4 ふれあいたい 【アフィニティ】 ⑤

4-⑤


「中谷さん。一つだけ、お願いを聞いてもらってもいいですか」

「はい」


なんだろう。

まさかこの後……思い出作りとかなんだとか、かんだとか……


「携帯の番号ですが、残しておくことを許してもらいたいのです」


上村さんは、私の番号を携帯に残していていいかと、そう聞いてきた。

そして、自分の番号も、残しておいて欲しいと、付け加える。


「中谷さんの恋愛ですから、僕が入り込む余地はありません。でも、
人生に絶対はないので……あ、いや、この言い方は失礼かな」


私は、意味がわかるので首を振る。


「諦めが悪い男で申し訳ありません。ただ、予期せぬことが起こったり、
あなたの中で気持ちが変わるようなことがあったとき、
僕の番号を残してもらっていたら、小さな可能性だけは、残せるのかなと」


今の恋愛が、これ以上進まなくなったら、相手が信じられなくなって、

もう終わりにしたいと思うことがあったら、上村さんは、自分を思い出して欲しいと、

そう言ってくれる。


「ただ、僕もまた新しい出会いを探そうとはします。なので、この先、
中谷さんの番号を、消してしまうこともあるかもしれない」


そこまで言った後、上村さんは首を傾げた。


「なんだか、非常に失礼なことを言っている気が……」

「いえ、そうしましょう。私がもし、上村さんに連絡をしてみて、
出てもらえないときには、あなたに新しい恋が始まったと思えばいいわけですよね」


私が上村さんに連絡するより、こっちの方が数倍も確率が高いだろう。

あなたなら、見つかります。


「……はい」


少し失礼だと思ってくれるくらいの条件の方が、私にはとても楽な気がした。

上村さんは、ブラジルのお土産だと、工芸品をくれる。

編みこまれている小さな入れ物。鍵とか、入れておくにはちょうどいい。


「ありがとうございます」

「こちらこそ、正直に語ってもらえて、よかったです」


3度目の食事は、それで終了となった。

『東京駅』まで戻り、互いに別路線のため、そこで別れることになる。


「それでは」

「おやすみなさい」


駅の大きな柱にかかる時計は、夜の9時を少しだけ過ぎていた。





「こっちに、すぐ回してください。あと30分です」

「チェックしたものから、すぐに入れて」


年に数回、こういったトラブルが起こる。

色々な人たちに仕事を分散して、それをあつめて一つにする作業。

雑誌の編集とはそういったものだ。

だからこそ、誰かがリズムを崩すと、一気に雪崩が起きる。

誰も時計は見ない。見れば焦りを生むだけだ。

でも、感じる空気で本当のギリギリがどこにあるのか、

それを理解しながら、危ない道を必死に進む。

まだ出来る、まだ滑り込ませられる。

ここで集中力を切らせてしまったら、雑誌に白紙が出てしまう。



最後のひと頑張り……



「よし、よく頑張った。これでOK」


川口編集長の大きな丸印が出たことで、私たちの戦争状態は終了した。

二宮さんも、他の編集部員も、みんな机に突っ伏している。


「あぁ、もう、立ちたくないです」

「本当、本当」


足が棒のようになっているということを、自分の体で実感する。

私はスマートフォンを開き、時間を確認した。

今から電車に乗り、部屋を目指せば、解き放たれるまで1時間はかかる。

それならば別宅に向かい、何もかもを解き放った方が、絶対に効率がいいと、

そう頭が計算し始めた。


「よし、お先に」

「エ! 中谷さん、よく、足が動きますね」

「やるなら一気なの。明日は休み、じゃあね」


手だけを振っている二宮さんと別れ、私は啓太に連絡する。

道を歩きながら、呼び出しをしていると、啓太の声が聞こえてきた。


「もしもし、未央です」

『うん』

「今から、泊めてくれる?」


まだ終電前だけれど、締め切りがあって体が疲れてしまったからとそう説明する。

啓太は『わかった』とだけ返事をすると、電話を切った。

私は『オアシス』を目指す。

疲れているはずなのに、なぜかハミングが途切れなかった。

いつものようにインターフォンを鳴らし、エレベーターに乗り、部屋を目指す。

扉をノックすると、啓太が開けてくれて、私は『疲れたよ』と言いながら、

ヒールを脱いだ。


「あ……ビールの匂いがする」


明日は休み。私は冷蔵庫を開け、ビールを取る。

その時、冷蔵庫の中に、以前のような『ピンクのタッパ』という

精神的に追い込まれる異物が入っていないかどうか咄嗟に確認した。

バッグをソファーの前に置き、右手でプルを開ける。

両手で缶を持つと、半分くらいを一気に飲んだ。

うわぁ……喉がはじけていく。


「ふぅ……美味しい」


ビールが特に好きなわけではないけれど、でも、美味しい。

心地よい刺激で、疲れが少し取れていく。

再び少しだけ缶に口をつけながら、

何気なく明日の天気を気にするふりをし、部屋のカーテンを開きにいく。

奥のベッド。あの子の痕跡はないだろうかと、つい見てしまう。


「細川香澄を連れ込んではいませんから」


完全にばれていた。


「何よそれ。当たり前でしょう。私は別に……」

「視線が泳いでいるんだよ」


啓太はベッドに寝転ぶと、私を見ながらニヤリと笑う。


「他の女は、来たかもしれませんが」


何、この態度。

私はビールの缶を持ったまま、ベッドの上に乗る。


「おい、飲み物は置いて来い」

「何よ、威張って」

「威張るも何も、ここは俺の家だ」

「わかっているわよ」


私はベッドから降りると、いつものソファーに向かう。

缶をテーブルに置くと、そのままそこに寝転んだ。



5-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

4 【アフィニティ】

★カクテル言葉は『ふれあいたい』

材料は、スコッチウイスキー 1/3、スイートべルモット 1/3、ドライべルモット 1/3、
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