4 ふれあいたい 【アフィニティ】 ①

4 ふれあいたい

4-①


『きちんと話して欲しい』

私の訴えを聞き、啓太はネクタイを外し、上着を目の前にある椅子にかける。


「まぁ……そうだな」


啓太は椅子に座ったので、私はベッドに腰かけた。

話を頭の中でまとめているのだろうか、なかなか言葉が出てこない。


「細川香澄は、今年の1月からバイトに入っていて、彼女の噂話を聞いたのは、
それから1ヶ月後くらいだった」


啓太の部屋にいた香澄ちゃんは、厳しい父親に反発して、大学生になった去年4月、

スーツケースを持ち、家を出たという。


「親との関係は昔から悪かったけれど、
一番問題になったのは、彼女が援助交際のようなものをしていたからだった」

「援助交際?」


私の声に、頷く啓太。

そこからさらに話は続く。

香澄ちゃんは家を出てから、カラオケボックスにバイトを決め、

その店長に頼み込んで、営業終了後の一室に寝泊まりしていたという。

最初の1ヶ月はソファーを並べて寝ていたけれど、ある日、店長に、

この状態は、経営問題になりかねないので、

宿泊はさせられなくなったと言われてしまい、

彼女はどこに行くべきなのか、迷ったという。


「それで?」

「店長は、自分のところに来ればいいと誘い、香澄はそれに従った。
薄々、どんな意味を持つのか、頭の中で納得しながら」


私は思わず下を向いた。

以前、雑誌の特集で訪れた『援助団体』の女性代表者から、

同じような話を聞いたことを思い出す。

家庭で居場所がなくなり、誘ってくれた男性の部屋に寝泊まりする女性。

恋愛対象者というのではなく、あくまでも生活のための行為。


「カラオケボックスで仕事をして、また、店長の部屋に戻って仕事をする……」


『仕事』

啓太はそう表現した。

確かに、彼女にとっては仕事かもしれない。

それによって、生活を作れているのは、事実だから。


「でも、またそれもおかしくなる。店長の彼女から目をつけられて、
当たり前だけれど、出て行けと……」


彼女にとって、その経験はマイナスになったのだろう。

私は頷きながら、啓太の話を聞く。


「ところがだ、嫌な思いを味わって、もうこりごりだと嘆くわけではなく、
次にあいつが取った行動が、別の相手を探すことだった」


覚悟さえすれば、相手さえ見つければと言う、香澄ちゃんの考え方は、

次の職場となった、啓太の勤める『コレック』でも続く。


「バイトや社員に、自分のことを話して、相手を見つける気になっていた」


大学の友人の部屋に行くこともあったそうだが、それでは生活のプラスにならなかった。

そんな怪しい動きは、SDである啓太の耳に入る。


「で、それはまずいという話をして、香澄の家に行き、親と話した。
親は、子供とはいえ、自分で決めたことだからと、
出て行った娘を受け入れるつもりもない。だから俺は、これから場所を提供すれば、
一人でしっかりやるのか問いただした。そんな時間のために、『3日』が必要だった」


啓太は、昔、自分が世話になったことがあるアパートの大家を訪ね、

香澄ちゃんのことを頼んだと話してくれた。


「『蘭』という、昔ながらのスナックの2階に、小さな4畳半の部屋があるんだ。
その店はもう、数年前に営業を終えていて、ママだった女性が隣の家に住んでいる。
だから、そこにお願いした」


啓太は、そこに昔住んでいたことがあると、話をしてくれる。


「啓太が? 4畳半に? ねぇ、いつ?」

「香澄の話をするんだろ、それるなよ」


怒られてしまった。

確かにそう言ったかもしれないが、

今まであまり聞いたことがない啓太の過去だったから、聞き逃せなかった。


「おばちゃんの急用が出来て、会う予定の日に会えなかった。
だからあの日はうちに泊めた。そこに未央が来て、勝手にいやらしいことを想像して、
怒って帰った」


最後の流れが気に入らないけれど、作り話にしては、整いすぎている。


「想像するに決まっているでしょう。スーツケースだの、女子大生だの、
あの時間に部屋にいたら、誰だって」

「まぁ、それは……だから……」


啓太は『もういいだろう』と私の腕をつかみ、身体ごと引き寄せた。

もっと色々と聞きたいことはあるけれど、啓太と同じように、私自身も思っていた。

『話はあとからでも、聞けるから』と。

そうとなれば、互いに要求は素直に出来る間柄。

私も啓太も、ベッドに流れ込むようになり、カチコチと進む針にせかされるように、

荒い息づかいをし始める。

上着も、スカートも、ストッキングさえ、どこに置いたのかわからない。

啓太の背中に手を回し、深いキスに酔っていく。

待たされた時は、いつも以上に身体を敏感にさせる。

そして私は、現状よりもまだ上へと、さらに強い刺激を求めていく。

あれだけ若い女性を部屋に泊めておいて、

『何もない』なんてとても信じられないと思っていたけれど、

もしかしたら本当に、啓太は何もしていないのではないかと、

今、抱きしめあっているこの瞬間に、思い始めている。


啓太は、明らかに違う。

私の気持ちを高めてくれるというより、今日は必死さが前に押し出されていた。

互いに同じリズムを刻みながら、思いを一つにしていくはずなのに、

いつもとは違う啓太の勢いに、押されまくっていると、

気付くと自分の身体が、無理な体勢になっていた。

高みに向かう方法は、こうだと決まっているわけではないが、

啓太の方に余裕がないなんて、今までにあまり経験したことがない。

ベッドの上部分、ライトがある場所に、私は頭をぶつけてしまうくらい、

追い込まれていく。


「啓太……」


自分で身体を動かし、もう少し落ち着ける場所へ向かおうとするが、

男と女では力が違う。

私はついに、ベッドの角に、軽く頭をぶつけてしまう。


「痛い……」


身体を重ねる大きな壁のような男の背中を、左手で数回、叩いてみた。

啓太の動きが止まる。


「ちょっと……頭が」

「あ……ごめん」


息を整えながら、あらためて互いの顔を見る。


「ごめん、未央」


啓太の顔、本当に申し訳なさそうな雰囲気が、ちゃんとわかった。

その瞬間、私は香澄ちゃんと啓太には、何もなかったと確信する。

他に誰がいるのかいないのか、全てがわかったわけではないけれど、

『ごめん』と言った男の顔を、あらためて見た。

私は啓太の頬に触れながら、口を動かす。



『好き』と。



「不器? は? 不器用ってことか」


啓太は、少しだけ不満そうな顔をしながら、

ショックを受けたのか、私の横に寝転んでしまう。

『好き』と『不器』。どうして間違えるのよ。

それでも愛しさは抑えきれなくて、私は啓太の肩に口づけ、身体を起こす。


「そんなこと言っていません」


一度首を動かし、髪の毛を後ろへと動かすと、今まで見ていた景色を変える。


「いや、そう聞こえた……」


私たちの関係は、やはり『同等』なのだからと心に誓いながら、

少し不満そうな啓太を、下向きの視線で見る。


「何、拗ねてるのよ……」


肩に手を置き、どこか不満そうな唇に、キスをする。

私は、自分の下にいる啓太を見つめながら、あらためてゆっくりと受け入れた。



4-②




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