11 わかり合いたくて 【アメール・ピコン・ハイボール】 ③

11-③


暑い夏が駆け抜けるように過ぎていき、夏休みが終わると、急に仕事が慌しくなった。

『読書の秋』も今更関係ないのではないかと思っていたが、

売り上げは確かにここのところ、結構なパーセンテージで伸びている。


「おめでとうございます」

「あらあら……ありがとう」


4月からの3ヶ月売り上げ統計。

女性部門では『眉村先生』が2年ぶりの受賞となった。

もちろん『ただ……あなたが好き』での受賞になる。


「嬉しいわ、前作の時にはいただけなかったから」

「あれ? そうでしたっけ?」

「そうよ」


眉村先生は、まぁ、話題になったしねと、そう自分自身で話を終わりにしてくれる。


「あ、そうでした。前作の時は『昭島先生』の『未知な気分』がありましたね」

「そうそう。向こうは映画化されたし、俳優も話題になったしね」


眉村先生は、私の作品だと、実写化は難しいからと笑ってくれる。


「そうですよ、映画の中、半分くらい裸ですからね」

「そうよね」


先生と一緒に笑い、次の原稿をもらっていると、アシスタントの女の子が、

戻ってきて挨拶をしてくれた。園田さんの席は、空いている。


「園田さんは、お休みですか」

「あ……そうなの。ちょっとね、ご実家のお父さんの調子が悪くなって、
昨日から戻っているのよ」

「そうですか」


園田先生は、姉妹の長女になる。下の妹はすでに結婚して子供がいるので、

親が具合が悪いと言っても、急には帰れないらしかった。


「ひとりものだと、いつでも帰れると思われているって、園田さん、
笑っていたけれど」


啓太が少しだけ関わっている作品が、その後進んでいるのかと聞きたかったが、

そういう事情なら仕方がない。


「ちょっと残念です。作品の続き、読めるかなと思っていたところもあったので」


私はそう正直に語ると、携帯で時間を確認する。

この後、夕方前には会議が予定されていたため、カップに残ったコーヒーを飲み干し、

椅子から立ち上がる。


「それでは先生、また」

「はい、お願いします」


私は封筒をしっかり持つと、眉村先生の仕事場をあとにした。





夏の途中に体調を崩した啓太だったが、復活してからもまた、

忙しい日々を送っている。私は、ホテルで飲んだ焼酎をお土産に持ち、

ほぼ1週間ぶりくらいに、マンションに向かう。


『はい……』

「こんばんは」

『おぉ……』


啓太の声が聞こえ、エントランスの扉が開く。

エレベーターに乗り込み、3階で降りると、303を目指した。

あらためてインターフォンを押すと、扉はすぐに開かれる。


「おじゃまするからね」


私はそういってヒールを脱ぐと、リビングに向かう。

あらかじめ『焼酎』だとお知らせしてあったからか、それに合うようなつまみが、

テーブルにいくつか乗せてあった。


「早いな、セッティング」

「今日は仕事が早かったんだ。トラブルもなかったし」

「へぇ……」


私は『それでは』と言いながら床に座り、焼酎の箱を開ける。


「これね『麦焼酎』。大分の名産なんだってね。名店で修行をした人が、
自分流のアレンジを加えて、新しい喉越しになりましたって、
ホテルの紹介文に買いてあって……」

「ほぉ……」


啓太は、瓶に貼ってある紙を見ながら、どれくらいの度数なのか、

材料はどうなのかと楽しそうに見続ける。

そう、啓太はどちらかというと、お酒が好きだと思う。

量を底なしに飲めるわけではないけれど、どんなものでも、楽しむ舌があり、

それに合うつまみを見つけるうまさもある。



あの日は……全く飲まなかったけれど。



「ホテルはどうだった?」

「ん? うん。それが料理も美味しかったし、温泉もよかったよ。
ひとみにご主人によろしく伝えてねと、何度も言った」


啓太はそうなのかと笑い、焼酎を入れるグラスを出してくれる。

私はそれを受け取り、瓶を開けると、それぞれのグラスに注いだ。


「いいな、香りも」

「でしょう」


修学旅行とかで訪れたわけではないので、どこに行きたいとか、

何が見たいという希望はあまりなかった。ただ、ゆっくりと過ごし、

日常の中にいる、慌しさから抜け出したかったというのが、本音かもしれない。


「1日目に飲んだ日本酒も美味しかったの」

「日本酒?」

「そう……」


私はこちらは小さな瓶なので、啓太がひとりの時にでもどうぞと、

テーブルの上に置く。


「その店はね、ホテルの中にある小さなお店だったけれど、思い出しちゃった。
『ブルーストーン』」

「エ……」


私は、啓太と出合った店に、造りが似ていたと思ったことを話す。


「あぁ……」

「あの時と同じように、偶然私たちはカウンターに座って。
で、あのときの啓太みたいに、テーブル席で向かい合って話しているお客様がいてね……」


そう、何気なく視線に入った出来事を並べたつもりだった。

しかし、啓太の表情は焼酎の瓶を見ていた時に比べ、曇ってしまう。


「そっか……」

「うん」


明らかに、これ以上話したくないし、聞きたくないなという顔がそこにある。

私は追及したい気持ちより、雰囲気を壊す方が嫌で、

つまみを食べて、話題を変えることにする。

そこからはひとみと乗った『特別列車』のこと、お土産物店のご主人が、

とても楽しい人で、ついつい、余計なものを買わされたことなど、

たわいもない話を続けていく。

そして私は、啓太の横に並び、その日の出来事を並べていくニュースを見ながら、

身体を寄せ合い、指をからめ、そしてキスを交わしていく。

世界の揉め事の話も、新しい法律の話も、私たちの耳に届かなくなる。

互いに会えなかった日々の長さを、感じていた気持ちは同じだったため、

啓太がテレビを消した。



11-④




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