10 いつも二人で 【サイドカー】 ⑤

10-⑤


浴槽にお湯を溜めながら、私たちは水音に隠れて抱きしめあう。

ベッドのように広い空間ではないから、逃げずに受け入れるしかない。

後ろに回った啓太に押しつぶされないように、私は目の前に両手をつく。

無抵抗な状態の中、どうなのかと聞き返すような啓太の動きに、

快感を得た私の顔が、曇り始めた鏡に映っていく。

自分の顔……まともに見ていられなくて、私はシャワーのボタンを押した。

水が勢いよく出てきて、鏡に映った私の顔をゆがめていく。

シャワーのボタンは、すぐに啓太の手で止められた。


「未央……」


顎の下に添えられた手の動きに、私は啓太とあらためて向かいあう。


「意地が悪い」

「……どうして」

「どうしても」


こんなとき、鏡で自分の顔を見せられるなんて、罰ゲームのようなものだ。

私は、その余裕がありそうな啓太の唇を必死に塞ぎ、また鏡を見ないようにした。



「狭いね」

「当たり前だろ。ここは湯布院の温泉旅館ではないんだ」


浴槽に二人で入ると、本当に動きが取れないくらい狭い。

それでも、久しぶりとも言えるゆっくりした時間に、仕事の疲れも、

色々な悩みも、どこかにおいてきた気分になる。

お風呂から出て、私はタオルを体に巻くと、ドライヤーをかけ始めた。

啓太は、ベッドから見続ける。


「長いぞ、未央」

「長くありません。おとなしく待っていて」


洗いっぱなしで済むような、髪の長さの男とは違うのだから。

私は髪の毛の中に指を入れ、地肌が乾くように、軽く動かしていく。

時々視線だけを啓太に動かすと、その体は横を向いたり、うつぶせになったり、

色々と変化を見せている。


「あ……そうだ、美味しいお酒とかもいいよね、お土産」


私の言葉に、何も反応がない。


「大分だったら、なんだろうな……」


啓太はうつぶせのまま、何も返事をしないと決めているのだろうか。

私はドライヤーのスイッチを切る。


「ねぇ……啓太」


ドライヤーをまとめ、元の場所に戻すと私はそのままベッドへと向かう。

うつぶせになっている人の横に座り、背骨部分に指を置き、ゆっくりと滑らせた。


「ねぇ……」


その瞬間、啓太が起き上がり、私の首に腕をかけると、そのまま押し倒された。

目の前にいる、啓太の顔。


「危ない……プロレスをするつもり?」

「するか……バカ」


啓太はそういうと、タオルの止めた部分を持ち、そのままふわりと外した。

解放された私の身体は、愛しい人が触れていくのを待つことになる。

啓太は私の鼻先や唇、そしてうなじに口付けていくのに、その手は下へ動かない。

私の髪の毛や頬に触れているだけの時間が、なぜか重なっていく。

私の身体は、満足した箇所と、不満足の箇所に分割されたようになってしまった。


「啓太……」


名前を呼んだ。どうして欲しいのか、わかっているのだから、

今、まどろっこしい時間など、必要ないはずなのに。


「ドライヤーで乾かした髪、いい匂いがする」

「エ……」


私は自分から触れて欲しいとは言えずに、啓太を見る。

気付いて欲しくて自分の手を啓太に向けていくが、その手はつかまれてしまい、

バンザイのようになってしまう。


「もう……いい加減にして」


こんな時間を楽しむなんて、悪趣味としかいいようがない。

私の不機嫌そうな表情を、嬉しそうに見た啓太は、

絶対的に強い力で抑えていた手を外し、『その場所』を目指してくれる。


「しばらく会えないだろ……未央」

「2泊3日でしょ」


動き始めた時を感じながら、私はそう答えた。


「うわ……余裕だな」


啓太の言葉に、そして私の胸に触れた手の大きさに、不満な思いは一気に消えていく。


「じゃぁ……行かない方がいい?」


ひとみとの旅行に行かなければ、その時間、こうして抱き合えるのだろうか。

私の言葉に、啓太は黙ったまま首を振る。


「ウソだよ……そんなこと考えるなって」


こんなふうに意地悪だけれど、未来の約束は何もないけれど、

『今、この時』を、啓太は確実に私に与えてくれる。

互いに『3日』会えないと思うだけで、胸の奥が締め付けられるくらい苦しいなんて、




これ以上のときめきなど、私にこの先、あるのだろうか。




その日の私たちは、触れ合えた感覚を忘れないようにと思うのか、

いつもよりもさらにゆっくりとした、長い時間を過ごした。





『大分 湯布院』



一昔ほどの流行はないかもしれないが、女性の心をがっちりとつかむ列車や、

お土産店が並び、夏休みを満喫するOLたちや、家族旅行の人たちで、賑わっている。

私たちは予約をしたホテルへ向かい、部屋の鍵をもらう。

荷物は運んでくれるようになっていて、中に入ると、簡単な説明をされる。

どうぞごゆっくりの言葉を残し、ベテランそうな仲居さんが出て行った。


「あぁ……来たね、湯布院」

「うん」


部屋は和室と洋室が合わさっている部屋で、ベッドが2つ。

窓からは、雄大な山並みを見ることが出来る。

昔、家族旅行で別府に来たことはあったが、実は湯布院は初めて。


「ねぇ、未央、ここの料理は美味しいんだよ」

「あぁ……うん、そんな感じがする」


ひとみは携帯を取り出し、この旅館のホームページを開いてくれた。

口コミでもとにかく料理の評判がダントツで、旅行雑誌でも取り上げられるほど、

人気だという。


「ご主人にお礼を言わないとね、私」

「いいって、いいって。無駄にならなかったって、喜んでくれたし。
あ、そう、ホテルにね、女性2人に変更したいんですって言ったら、
部屋も変えてくれたの。そういう融通性がきくって、いいよね」

「あ、そういうこと……」

「そうよ、そういうこと」

「そうか……ベッド2つってと思ったのよ」


私は右側のベッドに座る。


「当たり前でしょう。旦那さんと一緒なら、この部屋にはしないもの」


ひとみは、近頃は本当にうまくいっていると、嬉しそうに話してくれた。



11-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

10 【サイドカー】

★カクテル言葉は『いつも二人で』

材料は、ブランデー 2/4、ホワイトキュラソー 1/4、レモンジュース 1/4





コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント