5 私の好奇心 【アンジェロ】 ①

5 私の好奇心

5-①


啓太の部屋……そう、ここは啓太のいる部屋。

ハミングしながらここへ来たのも、疲れている体でここへ来たのも、

自分自身が希望通りの時間を過ごしたかったからだけれど、

このまま、待っている人のところに行こうと思うのに、

なんだろう、今になって、頑張ったという疲れが体全体を巻き込んでいく。

足が棒のようだし、体全体が重たく感じる。

目を閉じたら、このまま絶対に寝てしまえると妙な自信もある。

このソファー。こうしていると、肘を置く部分がまくらになるのよね。


「おい……未央」


ベッドの上で、スタンバイOKの啓太が、私を呼びつける。

そうだよね、そうしようと思っているよね。

でも、なんだか、今日はどうだろう。

このままここで、ソファーの上で、目を閉じていたい。


「ねぇ……啓太。私、疲れているの、そう言ったよね。
ここに来るまではさ、それほどではないと思っていたのに、
今、ビールを飲んだからかな、一気に眠気がきた……ごめん、おやすみ」

「は?」


『は?』の一言。

でも、今の一言だけで、『どういうことだよ』、『俺は納得できないよ』、

『おい、未央、来いってば』の言葉が、奥に隠れているのがわかるからすごい。

でも、ごめんね啓太。悪いけれど、『眠気』がトップに君臨している。

今の啓太の魅力は、私にとって睡眠以下。

申し訳ないけれど、私はここから動かない。

まぶたが重力に逆らえないから。

その時、体にかかる何かに気付き、最後の力でうっすらと目を開ける。

啓太が私の身体に、ケットをかけてくれていた。


「啓太……」

「このまま寝たら、洋服、しわになるぞ」

「うん……」


そうなんだけれど、理解はしているけれど、実行できない。

なんとか上着だけは脱いで、その辺に置いたら、啓太がハンガーにかけてくれていた。

そのままそこからの記憶があまりない。

音も何も聞こえていない……






外で猫がケンカをし始めたのか、そのギャーという声に、目が覚める。

まだ夜だけれど、さっきまでとは静けさが違っている。

夜は夜でも、完全に真夜中になっていた。

私、あれからやっぱり寝てしまった。

真っ暗な中に啓太を探すと、セミダブルのベッドに一人眠っている。

そうか、そうだった。


「啓太……」


私はケットを手に持ったまま、啓太のところに向かう。

これ以上、しわになっては困るスカートを脱いで、横にかけると、

ぬくもりが確実にありそうな場所に潜り込んだ。

私の動きに、啓太がうっすらと目を開ける。


「起こしてごめん……だって、一人でソファー、寂しくて」


自分で寝てしまったことくらい、いくらなんでも覚えている。

余りにも眠気が強くて、動けなかった。


「本当に疲れたんだな、未央」

「うん……」


大きい啓太の手が、私の髪に触れる。

そう、疲れた。

予想外のことが起こると、パワーが全部、取られてしまうくらい、疲れ切った。

それでも、私は啓太を見る。


「ねぇ……啓太」


このままじゃ眠れない。

私は自分の手で、啓太の鼻をつまむと、細かく左右に振ってみる。

このまま朝を迎えてしまったら、朝から不機嫌になりそうな気がするのです。

啓太が私にかけてくれたケット、すごく嬉しかった。

本当はその場で、直ぐに応えたかったけれど、体が動かなかった。

今なら、動く……


「ねぇ……」


私の唇の前に、啓太の指。

黙っていろという意味だろうか。

私はその指を、軽くかんでみる。

しばらくすると、下を向いていた啓太が、体を揺らし笑い出す。


「ったく……お前は」


時計は、午前2時半を過ぎている。でも、それは数字だけのこと。

私は許されたのだと思い、啓太の首に手を回し、『お願いします』のキスをする。


「ありがとう……啓太」

「まだ何もしていないけれど」

「でも、するでしょ……これから」


啓太の腕が、『そうだよ』と私を包んでくれる。

私たちの夜は、そこから始まった。





真夜中から始まった、私たちの時間。

そして、だからこその、朝8時。

二人とも、体をまだまだ休めている。

携帯に何やら着信記録があったので、相手を見る。


「うわぁ……」


生まれたままの姿で、私は大きな声をあげた。


「なんだよ」

「帰らなくちゃ」


こんなことがあるのなら、昨日、寝たままになればよかった。

いや、違う。おとなしく部屋へ戻ればよかった。

私は、無意識に脱ぎ捨てた下着を集め、身支度を始める。


「どうした」

「実家の両親が来る。部屋に戻らないとまずい」

「急に?」

「そう、急に」


私の両親。今は新潟に住んでいる。

元はサラリーマンをして、東京に住んでいたのに、

定年退職後の過ごし方というセミナーに出席し、

米作りを学ぶということを、次の人生の中に加えるため、新潟に引っ越したのだ。

母はともかく、父はものすごく怖い。

子供の頃には、逆らって食事が抜きということも何度かあったし、

一度ケンカをすると、1週間以上、口を利かないという頑固さもある。

男の家で、裸で朝を迎えていましたなんて、そんなことがわかれば、

歴史好きの父に、趣味仲間から譲り受けた日本刀で、切り刻まれる。


「信じられないでしょう。今朝の6時だよ、このメール」

「ほぉ……」


啓太はいつものように彫刻のような体つきのまま、冷蔵庫の前に向かう。


「ほら、未央」


投げてくれたのは、缶コーヒー。私は冷たい缶をキャッチする。


「これでも飲んで、シャキッとしろって」

「うん」


私は『ありがとう』と缶を受け取ると、一度洗面台の鏡を見る。


「啓太……」

「ん?」


振り向いてくれた顔に向かって、投げキッスをしてみせる。

啓太は照れくさそうに笑いながら、『またな』と言ってくれた。



5-②




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コメント

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ありがとう

拍手コメントさん、こんばんは

>前のお話も  終わり方が、とても素敵。周りの人に語らせて
 2人の事がわかるのも----。 続きが読みたい。

まずは『素顔のままで』の感想ですね、ありがとうございます。
最終回の流れは、私も初の試みでしたが、楽しんで書けました。
二人の関わり方によって、コメントも変わってくるのが、
なんだか楽しかったです。
続きがと思ってもらえるのは、本当に嬉しいです。
書けそうな気もしますが、結構長く続けたので、出し尽くした感もあるんですよね。


>今のお話もドキドキする。がんばってね。ドレミより。

ドキドキ、嬉しいです。
これだけ『大人要素』が強いと、どうかなと迷いもありましたが、
最終話まで考えると、やはりこれくらいの流れがないとと、
勇気を出しました。
全く違うものになっていると思います。こちらとも最後までお付き合いくださいね。