5 私の好奇心 【アンジェロ】 ②

5-②


『中谷道夫』と『中谷悦子』

これが私の父と母の名前。私には3つ違いの兄『中谷奏樹』がいるが、

すでに結婚し、同じ東京に暮らしている。

というわけで、両親の今一番の楽しみは、兄のところにいる孫に会うことだけれど、

27という複雑な年齢を迎えた娘にも、それなりの興味はまだ、残っているらしい。


「はぁ……」


休みの電車。ラッシュではない。

バタバタ出てきたけれど、出来たらまだまだ啓太とまどろんでいたかった。

昨日の雰囲気もあるし、朝の目覚めもあるし、

このまま休みモードで一日中……という計画は、一気に吹っ飛んでしまう。

部屋の掃除はどうだったろう。冷蔵庫の中は、何か入っていたっけ。

父は、女は仕事より『女として生きろ』というのがポリシー。

家庭に入って、子供を産み育てている兄の嫁については、

無条件にお気に入りサインを出している。

編集という仕事を選び、忙しければ、廊下でも寝てしまうような私の生活は、

絶対に理解されないだろう。

さらに、『結婚』の予定もない相手と、好き勝手に重ねている時間など、

耳に入ったら、卒倒してしまうかもしれない。

いや、啓太が日本刀で切り刻まれる可能性もある。

絶対に隠し通さねばと、近付く駅を見ながら、考えていた。





「お父さん、座ってよ」

「そうですよ、お父さん」

「いいんだ、俺のことは放っておけ」


早起きの両親、時間通りの登場。私は二人に紅茶を出す。


「兄さんのところに行くのでしょう」

「まぁね。誕生日が近いでしょう」


兄の息子、和貴は、今月3歳になる。


「あ、そうか……」

「いや、今回はお前の方がメインだ」

「メイン?」


父の合図で、母は何やら大きめの封筒を取り出した。

嫌な予感がする。おそらく間違いないくらい嫌な予感。


「なにこれ」


一応聞いてみる。


「何って、『見合い写真』」


やはりそうだった。

母は、昔、父が勤めていた会社の上司に、娘さんの相手にどうだと、

勧められた人の写真を出してくる。


「どうして元の上司から」

「心配してくださっているのよ。お父さんが、未央は年齢が重なっているのに、
全然男性との付き合いがないって」


父も母も、色々と厳しいわりには、何もわかっていない。

あなたたちの娘は、3年付き合った男に捨てられましたし、

それから大人の関係を保つ男を見つけ、それなりに生きていますと、

言いたくなってしまう。


「人の人生に、あれこれ言わないでよ」

「何を言っているんだ。他人の娘ならともかく。お前は俺の娘だろう」

「そうだけれど」


写真のお相手は、化粧品会社の社員だった。

優秀な営業マンで、成績もよく、性格も申し分ないと言われたらしい。


「そんな好条件の人なら、彼女くらいいるでしょう」

「結婚相手はね、きちんとわかる人を選びたいというのが、ご希望だそうよ」

「わかるって何?」

「偶然に会ったりすると、その人の後ろがどうなっているのかわからないでしょう。
ご紹介で会うことになれば、どういう環境の人なのか、家族の状態とか、
それなりに知ることが出来るからって」


偶然か……

確かに、『ブルーストーン』で出合った啓太のことなど、私は何も知らない。

ご両親がどんな人なのか、兄弟はいるのか、そういえば、聞いたことがなかった。


「それにしても『見合い』はないよ。今は、仕事が忙しいの。
結婚する気もないのに、会うのは失礼でしょう」

「会ったらその気になる」


どこから身につくのかわからない自信を、たっぷり持っているのがうちの父親だった。

そんな性格を認めてしまう母がいるから、さらにおかしなことになる。


「そうですよね、毛嫌いせずにお会いしてみたら、わかるわよ」

「だから、本人に気持ちがないと言っているのに、おかしいでしょう」


おかしなところを、ここには私以外、指摘してくれる人がいない。

私は兄に聞いてみたらいいと、言ってみる。

携帯を鳴らし、これから両親を迎える準備をしている兄にヘルプを出す。

事情を聞いた兄は、私のピンチに助け舟を出してくれることを約束する。


「はい、お父さん、お兄ちゃん」


受話器を父に渡す。


「おぉ……カズは元気か」


何をされても痛くない孫。

そうだ、和貴に反対してもらおうか。私の頭はそんなことまで考える。


「ねぇ、未央」

「何?」

「お断りでもいいから、とりあえず会うだけ会ってくれない?」


母のトーンは、いつも父と同じわけではないらしい。


「元上司の方、結構うるさい方なのよ。お付き合いに進まなくてもいいから、
会わないで断るのは難しいの」


母は、電話の父を見ながら、私にお願いのポーズをする。


「いや、お母さん。お知り合いの紹介なら、会ってからお断りする方が難しくないかな」


元上司なら、今でも父の方が頭を下げる立場だろう。

新潟に行ってしまったとはいえ、付き合いというものは、そう簡単に切れることはない。


「お父さんもね、正直、迷惑だなと思っている部分もあるの。
でも、そういうことをするのがお好きな方で、今までも何度も言われていたのよ。
その人のところに、写真を持ち込む方が結構いるんだって。それで、右に左にさばく?
まぁ、そういう趣味というか……うん」


趣味……

そんな趣味、聞いたことがないけれど。

私は、少しだけ違った視線で写真を見る。


「お父さんの同僚の息子さんにも紹介していたようだけれど、結局まとまらなくて。
それでも、写真をさばいている自分がお好きなようだから、それでは次にって、
文句もなかったって」


ひとり『神経衰弱』のようなものだろうか。

写真を並べて、ひっくり返すのがただ好きだという……

ますます、わからない。


「ねぇ、未央。好きな人いるの?」


母の言葉に、思わずうなずきそうになる。


「何よ、急に」

「だって……あなたの年齢の時には、お母さん、お父さんとお付き合いしていたもの」


27歳か。確かにそうかもしれない。


「いたら、ちゃんと言うから」


言える相手との恋だったら言うからねという意味で、私は母の追及を誤魔化した。



5-③




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