9 好感を持って 【アンバサダー】 ①

9 好感を持って

9-①


「ずいぶん買い込んだのね」

「買い込んだとか言わないでくださいよ。中谷さんにもお土産持ってきたでしょう」


『外回り』というショッピングに出かけた二宮さんから、

おすそ分けのプリンをもらった。

カラメルの濃さと、カスタードのバランス。

近頃人気の店だというが、確かに美味しい。


「これ、美味しいね」

「ですよね。カスタードの濃さが違うんですよ。それにこの弾力。
歯ごたえがあるというと、妙な言い方ですけれど……」

「あぁ……でもわかる、うん」


私は目を閉じながら、その味を口に納めていく。


「あ、そうだ……『花菱物産』の上村さんに会ったんです」


上村さん……

『花菱物産』という一流企業のサラリーマン。

二宮さんが幹事で行った飲み会で、知り合った人。

女性との距離がつかめないからと、謙遜していたけれど、

とても紳士的で、優しい人だった。


「うん……それで?」

「偶然だったんです。駅で快速を待っていたら、隣に座ってきて。
お互いに顔を見て『あ!』って」


二宮さんは、上村さんが仕事の途中だったと話し続ける。


「お互いに、仕事のこととか少し話して。
そうしたら上村さんが、中谷さんはお元気ですかって」


二宮さんは、私の顔を見た後、にやっと笑う。


「何よ……」

「はい、元気に仕事をしていますよって、そう言いました。
その時、私、『そういえば二人はその後、会えたのかな、どうしたのかな』と
思っていたけれど、そうか、うまくいったわけではなかったのかと……」


二宮さんは、2回頷く。


「どうして頷くのよ」

「その後、上村さんが言ったからですよ。『そうですか……それなら中谷さんは、
幸せなんだな』って」


二宮さんは、中谷さん彼氏がいるんでしょうと、私の方に体を寄せる。


「もう! 飲み会なんか参加しちゃって」

「いや、あのね……」


上村さんらしいミス。

彼があまりにもいい人だったから、

私は耐えられなくて、『好きな人がいる』と白状してしまった。


「上村さんよりもいい相手か……いいなぁ中谷さん、この、幸せ者!」


二宮さんは、隠れてお酒でも飲んできたのだろうか。

私は、声が大きいからと、彼女の口を閉じようとする。


「うーん……」


二宮さんはそうふざけながら、また笑い出す。

私は、仕事がないのならさっさと帰りなさいと言い、強引に会話を終わらせた。



『幸せ』



私は今、幸せなのだろうか。

仕事が終わり、携帯で連絡をして、啓太のマンションに向かう。

この後、今日起きた出来事を話したりしながら、

当たり前のようにその時間へ向かうのだろう。



『うらやましい』



園田さんに、言われた言葉。

だとすると、きっと、私は幸せなのだ。

いや、少なくともそう見えるのだろう。

交差点で3階の明かりを確認する。

啓太がそこにいると思うだけで、身体が熱くなる気がした。



「あのね、今日同僚にもらったプリンが、すごく美味しかったの。
お店を聞いたから、今度持ってくるね」

「ふーん」


私は部屋に入ると、ソファーに横たわっている啓太の前に座り、

仕事のことをあれこれ語った。啓太は黙ったまま、時々頷き、

時々『そうか』とか『へぇ……』など、言葉を乗せてくれる。

いつもなら、話なんてどうでもいいと伸びてくる手も足も、

今日はどうしたのだろう、全然動かない。


「啓太……」

「ん? あ、うん」


その言葉も途切れ途切れになり、ふと気がつくと、啓太が転寝しているように見えた。

私は啓太の顔をじっと見る。


「疲れているみたいだね、啓太。なんだかそんな気がする」


啓太の仕事は、休みなどが急に入った場合のフォローもあるため、

予定外に動くこともあるようだった。午前、午後と別の店舗に行き、

ちょっと大変だったと、話してくれる。


「そうだったんだ、ごめん。それならここには寄らずに、家にまっすぐ帰ったのに」


私はそう切り返す。


「バカ言うな……せっかくの誘いを断ったら、悪いだろ」

「誘いって……」


啓太は、私の顔を見た後、自分の横をポンポンと叩く。

私はソファーの残された部分に横たわり、啓太を見る。

少しだけ聞こえる、呼吸の音。


「どうした……始めましょうって、首に手を回さないの?」

「だって、疲れているように見えるし……」


ここに来たからと言って、なにもかも一つの時間に向かう必要はない。

私は、啓太の負担になりたいわけではないのだから。

少し気持ちの揺れがあったその時、啓太はいきなり起き上がると、

今度は私の上から見下ろす姿勢を作る。

両手、両足を私の周りに配置した。

囲まれたようになったため、何をされるのだろうと、そのまま上を見る。

啓太の目が、私をとらえたまま……


「未央……自分で脱いで」


啓太がそう言ったあと、のどぼとけが動いた。

この体勢で、見下ろされている状態で、この先をと要求される。


「ほら……」


啓太の目。

ただ、じっと見ているだけなのに、魔法をかけられたように、また、身体が熱くなる。

『さぁ、動き出してごらん』という、挑発のような視線。

おかしな状況かもしれない、でも、断ろうとは思わなかった。



啓太がそれを望むのなら……。



私は喜んで魔法にでも、催眠術にでもかかるだろう。



9-②




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント