11 わかり合いたくて 【アメール・ピコン・ハイボール】 ④

11-④


なにげなく手をつなぎ、そのままベッドへ向かう。

啓太は私の前に立ち、服のボタンに触れた。

自分で、何もかも脱ぎ捨ててしまうことはもちろん出来るけれど、

一つずつはがされていく日常に、鼓動が速くなり、

そして、これから先を期待する、互いの気持ちが膨らむことも間違いなかった。

見られていることへの快感が、そこにある。

私も、啓太がしてくれたのと同じように、ゆっくりと身体に触れていく。

シャツをめくり、ズボンのベルトを外し、そして互いの姿を確かめ合いながら、

横になった。

軽いキスに始まり、互いの舌先が触れあう長さになると、

もっと表現できるはずだと、私の身体が反応し始める。

啓太に下唇を軽くかまれ、そのチクリとした痛みがそれ以上の波で全身に回っていく。

もう逃げられない、逃げようがないという思いと、

どこまでも一緒に分かち合いたいという思いが、複雑に絡み合い、

あふれる吐息となって、啓太へ向かっていく。

軽く指で触れられただけなのに、私は背中をそらし、そのときを急がせようとする。

触れられていない場所が、自分自身に激しく訴えてくるのを感じ、

その思いをわかってほしいと、啓太の名前を呼んだ。


「未央……もう少し」


啓太は、私を作り上げている全てのものを確かめていくつもりなのか、

手をすり抜けてしまった。

啓太の身体が届かない場所に向かってしまうと、私はただ、指をくわえて、

吟味される時間を、待つしかなくなってしまう。


「ねぇ……啓太……」


啓太の与えてくれる感覚に、お酒の酔いがプラスされて、

だんだんと頭がボーッとし始める。

唇から送り出すつもりもなかった声が、好き勝手に啓太へ向かっていく。


「もういいでしょう……」


ぼやけた部分と、鮮明な部分が入り混じり、頭がおかしくなりそうな気がする。

私の顔を見た啓太は、少しだけ笑みを見せた。

意地が悪いのか、それともおかしな趣味なのかと、責めてやりたい気もしたが、

そんな思いはすぐにかき消される。

私は啓太の背中に手をしっかりと回し、

このままずっと離れないで欲しいと無言で訴えた。



夜が続けば、何も考えなくていいから。



あの日、啓太に何があったのか……

どうして啓太は未来を見ないのか……



そんな不安定な時間を、気にしなくてもいいから。

朝など来なくていい。私はずっと、揺れ続けたい。



その日の夜は、離れては触れてを互いに繰り返し、いつの間にか眠りについていた。





啓太に『ブルーストーン』の話をしたとき、表情は明らかに曇っていた。

その後、互いに気まずい時間を持つことになるのは嫌だったので、

その日はそこで話をはぐらかせたが、湯布院で記憶のかけらが戻ったこともあるし、

ひとみに言われたことも重なって、私自身、『なくした記憶』を呼び戻したくて、

仕方がなくなっていた。

忘れていたことを思い出すだけなのだから。

別に啓太を巻き込もうとしているわけではない。

仕事を終え、陽平と食事をした店にまずは向かう。

『ブルーストーン』に入ったのは、あくまでも偶然だったため、

いきなりその店を目指す自信がなかった。

時間も同じような時間に設定し、レストランの前で確かにこの店に入ったこと、

そこでとんでもない話をされ、打ちのめされたことなど、鮮明に思い出す。

私はすっかり暗くなった道を歩きながら、『ブルーストーン』を目指した。

しかし、頭に浮かべていたその場所には、店がない。

あの時は、駅を目指したはずだった。

それが近道と思える場所を見つけ、なぜか左に足を向けてしまった。

しかし、そこは行き止まりで、元に戻ればよかったのに、

妙な勝気性格が災いしたのか、勝手に道を進み、

たどり着いたのが『ブルーストーン』だったのだ。

あれから、8ヶ月くらいしか時間が経っていない。

ひとみの言うとおり、新しい店になっている可能性は低いし、

もし、そうだとしても、新しい店自体がまず見つからないのもおかしい。

私は歩きながら半分諦めかけていると、本当に細い道を見つける。

左を見ると、そこに『ブルーストーン』があった。



「いらっしゃいませ」


今更ながら記憶というものは、あっという間に曖昧さに変わる。

思い込んでいたルートでは、たどり着けなかった。

偶然の結びつき。

『ブルーストーン』に入り、落ち着いた男性の声に迎えられ、

私はあの日と同じように、カウンターの端に座った。

テーブル席はたしかに3つ。

でも、今日は啓太がいた真ん中の席は空いたままになっている。


「何を……」

「ウイスキーのロックを」


ここまでの記憶はしっかりと残っていたので、私はあの日と同じ注文をした。

もちろん、今日は酔いつぶれる予定はない。

湯布院の時と違い、そのものを見ているのだから、もっと思い出せそうなものなのに、

記憶からは何も蘇ってこない。

注文したものが、私の目の前に置かれた。

ふと顔をあげると、バーテンダーと目が合ってしまう。


「あの……」

「はい」

「実は私、昨年の12月に、この店へ来ました。覚えていらっしゃらないですよね……」


常連客ならともかく、1回しか来ていない客など、記憶にないだろうと、

半分諦め気味に聞いてみる。


「……覚えておりますよ」


私は思わず『本当ですか』と言ってしまう。

バーテンダーの男性は、無言のまま、ゆっくり頷いてくれた。

落ち着いた物腰、優しい視線。

あの日、お酒を作ってくれたのは確かにこの人だったと、私の記憶も、

少しずつ動き出す。


「あの日のことを、思い出したくてここへ来ました。
知っていることを、教えていただけませんか」


覚えていてくれているのなら、

あなたの中にある記憶を私に与えて欲しいと、訴えてみる。


「そうですね……」


バーテンさんは、本来、お客様の情報はプライバシーに関わることなのでと

言いながらも、今回は本人自身が要求していることなので話しましょうと、

そう言ってくれる。


「ありがとうございます」


私は話を聞きながら、記憶を整理することにした。



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