10 いつも二人で 【サイドカー】 ①

10 いつも二人で

10-①


「お前さぁ……人が病気だとわかっていて、それだけ怒りをぶつけるか?
少し遠慮しろよ」


啓太は、はがしたケットをまた自分の方に引っ張っていく。

引っ張りすぎたために、下から見えた足。

私はその足に触れる。それからケットを握る手。



明らかに熱い……



「何がよくなってきているのよ。足も手も、これだけ熱いのに」


言い合っていても時間の無駄。

私は、そこら辺に投げ捨てられていたシャツなどを洗濯機に放り込む。

全自動なのだから、お願いだけしておけば、

きちんと作業をこなしてくれるのが今の家電。

さらに冷蔵庫を開け、見事にお酒以外何もないことを確認する。

時間的にスーパーは難しい。でも、自転車でコンビニに向かえば、

啓太でも食べられるものが、あれこれ買えるだろう。

それに氷も必要だ。

私は財布だけ持って部屋を出ようとする。


「余計なことはいいから、さっさと帰れ」

「ほっといて」


靴を履くところまで行って、一度部屋に戻った。

リビングにある啓太の小さなバッグ。その中にある財布をつかむ。


「いい? 私が出て行くからといって、鍵を閉めたらダメだからね」


私は今、『人質』代わりに掴んだ財布を、寝ている啓太に見せるように前に出す。


「はい、これは啓太の財布です。私を締め出したら、財布が戻りません」

「……は?」


寝ていた啓太は、体を起こし、何をするんだという顔をする。


「では!」


私は取られたら困る合鍵も財布と一緒に持ち、啓太の部屋を出る。

今日はなんとしてもそばにいる。

怒られたって、部屋であれこれ考えているより、絶対に精神面では安定するはず。

自転車の鍵を開け、夜の道に繰り出していく。

ついでに、自分の好きなものも買い込もうと決め、リズムよくペダルをこいだ。





財布の『人質』代わりに効果があったのか、

買い物に出た私は、啓太に締め出しされることなく部屋に戻れた。

とりあえずレトルトのおかゆを温めるために、

フライパンに水を入れ、お湯を作っていく。


「今日、香澄ちゃんが来たのよ」

「……なんで」

「SDはどうしたのかって、そう言いに来たの。仕事には全然出ていませんよって、
マンションまで来たって、言っていたけど」


私はおかゆに入れようと買った梅干のパックを開け、一つ口に入れる。

すっぱいけれど、後からうまみを感じた。


「仕事には出ていたよ、休んだのは昨日と今日だけだ」

「そうなの?」

「あいつのいる『池丘店』に、毎日行くわけではないから。
今回は研修があって、本来ならそこで仕事が終わるはずなのに、バイトの穴埋めがあって、
夜もまともに寝られないまま、また次の日が来たから、体調が崩れただけだ」


啓太はベッドで体を起こし、私の渡したイオン飲料を飲んだ。

ペットボトルの口を、閉めている。


「香澄ちゃんが、メールを送ったのに、全然返事をくれないって、
ぼやいていたわよ」

「メール?」

「そう……なんだっけ? 一日が終わったと送ったら、頑張ったなと褒めてくれて。
それで、何かを作りましたと写真を送ると、今度持ってこいと言われるんだって」


確か、こんな内容だったはず。


「未央」

「何?」

「お前、それ、信じてるの?」


啓太のセリフに、『どういうこと』と聞き返してしまう。


「お前、からかわれているんだよ。そんなメール、あいつが送ってなんて来ないし、
俺も送っていないし……」


啓太は空気が少し変わったからなのか、それとも、私の行動に観念したからなのか、

ベッドから出て、リビングまで歩いてくる。


「そうなの?」

「当たり前だろ。俺の性格、お前、知っているだろうが」


そう言われてみたら、その通りだった。

私とのやり取りだって、余計な文章をつけたりすることはないし、

顔文字やハートマークがつきそうな文章も、送られた試しがない。


「なんだ」


あの女子大生。人生の先輩を、あれだけからかうとは。

私はレトルトパックをお湯から出すと、入りそうなお皿を選び、中に入れる。

梅干も忘れずに入れておこう。結構、美味しかったし。

お盆などないので、直接手で運んでいく。

啓太の前に、とりあえず置いた。


「はい。まともに食事していなかったでしょう。だから、今日はとりあえずこれ」


あまりゴタゴタしたものだと、胃がビックリしてしまって大変だ。

少なくとも中谷家では、具合が悪いとなると、いつもおかゆが登場した。


「食べたら帰るか?」


啓太はそういうと私を見る。


「言ったでしょう。明日は休みなの。啓太がちゃんとしてくれないと帰れません」


私はそういうと、自分用に買ってきたおにぎりを出す。

もっと色々なものがあればと思ったが、時間が悪かったのか、あまり種類がなかった。

それでも、動いた後だから、とにかく美味しい。


「自分の体調くらいわかるから、終電になる前に帰れよ」

「何度言わせるの。帰らないと言ったら、帰りません。何よ、この後、
誰か来るとでも言うの?」


ありえないと思っているからこそ、こうして言える。


「……だとしたら、帰るか?」

「絶対に帰りません。私が追い出してやる!」


啓太の顔を見ながら、私は一口おにぎりをほおばった。

啓太は少しだけ笑った後、おかゆを口に入れてくれる。

スプーンの3分の1くらいから、次はもう少し多め。

それから、普通に入れていくと、食事は進み始める。



よかった……食べられるのなら、安心。



それからすぐに、洗濯機が『終わりました』と音を鳴らした。



10-②




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント