り貯金?」

「すみません、編集の仕事って、締め切り前とかになると、
本当に終電に乗れないとかが、よくあるのです。だから、眠れるのなら、
眠っておこうというような……おかしな話ですけど」


上村さんはそんなことはありませんよと、笑ってくれる。


「終電に乗り遅れてしまったら、会社に泊まると言うことですか」

「あ……」


正直者の上村さんに、私はウソをついた。

『そうですね』なんて、適当に合わせてしまう。

まさか、『迎えてくれる男がいます』なんて、言えるはずもなく。


「そうか、大変だな」


運ばれてくる食事を一緒に味わいながら、互いの仕事や休みのことについて、

それからも会話は続いた。

時間は夜の9時半、上村さんが会計を済ませてくれて、一緒に駅まで向かう。


「すみません」

「いえいえ、僕はこういう時間が持てて、本当に嬉しかったので」


『花菱物産』という大手に勤め、真面目な上村さん。

私なんかを相手にしなくても、時がくればきっと、素敵な女性が現れるだろう。


「中谷さん」

「はい」

「また、会ってもらえませんか」


次に会うとき、正直に言うつもりで駅で名刺を受け取った。

あの飲み会では、言い出せなかったけれど、こんなふうに会うことが出来ても、

私はあなたを特別に見ることが出来ないのだからと。

今、言わなければ。


これ以上、優しさに甘えているのはダメ。


「ご迷惑……でしょうか」


迷惑と言うよりも、ただ、申し訳ない。


「あの……」


微妙な時間。


「わかりました。それならば期待だけさせてください」


上村さんは、少し困ったような表情を見せた私に気付いたのかもしれない。

明確な『バツ印』を望まないと、シャットアウトする。


「今はまだ、この先があるのではと、思っていたいので……」


上村さんはそういうと、丁寧に頭を下げ、改札を抜けていった。

私から連絡をすることはないだろうと、わかっての言葉だった。

私も、少し遅れて改札に入る。

彼となら、最初は戸惑っても、だんだん理解し合えるかもしれない。

少なくとも、イライラさせられたり、どうしようもないため息なんて、

つかなくてもいいかもしれない。

啓太と違い、『私を見てくれている』と思えた人だから、

私は真実を語って断ち切れなかった。



本当に、ずるくて、嫌な女。



バッグに入れておいた携帯が鳴り出し、私は相手を見る。

『啓太』の文字が、画面に浮かび上がった。

あれこれ考える前に、手が動き、通話ボタンを押す。


「はい」

『未央、今、どこにいる?』


私は駅の名前を言う。

啓太は自分が『品川』にいると言った。


『今から会えないか』


疑問符がついた台詞だけれど、私が『イエス』を出せば、

確実に手に届く時間がそこにある。あの子のこと、冷たい台詞のこと、

離された手のこと、色々と頭に浮かんだはずなのに……



私は、啓太に会うために、足を動かしていく。



指定された駅前には、どうしてそんな顔が出来るのかと思えるくらい、

明るい表情の啓太が立っていた。


「食事はした?」

「済ませた」

「そうか」


『恋人』ではない私たちだから、

この先、向かうべき場所で流れる時間を作るため、啓太の手が、私の手をつかむ。

あの子のことで、あなたの信じられない行動のおかげで、私がどれだけ不安になるのか、

そう言い返したくて、つながれた手を離そうかと、少し動かしたのに、

啓太の手は、指ごとに強い力で私をつかむ。

ベッドの上で、逆らえなくなる時間を、思い出させるような行為。

身勝手な男のやることで、ここに心もないはずなのに、

上村さんがくれた優しい言葉を、一気に飛び越えてしまう。

整えられたシーツの上で、身体を反らす自分の姿を、思い浮かべてしまう。



苦しいくらい、この人に持っていかれている。

たった数分の道のりの中で、私はすでに啓太に負けていた。





「話を聞きたい。いくらなんでもこのままは嫌」


あの子がこれからも部屋に来るのなら、正直に話して欲しい、

私もあの子も、同じように自分の相手だと、啓太が宣言するのなら、

その時、自分がどう思うのかを、この場で味わいたいと思う。


「今?」

「当たり前でしょう。こんな気持ちのまま、啓太と抱き合えない」


ホテルの部屋を取り、私は冷静でいられる間にするべきだと思い、

啓太と距離を取った。



4-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

3 【ビジュー】

★カクテル言葉は『視線を感じて』

材料は、ドライジン 1/3、シャルトリューズヴェール 1/3、スイートベルモット 1/3、
オレンジビター 1dash マラスキーノチェリー、レモンピール





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