11 わかり合いたくて 【アメール・ピコン・ハイボール】 ①

11 わかり合いたくて

11-①


何を見に行こうと決めてきた旅行ではないため、とりあえずお茶をいれ、

あらかじめ置かれているお菓子の袋を開ける。


「ねぇ」

「何?」

「未央がね、編集者として忙しい仕事をしているんだよと話したら、
主人が、誰か紹介できないかなって言うのよ」


『紹介』

ひとみの言葉に、私はそれはいいよと返事をする。

『人の紹介』ということで、上村さん、松岡さんと、それぞれ違った形ではあるが、

お断りをしてきた私。それって結構勇気がいることで。精神的にもなかなかきつい。


「わかっていますよ、本当はお付き合いしている人がいるってことでしょ」


ひとみは、お見合いなんてしたりするから、

実際どうなのかと思っていたのよと、お茶に口をつける。


「ほら、陽平君だっけ? 彼と別れてから結構経ったからさ、
未央は、きっと新しい恋を探していると思っていた。
相手がいないわけじゃないのよって、そう言っておいたけど、そうだよね、いるよね」


ひとみには、3年付き合っていた陽平のことは、よく話していた。

しかし、啓太と付き合い始めてからは、

ひとみからご主人とうまくいかない話しをされることが多くなり、

なんとなく、言わないでいたと話してみる。


「あ、そうか……ごめん、気をつかわせて」

「気をつかったわけではないけど。こっちこそごめん、
ひとみこそ、あんまり考えないで」


それなら、その彼とはどうなのかと、ひとみは私に聞いてくる。


「うん」


ケンカをしているわけではないけれど、何も進歩がない。


「進歩?」

「まだ、1年も経っていないし……」


まだ付き合ってからが浅いのだと、私はアピールした。

そう言わないとならない気がした。

年齢を考えれば、方向性は一つだと思えるのに、『それをしない人』だと、

今は言いたくなくて……


「あ、そうだ。この旅館の3階にね、小さなバーがあるの。
そこで出してくれる地元のお酒が、美味しいって書いてあるからさ。
今日の夜、飲みに行こうよ」


ひとみは話しの中に訪れた無音状態から、おそらく私の気持ちを読み取ったのだろう。

話題を変えてくれた。


「外で飲むのは帰り道が心配だけれど、ホテルならどうにでもなるし。
いいでしょ、未央」

「高いよ、そういうところって」

「こういう旅行に来て、そういうことを言わないの。
時間を気にしないで、ゆっくり飲めるんだよ。日常から抜け出すのが、
旅行の意味だからね」


ひとみの言葉に、私もそうだよねと返事をすると、

二人で、夜を楽しみに待つこととなった。



ひとみの言うとおり、夕食は本当に美味しかった。

地元の魚、そして野菜。料理方法も、今時な味付けもあり、

丁寧な仕事振りがわかるものになっていた。

色々なものを少しずつ食べることが出来るというのは、女性が一番喜ぶことで、

私もひとみも、それぞれこれが気に入ったと、色々会話に取り入れる。


「それでは行きますか」

「うん」


時間が夜の9時を過ぎ、私たちはそのまま3階に向かう。

元々、ホテルの1、2階にはお土産の店やゲームセンター、

そしてちょっとした夜食を食べられる店などが揃っている。

カラオケが出来る店もあることはあったが、ひとみが行こうと誘ってくれたのは、

そういうもののない、小さな店だった。

重めの扉を空けると、ここが温泉のホテルだったかと思えるほど、

静かな空間が広がっている。


「いらっしゃいませ」


2人がけのテーブル席が3つ、そしてカウンターは全部で7席。

私たちはバーテンダーの見えるカウンター席に揃って座った。


「ねぇ……地元のお勧めでいいでしょう」

「うん……」


ここは東京ではなく、湯布院であることはわかっているのに、

私の頭は、全然別のことを考え始める。

テーブル席とカウンター。



『ブルーストーン』



啓太と初めて会った店を、思い出した。



こんな造りの店は、どこにでもあるはずで、珍しくない。

でも、テーブルの位置や、カウンターの角度が、とてもよく似ていたからなのか、

あの日、啓太が座っていた場所に、やはり向かい合った男女がいるからなのか、

それはわからないけれど、

私の頭は、『ブルーストーン』にいたあの日を必死に呼び戻そうとする。


「はい、未央」

「うん」


ひとみと二人、お勧めの日本酒を注文し、口をつける。

辛口だけれど、キリッとした後味。

湯布院って、そういう土地柄だっけ?


「美味しい」

「うん」


そう、ここは湯布院なのだから、東京での過去を思い出しても仕方がない。


「あ……」


ひとみはご主人から電話がかかってきたといい、ここで話すのはまずいと思ったのか、

一人で店を出てしまった。私は日本酒のグラスを持ち、もう一度口をつける。


「ねぇ、それはまずいって」


声がした方向に目を動かしてみると、女性が何やら写真を見ながら、

前に座る男性に語りかけていた。

あの日も、啓太の前に座っていた女性が、何やら必死に訴えていたっけ。

それなのに、啓太の表情は変わらないままで……



私は、啓太がお酒を飲まないことばかり気になっていて、

何を話していたのか、わからなかったけれど、

感じていた雰囲気から、楽しい話ではなかったような……



『……必要ないんだよ』



また、あの言葉だ。

どうしてまた、出てきてしまうのかわからない。

あの日、啓太が私に、そう言ったということだろうか。



いや、啓太と私は話をしていたというより、

酔った私を放り出せない状態になったと、そう言っていた。



私には記憶がないから、記憶がある啓太が……そう言った。



他に聞く人もいないから、私はそうなんだと信じているけれど……



本当に、ただそれだけだったのだろうか。



あの日の啓太とは違い、テーブルにいる彼はグラスを持ち、お酒を飲んだ。

前に座っている女性に、微笑みかける余裕もある。



そう……あの日の啓太は、無表情に近かった。

私と話すときにも、過ごすときにも、どこかふざけたり、怒ってみたり。

啓太には結構、ユーモアがあると思う。

だとすると……



何も言えないほど、何も出来ないほど……

そして、お酒にも手をつけられないほど、辛い時間だったのだろうか。



11-②




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