8 本音と建前 【クロンダイク・ハイボール】 ④

8-④


「ほら……」

「あ、ありがとう」


啓太はコーヒーカップを2つ、お盆に乗せて来てくれた。

私のほうは、いつも飲んでいる『カフェオレ』の状態。


「啓太にまで迷惑かけて、本当に自分のしたことがバカだったなと思う」


心からそう思う。

気持ちがないのなら、会うべきではなかった。


「まぁ、そう自分を責めるなって」


啓太は自分のネクタイに軽く触れた。

入り口の扉が開き、『いらっしゃいませ』の声がかかる。

私は、松岡さんだとわかり、すぐにその場に立ち上がった。





私と啓太が座る前に、松岡さんが座る。

前回のお見合いとは違い、私は視線が合わせられない。


「コーヒーでいいですか」

「……あぁ、はい」


啓太にそう言われ、松岡さんは一応の返事をした。

啓太は席を立ち、その場を離れていく。

静かな時間。私は自分から切り出すことにする。


「松岡さん」


松岡さんの顔が、私を見る。


「今回は、本当にご迷惑をおかけしました。私が、中途半端な気持ちのまま、
お会いしたことで、色々と……」

「中途半端……」

「はい。両親から知り合いの方の紹介だと言われて、
『お見合い』をしたことがなかった私は、興味というか、自分だけの考えで、
お会いしました」


そう、『どうにかなる』という、気分だけで。


「未央さんは、僕の話に興味を持ってくれていましたよね。自由に生きていい、
好きなことをすればいい。結婚したからといって、
従わなくてはならないことなど一つもないと、僕は……これ以上ない、
好条件をあなたに出したはずだ」


松岡さんは、私がその後、『高浜屋』に出かけていたことを話し出す。


「あなたはうっとりするような目で、ドレスを見ていた。見合いの後、
ドレスをですよ。僕は、あなたが前向きなのだとそう思って……」


松岡さんの訴えが続く中、啓太がカップを持って戻ってくる。

松岡さんは、そこで言葉を止めてしまう。


「女ですから、『ウエディングドレス』の展示に見とれてしまうのは、
自然な気持ちだと思います。好きな人が出来て、その人との未来を、
あのドレスの前で考えるのは、決して、私だけではないと……」


私の隣にいる啓太。今の言葉をどう感じてくれただろう。


「うーん……でも」


私の言葉に、松岡さんはその後、『クリーナ』に顔を出していたことも、

気持ちの表れではないかと言い始めた。


「会話の中に出てきた時に、知っているなと思いましたが、
その知識があっているのかどうか、確かめてみようとそう思いました。
だから、立ち寄ったのです」


松岡さんの好きな香りを知りたいというより、

自分にとって、受け入れられないことだと言う思いを、ハッキリさせたかった。


「思わせぶりな女ですね、あなたは」

「すみません」


言われていることに、すべて納得できているわけではないが、

悪いところがないと言えない以上、謝っておくべきだとそう思った。


「松岡さん」


ここから話の主導権は、啓太に移る。


「初めてお会いします。『岡野啓太』と言います。未央さんが、
そのような中途半端な行動をしてしまったのは、私自身が中途半端であるからだと、
そう思っています」


啓太は、自分がきちんとした態度を見せなかったので、

『見合い』というイベントに対して、私が興味を持ってしまったと、そう言った。

松岡さんは、言葉を送り出す啓太の顔を、睨むように見続ける。


「ここに来ていただいたのは、彼女と一緒に、私自身も謝罪すべきだと思ったためです。
どうか、これで気持ちを収めてください」


啓太は、『見合い』の続きはないこと、私と松岡さんの気持ちは、交わらないこと、

それを認めて欲しいと、言葉を選びながら理解してもらおうとする。

自分が煮え切らない態度を取り、私を追い込んだこと、

啓太はそれだけを全面に押し出していく。

松岡さんから出たため息。

『仕方がない』とういう感情が、出たということだろうか。

言葉のないテーブル席。

時間の経過とともに、店内の客が、また一人減っていく。


「……未央さん」

「はい」

「中途半端って、自ら言っているのですよ、この男は。
こんなふうに煮え切らない態度を取る男に、あなたはこれからも、
人生の限られた時間を費やすつもりですか」


松岡さんは、人には適齢期というものがあり、それを逃すと、結婚も出産も、

リスクが増えるのだと、言い始める。


「こんな男より……僕の方が数倍、あなたを幸せに出来るのに」


『幸せ』の定義はなんだろう。

安定した生活だろうか、それとも世間的なイメージを保つ時間だろうか。


「ごめんなさい……」


松岡さん、あなたのように将来に対するしっかりとした計画など、

ここにいる啓太には何もないのです。私が未来を夢見ても、応えるつもりはないと、

平然と言われてしまうから。



それでも……

あなたと一緒に過ごす日々は、私の心の中に、想像出来ない。


「……ったく、くだらない時間だったな」


松岡さんはそういうと、目の前にあるコーヒーを一気に飲みほした。

その言葉を聞き、啓太は下向きだった顔をあげる。


「認めていただけたのですね」

「ん?」

「この先がないということを、認めていただけたのですね」


啓太の口調に、松岡さんは『だからどうしたのですか』と返事をする。


「だとしたら、この先は話が代わります。松岡さん、今までの贈り物、
そしてメールには、目を瞑りましょう。しかし、これから彼女に対して、
アプローチらしきことがあった場合には……」


迫るようなセリフに、松岡さんの顔色が変わる。


「もし、未央の身に、不可解なことが起きるようなことがあれば……」


啓太は左手を前に出し、体を松岡さんの方へ寄せる。


「今度は私が、あなたを追い込みますよ……」


これから、私の身に何かが降りかかるようなことがあれば……

啓太が黙っていないという、『脅迫』とも言える態度。


「なんだよ……それ。物騒だな。あなたが僕に何を……」

「今話したように、私には、あなたとは違い、
将来に対するしっかりとしたビジョンもありませんから。
他人の評価も、出世も考えていないので。その一瞬で動けると思います」


『一瞬』


あまり見たことのないような啓太の目。

私には、とても入り込めないような空気が、そこにあった。



8-⑤




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント