4 ふれあいたい 【アフィニティ】 ③

4-③


次の日、眉村先生のところに行くと、いつもいる園田さんの姿が見えなかった。

用事でもあるのかと聞くと、1週間くらい休みを取っていると教えてもらう。


「珍しいですね、園田さんが長いお休みをとるなんて」

「でしょう。私のところで仕事をするようになってから、1週間は初めてかもしれない」


眉村先生はそういうと、園田さんも分岐点なのよと、そういった。


「分岐点?」

「そう……。この間、川口編集長に作品を見せて、ダメだしされたでしょ。
これからも頑張るようなことを言っていたけれど、本当のところ、気持ちがね」


35歳という年齢を考えても、区切りを決めなければならないことは、

本人の園田さんが一番わかっていた。

ぬるま湯につかったようなアシスタントを続けるのか、

いっそ、全く別の世界に向かい、二度と足をつけないようにするのか、

その決断は、園田さんしか出来ることではない。


「あきらめるというのは、難しいですよね」

「そうよ……本当に」


私は原稿をめくりながら、眉村先生の才能を感じ、

このイラストを間近に見なければならない、園田さんの気持ちを考えた。





その日は、私が夕食を調達して、啓太の部屋に向かった。

午後9時。少し遅めだけれど、互いに体が空くのはいつもこんな時間だ。


「レンジに」

「そう。急速冷凍なんだって」


眉村先生の自宅近くにある、冷凍食品の専門店。

日本のメーカーものも、もちろん揃っているが、

目を引くのは、フランスやイタリアの味を、急速冷凍という形で、海を渡らせている店。


「ボーノ!」


確かこんな言葉だったはず。


「まぁ、確かにうまいね」

「残念だけれど、『コレック』よりも上だと認める?」


意地が悪いだろうか。啓太は評価は値段とのバランスだと、負けず嫌いな発言をした。


「ねぇ、香澄ちゃん、ちゃんとしている?」

「ん? まぁ、引っ越しをさせて1週間だからさ。電話で聞いてみたけれど、
バイトが終わったら、戻ってきているようだよ」


隣に住んでいる年配女性。

彼女の昔、営業していた店の2階を、彼女が間借りした。


「啓太」

「何」

「あの子に、私たちのこと、話したのでしょう」


私は、香澄ちゃんが仕事場に来て、わざわざ私に宣言したことを啓太に語った。

啓太はペットボトルをひねりながら聞いている。


「前からさ、気になっていたのだけれど。どういう付き合い方をしようかというのは、
私たちが考えて納得していれば済むことで、
他人にあれこれ伝えることではない気がするのよね」


『恋人同士』ではないかもしれないが、関係のない他人には、

そう見えていて、まずいことなどあるだろうか。


「ないものはないから、事実はそれだろ」

「だけど……それで彼女は、あなたに対して振り向いてもらおうと思っているのに」


この間は、なんとか一線を越えずに終わったのかもしれないが、

この次、覚悟を決めた女が、どう出てくるのか、私には予想がつかない。


「からかわれているんだよ、未央。あいつが俺を好きになるなんてないから」

「どうしてそう言えるの」

「年齢も違うし」

「あぁ、もう、バカじゃないの、啓太。女の気持ちが本当にわからないのね」


20の女子学生の相手が、32の男。

全然、おかしくなんてない。


「自分のことを親身になって考えてくれているということが、香澄ちゃんの中で、
大きく膨らんでいるのかもしれないでしょう。SDという立場から、男って」


啓太は、自分を低評価しすぎている。

自信満々すぎて高飛車なのも面倒だけれど、これじゃ、本当に罠にでもはまりかねない。


「その気がないのなら、少し距離を空けなさいね」


私はそういうとフォークをパスタの上で回す。


「うるさいな、未央」


啓太は不機嫌そうに、そう言った。

自分の行動に文句を言っているのだから、確かにうるさいだろう。


「啓太ってさ、『結婚』とか考えたことないの?」


私と出会う半年前まで、誰とも付き合いがないなど考えられなかった。

32年の人生で、この人ならという思いを持ったことは一度もなかったのだろうか。


「……ないな、今までもこれからも、『結婚』というセレモニーに対しては、
なんの思いもない」


啓太が何かを言うときには、迷いがない。

最初から押し出すことを決めていたというくらい、潔く勢いよく言葉が出てくる。


「ふーん」


これだけズバッと言われてしまうと、『ふーん』という言葉以外に、

何を押し出せばいいのか、全くわからない。


「……未央」

「何?」

「そんな時間に憧れるのなら、他の男、捜せよ」


啓太はそういうと、食べ終えたお皿やコップを流しに運んでしまう。

小さなテーブルには、私だけが残される。


「アドバイスをいただかなくても、人生については自分で考えます」


ひとみのように、戸惑いながらも、互いに選んだ人と向かい合う人生。

それをいずれ本気で欲するときが来るだろうか。

啓太だからそうしたいと思っているつもりだけれど、

他の人でも、気持ちをまとめることが出来るのだろうか。

少なくとも、私の人生の1年前に、この男は存在しなかったのだから。

私はそこから何も言わずに食べ続け、啓太はリモコンで何度も番組を変えていた。



4-④




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