5 私の好奇心 【アンジェロ】 ④

5-④


お付き合いしていないのなら、誰のことも見ていないのなら、

『見合い』も一つのきっかけになるだろう。

でも、私の心は動かない。


「ちょっと話をして、食事をしたりして、人の気持ちは、変わるものだ」


その言葉は、その通りだと思うし、そうなって欲しいとも思う。

私のことは、ある一定の場所に置いて、毎日を送っているあの男に、

心の変化を期待する気持ちは、持ち続けているから。


「実はさ、僕が当日、付き添いを頼まれてね」


松岡さんも、両親が揃ってなどという、堅苦しい形を望まないらしく、

お会いするのはホテルの中にあるレストランと決まっていた。

そこに編集長が来ると言う。


「ずっと一緒にはいないよ。そんなヤボなことはしない。あくまでも話のきっかけだ」


編集長は、相手のお母さんが、私の普段の写真を持っていないかと聞いていたので、

3年前の社員旅行で撮ったスナップを渡したと言う。


ん? 3年前?


「まさか……」

「みんなで水族館の前で取ったのとさ、ほら、宴会で中谷があの、
去年退職した鈴木とやった……あれ、なんだっけ」



『ダメよ……ダメダメ』



「あ、そうだ、ダメってやつ」


編集長は、私の『見合い』をまとめる気はないのだと、そう思う。


「どうしてあの写真なんですか。せめて去年のとか持って行ってくださいよ。
3年前ですよ」

「去年は、僕は参加していないだろう。親戚の不幸で」


そうだった。

編集長がいないのをいいことに、みんなで『不満大合唱』をしたっけ。


「とにかくさ、リラックスして行こう」


私は仕事に戻りますと、その場を離れることにした。





『見合い』


『私ね、親に言われて、お見合いをすることになったの』

そんな台詞を、今、横に座ってバラエティー番組を見ている啓太に言ったら、

なんて言われるだろう。


『どうしてそんなことをするんだ。未央には俺がいるだろう』


それはないな。むしろ……


『そっか』


こっちの方が近い気がする。

どうせ断るつもりだし、聞きたくない言葉を聞くのは嫌なので、

あえて黙っていることにした。


「あ、そうだ。園田さんだっけ? 未央が仕事で知っていると言っていた」

「あ、うん」

「おそらくあの人だろうなと言う女性が、『並木通り店』に来ている」

「本当? 髪の毛はこれくらいで……あ、束ねているのかな?」

「あぁ、そうだった、束ねていたな」


間違いない、園田さんだ。

私は漫画を描いているのかと、啓太に聞いてしまう。


「漫画かどうかわからないけれど、デッサンはしている。
でも、じっと見ているわけにもいかないし」


啓太は、自分が見ているお店の中心が『並木通り店』で、

従業員との打ち合わせなどでも、一番行く機会が多いのだと説明してくれる。


「そう、そうなんだ、ちょっと安心した」

「安心?」

「うん……。眉村先生のところを、今までにないくらいの長さ、休んでみたり、
疲れているのかなと思うところもあるって、聞いていたから。
気持ちが切れてしまったかなと感じたこともあって」


編集長からとはいえ、私が『すみません』と原稿を戻したこともあるから、

あれで『終わり』にはしてほしくなかった。


「諦めたわけではなくて、よかった」


年齢が35でも、絵がうまく描けなくても、気持ちがあるのなら、続けて欲しい。

私は、そんなことをつい、言ってしまう。


「未央……」

「ん?」

「諦めることも、時には必要なんだぞ」


啓太はぽつりとそう言った。

私は、そうだけれどと、言い返してしまう。


「好きならさ……続けたっていいでしょう。有名な先生になれなくても、でも……」


園田さんが納得するまで、それに気持ちを注いでいたって、いいはずだから。


「自分の人生でも、一人で生き抜いているわけではないんだ」


私は、そんな発言をした啓太の顔を見る。

なんだろう、それじゃまるで、『諦めた方がいい』と言われている気がしてしまう。


「ねぇ、啓太って子供の頃、夢とかなかったの? 野球選手とか、先生とか」

「あったよ、それなりに」


啓太はそういうと、見ている番組を変えていく。


「いつのまにか、考えることが面倒になっていたけどね」


私の子供の頃の夢。それはピアノの先生だった。

でも、中学くらいまでしか続かなくて、確かに、いつの間にか消えていたけれど。


「啓太……」

「ん?」

「ねぇ、今、幸せ?」


つい、そう聞いてしまった。私と、安売りのつまみを食べながら、

テレビを見ているこの時間は、啓太にとって、幸せなのだろうか。


「幸せだと思わなければ、やらないだろ……」


啓太はそういうと、私の頭に自分のおでこをコツンと当ててくる。


「イタ……。ねぇ、どういう反応よ」

「大げさだな、未央」

「大げさではないです。もう!」


私は啓太にしがみつくようになり、そのまま啓太をソファーに倒す。

もちろん、本気で抵抗されたら、倒れるわけはない。

私を受け止める気になっているから、してくれること。

啓太の両肩を、私が両手で押さえてみる。


「私もね……今、幸せだよ」


先のことを考えたら、色々と不安がないとは言えない。

でも、今、ひとつだけ欲しいものをと言われたら、啓太との時間しか考えられない。

こんなふうにふざけあって、笑い合って。



ずっと、『求められたい』。



私は、啓太のおでこ、鼻、唇と、キスを落としていく。

ペタンと顔を啓太の胸に乗せていくと、ドキンドキンと確かな鼓動が聞こえてきた。



5-⑤




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