7 強さと優しさ 【ウォッカ・アップルジュース】 ⑤

7-⑤


私は携帯を取り、啓太が開いた文章の後のメールを開く。

『す』『き』『で』『す』という一文字ずつが、4つのメールに分かれていたり、

急に英文が並び、それが『出会いに感謝している』という内容だということもわかる。

『死』を連想させるものばかりではないけれど、

それでも、この頻度とやり方は、やはり普通だとは思えない。


「連絡を取ってくれ」

「……誰に?」

「誰って、この松岡さんって人に決まっているだろう」


啓太は、このままだと本当におかしなことになるかもしれないからと、

そう言い始める。


「警察には……」

「警察だと、逆に相手を刺激するかもしれない。ここは正面から向かいあった方が、
俺はいいと思うけれど」


啓太は、自分が管理している『コレック』の並木通り店に、松岡さんを呼び、

3人で会おうと提案してくれた。

私は、啓太が私のために動いてくれるのだとわかり、こんな状況なのに、

少し嬉しくなった。松岡さんと会って、私たちが付き合っていることを、

話してくれるのだとしたら、こんな気持ちの悪い数週間に、

意味があったのかもしれないと、思ってしまう。


「いいの? 『コレック』で」

「ファミレスくらいが一番いいと思うんだ。時間を9時過ぎくらいにすれば、
客の数も減る」

「うん」

「彼は少し特別だ……これじゃ、未央を任せられない」



『任せられない』



私は、自分の耳に入った言葉を疑った。

啓太は、何を言っているのだろう。


「啓太……任せるって何?」

「『見合い』をしろと、親からも言われているんだろ。
だから、将来を考えてということだけれど」


『将来』。確かに、考えるときがいずれ来るのだろうけれど。


「啓太は……考えないの?」


聞いてしまった。私たちにはこれから、『未来』はないだろうか。


「ねぇ、前から聞いてみたかったの。出会いは確かに、おかしなものだったけれど、
私たち、半年以上もこうして会っているでしょう。気持ちも変わってくるし、
環境も変わってくるし……」

「俺は何も変わっていないし、変えるつもりもない」

「啓太……」

「あの時、約束をした通りだ。互いに会っている時間以外の干渉をしないこと。
求める気持ちがあるから、時間を共有しているんだ」


ほんの一瞬だけ、浮き上がった気持ちが、突き落される。


「会いたいときに会って、互いに得るものがある。俺たちの関係は、
今もこれからも変わらない」


啓太と私には、未来などないのだと、そう宣言される。


「干渉したくないから、普通なら口を出したくない。でも、この松岡ってヤツはダメだ。
あまりにも普通から遠ざかっている」


確かにそうかもしれない。

松岡さんの考えも、やることも、おかしなことばかりだ。


「啓太だって……普通じゃないよ」


私の恨み節に、啓太の顔が反応する。


「身体だけでいい、心なんて必要ない。一緒にいても何も変わらない。
求めなくなったら会わなくなればいい。そんなの……普通じゃないよ」


男は女の顔も、年齢も結局はどうでもいいのだろうか。

吐き出したい思いだけ吐き出せたら、それでいいのだろうか。

女は、いや、私は違う。

啓太だから……

求めてくれるのが啓太だから、もっと深く抱きしめて欲しいと願うのに。



あなたの全てを、受け止めていたいと思うのに……



「もういいよ、啓太。自分でなんとかする」


義務的なことだけで、参加してくれるのなら、そんなものいらない。

気持ちがないのなら、演技なんて無駄なだけ。

編集長に明日会って、一緒に松岡さんに会ってもらおう。

自分で頑張らないと。



私が悪いのだから。



「意地を張るな、未央」

「意地じゃない」

「意地だろう。ここに来ることも出来なくて。何が自分でだ」

「いいって言っているでしょう」


私は携帯を取り、ここにタクシーを呼ぶつもりになった。

啓太がその携帯を取り、部屋の隅の方へ滑らせてしまう。

私の携帯が、扇風機にあたり、カツンと音をさせる。


「何するのよ」


携帯を取りにいこうとした私の腕を啓太がつかみ、

そのままソファーの上に、押し倒した。

両手をつかまれ、さらに身体の自由を奪うように、ガッチリとホールドされる。

優しいキスをされるわけでも、嬉しい言葉をかけてくれるわけでもない。

ただ、怖い顔の啓太が、目の前にいる。


「外してみろ……自分で何もかも出来ると言うのなら、
今すぐ、この腕を外して逃げてみろ」


啓太はそういうと、私を見た。

それならばそうしてみせると、私は足を動かそうとするが、

なぜだろう、完全に押さえられているわけではないはずなのに、

ほんの少し、私の足に啓太の足がかかっているだけなのに……



びくともしない。



上半身を斜めにして、なんとか逃げようとしてみるが、手の自由がないため、

バランスが全く取れない。


「未央……男と女には、力に絶対の差があるんだ。気持ちだけで、気合いだけで、
なんでも出来ると思い込むな」


啓太はそういうと、私を解放する。

つかまれていた左右の手首が、ジンジンする。


「さっきの話ではないけれど、本気で来られたら、どうにもならないんだ。
強がっていないで、今回は俺の言うとおりにした方がいい」


啓太は、これからメールが届いても、返信はしない方がいいと言う。


「妙な返信をすれば、あげ足をとられる。時間と場所をメールにして、送ろう」


啓太は滑らせてしまった私の携帯を取ると、テーブルに戻す。


「松岡さんと会えるまで、ここから会社に行けばいい」


啓太は、着るものをいくつか用意し、ここに泊まればいいと提案してくれる。


「……いいの?」


会わない日の束縛は、ダメだと今、言っていたはず。


「きちんと終わるまで、俺も心配だから……」


少し前に、『未来はない』とそう言われたのに、心など向かっていなくて、

ただ、思いを吐き出すためだけの関係だと、そう宣言されたはずなのに、

たった一言で、『それでもいい』と思えてしまう。



ただ、そばにいられるのならと……



苦しくて悲しいけれど、今の私にはそれでも……



この場所が、必要だった。



8-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

7 【ウォッカ・アップルジュース】

★カクテル言葉は『強さと優しさ』

材料は、ウオッカ 45ml、アップルジュース 適量





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