5 私の好奇心 【アンジェロ】 ⑤

5-⑤


ということで、何度か寝ているうちに、『お見合い』のその日がやってきた。

編集長の言うとおり、堅苦しい雰囲気にはしたくなかったので、

『見合い』だと、着物を着たりすることもなく、スーツ姿で会場に向かう。

とにかくお会いして、お話しして、それで別れればいい。

父の元上司だの、編集長の知り合いだの、面倒な糸はゴチャゴチャついているけれど、

私は私、無理をする必要などどこにもない。

人が待っているエレベーターは避け、階段をゆっくりとあがる。

2階のレストランの前は、ホテルの中庭になっていて、

6月の若葉達の緑が、眩しいくらいだった。


「松岡恒矢です」


松岡さんの印象。写真とあまり変わらない。

営業マンだというだけあって、人見知りはあまりしないタイプに見えた。


「中谷未央です」


私は頭を下げて、挨拶をする。

この間言っていたように、編集長が最初だけ少し会話に加わってくれたが、

15分くらいすると、席を外した。

そういえば、『人生初のお見合い』。

食事は、コースをお願いしていたため、出てきたものを見て、

それなりに会話に加えていく。

お互いの趣味や、仕事を選んだいきさつなど、聞かれる質問も、

ほとんど想定内のものだった。


「今度は、中谷さんの方から、何か聞いていただきたいな」

「あ……はい」


私は、『この先』を計算しているわけではなかったので、

思ったことを正直に出していく。


「結婚相手は、お見合いをしての方がいいと、松岡さんがお考えだと聞きました。
お互いの環境もわかりやすいというのが理由だというのは、本当ですか」


人というのは、赤ちゃんの頃から、触れたりなめたり、

自分自身感じたものを大事にしながら、知識を増やしているのではないだろうか。

松岡さんを見ていると、それほど個性が強そうでもないので、

恋愛をして相手を選んでも、十分見ていける気がするのに。


「あぁ……まぁ、そうですね。僕は何も無い状態で相手を知りたいのです」

「何もない状態?」

「はい。『恋』というのは、妙な曇りガラスのようなものでしょう。
どうしようもない相手でも、好きだと思ったら、よく見えてしまう。
あとからあんな人と、大体が思うものです」


松岡さんは、恋をした状態で選んだ人が、本当に自分にとっていい相手なら、

年を取っても、離婚などないのではと持論を展開する。

私は『そうなのかな』という疑問を持ちながらも、頷き返す。


「その点、見合いは間に人が入っています。そう、今も、
中谷さんを知っている川口編集長がいたでしょう。
こうして他人が入ってくれることで、自分以外の人の目も、プラスで観察できます」


自分だけがその人を評価していないから、『そんなはずがなかった』という

アクシデントを避けられると、そう結論づけられる。


「結婚というのは、社会人としての流れです。
長い間、互いに契約を全うできるかどうか、そういうことですからね」


松岡さんは、私が今考えていることに気付いているだろうか。

それとも、ここに来るまで、どうしようかと迷っている私がいたように、

もしかしたら彼も、結果など求めていないのかもしれない。

そう思えたのは、彼が、ますます張り切って話を続けているから。


「僕は、中谷さんがしたいのなら、仕事を続けてもらっていいと思っています。
女性が地位を認められ、職を得ているのですから、結婚ということで、
失う必要はありません」


松岡さんは、これからの夫婦は共働きが当然で、家事などもやりたくなければ、

お金で解決することがあっても、全然問題はないと言い切っていく。


「あ……あの」

「人と会うことが多い仕事なので、付き合いもありますし。僕はむしろ、
仕事を持ってもらった方がいいですね」


2回食事をした上村さんも、女性との距離がつかめないから、

話に自信が無いと言っていたが、松岡さんの状態は、また違っている。

私はどこかの講演会にでも来ているのだろうか。

質問に答えているというより、

松岡さんの考え方を、どんどんすりこまれているような気がしてしまう。


「あ、そうです。でもただ1つだけ、決めていることがあって」


松岡さんは、一度飲み物でのどを潤し、私を見た。


「仕事柄、匂いには敏感なのかもしれません。なので、一日の最後には、
必ず『クリーナの3番』をつけて欲しいなと」



『クリーナの3番』

それは、香水の番号。

日本のものではなく、海外のメーカーだけれど。



「必ず……ですか」

「はい。心地よい香りに包まれたいという、僕の希望ですね」



『たったひとつ』

松岡さんにしてみたら、『たったひとつ』なのかもしれない。

他はどんなふうにしようが、好きにしていいよと、物わかりのいい、

今どきの人っぽいところも見えていたけれど、そのひとつが、あまりにも重い。



そして、私にはとても受け入れがたい。



「あの……その香りが好きではないとなったら」

「いや……それは体験不足ではないですかね。僕は化粧品会社に勤めているので、
香りにはそれなりに知識もありますが、あの包み込むような空気感は、
うちの商品では出せません。日本人の考えは、何もかも控えめをよしとするので……」


語る、語り続ける……この人、全く躊躇がない。

私だって『クリーナ』は知っている。3番も有名な番号だ。

毎日、お風呂上がりにあのからみつくような甘い香りに身を包めだなんて、

啓太なら絶対に言わない。



そう、啓太なら私にそんなことを言わない。



「中谷さんのこだわりは……」


松岡さんのこだわりが、あまりにも私とはかけ離れていたので、

急に気分が楽になった。『この人とはあり得ない』。

そう思うと、開放感から、言いたいことが言える。


「私は……」


面と向かって優しい言葉を言うわけではないけれど、うたたねをしたら、

黙ってケットをかけてくれたり、私が気付かないところで、歩く速度を考えたり、

啓太の優しさは、にじみ出てくるようなものだ。


「具体的にはありません。ただ……大きな心で、私を見つめてくれる人がいいなと。
おっちょこちょいですし、不器用ですが、その人がいてくれたら、
なんとかなるなと思えるような……」

「あぁ……はい、それは大丈夫だと思います」



……どういう返事?



「それくらいの広さはありますよ」


私は顔だけ冷静なふりをしていたが、心は完全に拒絶状態だった。



6-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

5 【アンジェロ】

★カクテル言葉は『私の好奇心』

材料は、ウオッカ 30ml、ガリアーノ 10ml、サザンカンフォート 10ml、
オレンジジュース 45ml、パイナップルジュース 45ml





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