5 私の好奇心 【アンジェロ】 ③

5-③


とりあえず会えばいいと言われ、両親から『見合い写真』を受け取った。

『形だけでも』と母には言われたが、父にはもちろんそんなことを言われてはいない。

元上司のお薦め、さばくことが趣味なのだと言われても、

本当に断ってもいいのだろうかと冷静に思い始める。



『松岡恒矢』



『ミルージュ』という化粧品会社の優秀な営業マン。

年齢は、32歳。

また32歳。

啓太に上村さんにそして……。世の中の32歳男性、人口多いのかな。

『お見合い写真』だからだろうか、少し身体を斜めにして決めたポーズ。

結婚相手は、ある程度色々とわかる人がいいという考え方。

ドライなようだけれど、間違っていないのかもしれない。

結婚してから、あれが違う、これが違うとなるよりも、互いに目標を持ち、

そこに向かうというのは、効率がいいといえばいい。

望んでいるのに、気付いているはずなのに、全くその気のない男を、

説得していくというギアチェンジに比べたら、全然ローパワーで走れる気がする。


「はぁ……」


それにしても、朝早くメールを寄こして来たくせに、

そう、今回の上京は私がメインだとかなんだとか、それらしきことを言っていたくせに、

両親がいたのは1時間程度だった。

宝物の孫がいる、兄の家に向かって出て行ってしまうのなら、

この写真をどこか駅前でくれたらよかったのだ。



啓太と……

一緒にいたかったな。



その日の夕方、甥っ子になる『カズ』こと『和貴』が、

『みおちゃん、お見合いガンバレ』と予想外の連絡を寄こした。





そんな休みの出来事を、どこか家の中に置いたまま、仕事に出てきた私。


「それで、締め切りについてですが……」


大事な会議のはずなのに、

朝からにやついた川口編集長の顔を、どうして見ることになるのだろう。


「ねぇ、編集長、何かあった?」


私は、隣に座る二宮さんに、それとなく聞いてみる。


「どういう意味ですか」

「だって、顔、にやけているでしょう」


私の指摘に、彼女も視線を向ける。


「中谷さん、編集長の顔はあんなものですよ。あ……もしかしたら加齢で、
筋肉が緩んでいるのかもしれませんが」


二宮さんは、自分の両手で頬を挟み、少し顔をゆがませる。


「笑わせないで。一応会議中」

「くだらないことを振ったのは、中谷さんの方です」


私は『そうだった』と頷きながら、編集部1番の汗かき、

『斉藤』さんのおすすめコーナー話に耳を傾けた。



「あぁ……中谷、ちょっといいか」

「はい」


昼過ぎ。川口編集長から声をかけられる。

何やらまた封筒を持っているけれど、園田さんが新作でも持ってきたのだろうか。

以前と同じように、パーテーションで仕切られている場所に入った。

編集長は無言のまま、私を手招きする。

誰かに聞かれるとまずい話なのか。それならこの場ではしない気もするが。


「何か」

「いやいや、本当は黙っていようと思ったんだよ。でもさ、僕にとっても、
君はかわいい部下なわけで」


編集長は少し背を伸ばすと、周りに人がいないことを確認する。


「中谷、『見合い』決めたそうだね」


『見合い』を決めた?


「エ! 編集長、どうして……」


そう、どうして昨日のことを編集長が知っているのだろうか。

私は、『いやいや』と、肯定も否定も出来ないまま、慌ててしまう。


「わかっている、わかっている。編集部員には内緒だろ」


編集長は、口の前に指を立て、片目を閉じ、『わかっている』という仕草を、

さらに重ねてくる。


「編集長……」

「相手は『松岡恒矢』君だろ。『ミルージュ』に勤めている」


どうしてだかわからないけれど、情報は間違っていない。

私は、無言のまま一度頷いたが、状況が納得できず、話の続きをされる前に、

なぜ知っているのかと聞き返した。手品のように、パッパと新しいものを見せられても、

気持ちが悪くなる一方だ。


「そうだよな。うん。実はね、松岡君のお母さんと、俺の妻が同級生で、
その話を紹介してくれた方から、息子のお見合い相手が、うちの出版社の女性だと、
話を聞いて、それで、俺に知らないかと、言ってきたんだよ。いやぁ……
驚いたよ、中谷でさ」


編集長の声が大きいので、私はトーンを下げてくださいと、

両手で地球を押さえるようにする。編集長はそうだったと、また口の前に指を置く。


「どんな女性だ、仕事ぶりはどうだと、聞かれてね。答えておいたよ、
いい子だよと」


編集長は、俺のコメントはきっとプラスになると嬉しそうに笑う。

予想外の展開だった。父の元上司のお薦めというだけで、

ちょっとお気楽気分にはいられないと思っていたのに、編集長まで絡んでいたなんて。


「編集長、あの……その、松岡さんという方は、真面目な方ですか」

「松岡さん? あぁ……うーん、彼には会ったことがないんだよ。
ただ、お母さんは普通の方だよ」


『お母さん情報』は必要なかったけれど、知らないのなら仕方がない。


「父の元上司の方がお話をくれたそうで、会わないうちには断れないのですが。
私は、今、結婚について、正直、全く考えていなくて」



本音を言うと、『啓太以外に』だけれど。



「そうなのか」

「はい。だからお会いすることも、重いなと」


知り合い、知り合いと増えていくと、無駄なものがどんどん体について、

動きが取れないようになりそうな気がする。


「そうか。でも、会ってみればいいよ。実はね、うちも家内とは見合いなんだ。
最初はそのつもりもなく会ったけれど、それが予想外に気持ちも変わってね」


編集長は、奥さんとのなれそめを、楽しそうに語ってくれる。

私はそうですかと聞きながらも、状況の違いについては、説明できなかった。



5-④




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