4 ふれあいたい 【アフィニティ】 ④

4-④


『東京駅』

私が上村さんに話があると連絡を入れてから、2週間が経過した。

返信が来るまで5日がかかっていたので、『再会』自体、

不必要なのかと思い始めていたが、なんとか日程が決まり、待ち合わせの場所に立つ。

『花菱物産』のある駅はわかっているので、

どうして『東京駅』なのだろうと考えていたら、

現れた上村さんを見て、私は慌ててしまう。

上村さんは、『どこかに出かけていました』とわかるような、スーツケースを持っていた。


「すみません」

「上村さん、もしかして出張とか」

「はい。2日前までブラジルに」

「ブラジル?」

「はい」


地球の反対側の『ブラジル』から戻ってきた上村さんは、

そのまま関西の営業部に顔を出し、数分前の新幹線で、東京に戻ってきた。

だから待ち合わせが、『東京駅』だった。


「ごめんなさい、私、そんなこと何も知らなくて」

「知らないのは当たり前ですよ。僕は何も知らせませんでしたし」

「いえ、だったら……」


だったら、疲れが取れた別の日で、全然よかった。

こんなふうに会いに来てくれた人に、これから最低の対応をする自分のことが、

益々嫌な女に思えてくる。


「見た目よりタフですから、大丈夫ですよ。中谷さんから連絡をいただけて、
日本に戻ったらお会いできると思い、スケジュールをこなしてましたから」


地球の反対側に行っても、優しい人の気持ちは変わらないのだと、

私は痛感する。


「それでしたら、今日の食事代は、私に出させてください」

「エ……」

「お願いします」


せめてもの償い。

そんな気持ちで頭を下げた。

さすがの『東京駅』。食事が出来るような店は、右にも左にもたくさんあった。

私たちは、カジュアルなレストランを選び、夜景が見える場所に案内される。

メニューを見つめ、互いに注文を済ませると、上村さんはお冷を飲んだ。


「リオデジャネイロで、オリンピックがありましたが、
その華やかさはもう感じませんでしたね」

「そうですか」



『ブラジル』は2000年代以降に経済発展を遂げた国、『BRICS』の『B』になるが、

それでも、経済大国と比べたら、まだまだと言える状態らしい。

上村さんは、大きな農場を持つ男性と、交渉ごとがあったらしく、

細かいニュアンスを伝えるのが、難しかったですと笑ってくれる。

編集部にも、色々な人が出入りして、色々な話が飛び交っているが、

上村さんの話しは、私にとって未知なことばかり。


「あ、すみません、またひとりで」

「いえ、行ったこともない国ですし、聞いているのも楽しいです」

「そうですか?」


嬉しそうな顔をされると、申し訳ない気持ちだけが、膨らんでしまい、

息をするのも辛くなる。それでも、私は決めてきたことがあるのだと、

しっかり顔を見た。

食事を終えて、コーヒーを飲む。


「上村さん」

「はい」


きちんと考えをまとめてきた。だから今、伝えなければならない。


「飲み会でお会いして、名刺をいただいたとき、すぐに追いかけましたよね」

「はい」

「あの時、実は言おうとしたことがあります」


私は一度深呼吸をする。


「実は私、『好きな人』がいます」


それまで明るい表情を見せていた上村さんが、明らかに色を変えた。

私は『ごめんなさい』と頭を下げる。


「あの瞬間は、会に誘ってくれた同僚のこととか、
私に声をかけてくれた上村さんの気持ちが申し訳なくて、そう言えませんでした。
だから、前回、伝えようと思ったのです。でも、うまい切り出し方がわからなくて」


私は、上村さんがさらに次の再会をと言ってくれたとき、

ここで断ち切るべきだと考えたことを話す。


「連絡は出来ませんと言おうとしたけれど、
上村さんがなんとなく私の迷いを察してくれて、その場を納めてくれたので、
もうこれでいいのかなと、逃げようとしました」

「はい……」


上村さんは、冷静な顔で私を見ている。

どう思われているのかわからないが、プラスの方向ではないだろう。


「でも、それは卑怯だと思えて。こうしてきちんとお会いして、
自分の気持ちを伝えなければ、いつも楽しい時間を作ってくれた上村さんに、
失礼だと思うようになって……」


くだらないほどつまらなければ、相手を傷つけることなど簡単なこと。

『不義理』をすることに躊躇がなければ、迷うこともない。


「本当に、ごめんなさい」


あなたが、大変な出張でも、私のために時間を作ってくれたその行為が、

チクチクと胸を刺した。未来を約束しないような男と、その場限りの思いに任せて、

時を過ごす女のために、無駄な時間を取らせたくなかった。


「そうでしたか」


上村さんは、小さく頷いたかと思うと、天井を見るような仕草をする。

そしてまた下を向き、数回頷いた。


「そうですよね、そうですよ、うん」


私は黙ったままになってしまう。


「うん……」


上村さんはもう一度、納得するように頷いていく。


「いやぁ……残念ですけれど、仕方がないですよね」


『残念』だと、思ってくれたことが、また切ない。


「ごめんなさい」

「いや、謝らなくていいですよ。中谷さんの謝ることではないです。
僕が、前のめりになって、勝手に先走っただけです。お話ししたとおり、
こう……女性との距離感が、つかめない男で」


上村さんは、コーヒーを飲む。


「どんな方……なのかな」


そうつぶやいた後、すぐに手を前に出す。


「いえ、それは僕が聞くようなことではないですね、失礼しました」


私は『いいえ』の意味を込めて、首を振る。

『岡野啓太』。年齢はあなたと同じ32ですが、あなたと違い、

人生の先など、何も考えてくれない男です。

自分のことなんて、最低限のことしか言わないし、面倒なことを嫌うので、

私は彼の部屋か、ホテルでしか会ったことがありません。

バイトの女の子の人生は、なぜかしっかり考えてあげるのに、

知り合い方が悪かった私の気持ちなど、見ようともしません。



あなたに比べたら、最低で、最悪で、優しさのかけらもない男ですが……



それでも……



私は、あいつが好きで、好きで、たまらないのです。



4-⑤




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