9 好感を持って 【アンバサダー】 ⑤

9-⑤


体が自由になった夜9時過ぎ。

私は、『今日こそは』とメールを打つ。

15分後、携帯の音がなったため、文面を開いた。



『今は無理だから』



またこんな返事。



『明日は休みを取ったの。今日は何時でも大丈夫。どうしても会いたいから、
マンションのエントランス前で、待っています』



いくらなんでも5日間、深夜残業はおかしすぎる。

もし、それが認められているのなら、

『コレック』は立派な『ブラック企業』になってしまう。



『ダメだ、そんなことはしないでくれ』



私は、会話を続けながら、おかしなところに気がついた。

本当に仕事をしているのなら、園田さんが言っていたように、

店の中で慌しく動いているのなら、こんなに早く返信が届くはずがない。



何か……起きているのではないか。



私はそう確信すると、出版社を出て、啓太のマンションに向かった。

インターフォンを鳴らすが、返事はない。

メールの通り、ここに立っているしかないのかと思ったとき、ふと思い出した。



私が、啓太の部屋の鍵を、持っていること……



そうだった。どうして思い出さなかったのだろう。

松岡さんのトラブルで、数日間部屋に戻れなくなった私を、啓太は部屋においてくれた。

合鍵をそのとき受け取り、実際には、トラブルが回避された後も、戻していない。

私はバッグを開けて、奥にある小さなファスナーを開く。

銀色の鍵、そう……確かに持っていた。

許可されていないのだから、後で怒られるかもしれない。

でも、香澄ちゃんが来たということは、少なくとも5日間、

彼女のいる店に顔を出していないということになる。



やっぱりおかしい。

仕事ではない可能性が、高い気がする。



私は鍵を回し、エントランスを突破する。

エレベーターに乗り、3階で降りた。

玄関前に立ち、インターフォンを鳴らす。

そこから1分くらい経過しただろうか、私は握り締めた鍵を、鍵穴に向ける。


「あ……」


カチャンという音とともに、扉が開いた。


「来るなと言っただろう」


数日間、篭っていたのだとわかるくらいの、重苦しくよどんだ空気の中から、

絶対に体の調子がおかしいのだとわかる、啓太が出てきた。


「啓太……」

「なんで来るんだよ……もう、いいから帰れ」


啓太はそういうと、扉を閉めようとする。

私は必死に手を入れたが、力は向こうの方が強い。


「閉めても、鍵を持っているんだから」


そう、閉められても、開けてやる。

その言葉に、啓太の動きが止まる。


「まだ、返していなかったから……カギ」


啓太は状況を知り、あきらめたのか手を離す。

私は必死に体を奥に押し込み、追い出されないように扉を閉めた。

あらためて見る、部屋の異様さ。

洋服は脱ぎっぱなし。テーブルには飲み物の缶がいくつもある。

ベッドは、シーツが乱れた状態のままになっていた。


「啓太……具合悪いのなら、どうして言わないのよ」


啓太は仕事が忙しかったのではなく、具合が悪かったのだという現実を、

そこで目の当たりにする。この数日間、部屋の窓も開けず、光りを遮断し、

ずっとこの暗闇の中で寝ていたのかもしれない。


「どうしてビールなの、水とか、スポーツドリンクとか、飲めばいいでしょう」

「なくなった」

「だったら、私が連絡したときに、買ってきてって書いてくれたら」

「未央の役目じゃない」


啓太はずっと寝ていて、よくなってきたから、明日は仕事にいくからと、

ベッドの中からそう声を出す。私はリビングの窓をあけ、外の空気を入れた。

置いてある扇風機を回し、この病的な空間を、どうにかしようと考える。


「おい……」

「いいから黙っていて」


腹がたった。

私の役目じゃないってどういうことよ。

私はただ、いつも裸になっていたらそれでいいってことなのだろうか。

こうして、部屋を訪れて、看病したり、足りないものを買ってくることも、

許してもらえないのだろうか。情けなくて、苦しくて、涙が出始める。


「薬……飲んだの?」

「嫌いだから飲まない」

「病院は」

「嫌いだから、行かない」


あまりにもバカにされている気がして、私はベッドに向かい、

ケットを無理やりはがし、髭もそっていない啓太の頬をひっぱたいた。

パシンという乾いた音がする。


「いい加減にしてよ、子供なの?」


園田さんが『お仕事さん』と言ってくれたように、啓太の仕事姿は、

きっとさまになっているに違いない。SDとして、香澄ちゃんはともかく、

仕事の先輩として、頼りにしてくれている人もいるだろう。

何日も自分から、体調不良を直そうとせずに、ゴロゴロしているなんて、

あまりにも子供じみていて、腹が立つ。


「仕事、全然出ていないのでしょう。社会人として責任は感じないの?
嫌いだから飲まない? 行かない? バカとしか言いようがない」


言いたいことは言ってやる。

私の役目は、私が決めるのだ。

啓太のしていることは間違っているのだから。



10-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

9 【アンバサダー】

★カクテル言葉は『好感を持って』

材料は、テキーラ 45ml、オレンジジュース 適量、シュガーシロップ 1tsp.(沈める)





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そうですよね

ナイショコメントさん、こんばんは

>啓太の気持ちがわからないなぁ
 ジレジレするけど、
 それってももんたさんの思うつぼですよね(笑)

未央が語る流れなので、確かに啓太の心の中は見えにくいと思います。
一緒にジレジレしながら、楽しんでもらえるといいのですが。
(ジレジレは楽しめないですよね)