12 あなたの心は 【セプテンバー・モーン】 ①

12 あなたの心は

12-①


『ブルーストーン』を出て、細い道をまっすぐ進む。

駅に向かう道に続く道路に出た。



『店の前の道路は狭いですから、その1本前の道に車を止めてもらって。
その男性のお客様が肩を支えて、私がその後を、バッグを持って追いました』



おそらく、タクシーが止まったのはこのあたりだろう。

とても広いと言える道路ではないが、ここにタクシーが止まったとして、

反対車線の車が横を通り抜けるスペースはある。

多少、乗り込むのに時間がかかっても、

迷惑がかかったから急いで乗ったということでもなさそうだ。



啓太は、私があの日のことを聞いたら、私の姿が自分の好みだったから、

ホテルへ誘って、一緒にタクシーに乗り込んだとそう言っていた。



私自身が誘って、引きずり込んだという事実を語るのが、

悪いと思って言っているのか……


いや、そうではないのかもしれない。



『大丈夫』



この言葉を言わせる話をしてしまったことに、後悔があるのではないだろうか。



お店で私が泣くような、知らない自分を必死に励まさないとならないような話を、

したことに後悔があるのではないだろうか。



その話しは……なんだったのだろう。



私は、思い出さない方がいいのか、それとも思い出す方がいいのか、

一歩ずつ歩きながら、ただじっと考え続けた。





『ブルーストーン』で、私にどんな話をしたのか、啓太は全てわかっている。

この9ヶ月。互いに知らない部分を知ることは出来たはず。

それでも、それを語ろうとはしてくれない。

こうして息づかいを感じられる距離にいるのに、

私はまだ、この人のなにもかもを知らない。


私の横で、眠っている啓太の横顔に、カーテンの隙間から漏れる、

月明かりが当たっている。

『このままで』という気持ちと、『これではダメ』という思いが、

私の中で、複雑に交差していく。

今年より来年、女の条件は絶対に悪くなる。

啓太にとって、本当に私が『そのため』だけの存在なら、

いつか、この部屋へ入ることも、許されなくなるかもしれなくて……


考えても仕方がないことなのに、その穏やかな横顔を見ている自分の目が、

じわりとにじんでいくのを感じ、私は黙って目を閉じた。





『ブルーストーン』で少しだけ過去を思い出した私だったが、

啓太のその日のことまで、わかることはなにもなく、また1週間が過ぎた。

夏の残りを感じる日もまだ多いけれど、朝晩は思っていたよりも冷えてしまい、

上着を羽織ることもある。

その日は、後輩の二宮さんと一緒に、女性のSOSを携帯で受け、

『避難場所』を提供している、団体のリーダーと会うことになった。

その女性自身も、暴力を振るう彼から過去に逃げた経験があり、

こういう『駆け込み寺』のような場所があったらという思いから、

組織を作り出したという。


「男ってずうずうしいところがあるでしょう。状況が変わったら、
急に態度を変えたり。子供が出来てもね、いざとなったら身を隠すことも出来るし、
逃げることも出来るわけで……」


二宮さんは、話を聞きながらメモを取っている。

私は、編集長から渡されたデジタルカメラで、部屋の中を数枚撮影した。


「そういう関係が目的だからと、堂々というような悪もいるのよ。
もう、こういうのに目をつけられたら、女が不幸になるのも目に見えているでしょう」


『そういう関係』

啓太を悪だと思っているわけではないが、自分にあてはまるところがある気がして、

思わず下を向いてしまう。


「こちらでは、実際、どのような支援をされているのですか」

「まずは、生活環境を変えないと。つまり、依存体質を変える事ですね」

「依存体質」

「はい。その人が全てというような考えは捨てて、
まず、しっかりと一人で立つ気持ちになること。自分の人生ですから、自分で決める、
歩く。その心構えが出来ていないと、また同じような人に、ひっかかりますから」


自分の人生は、自分で決める。

確かにそれは間違いがないだろう。

取材の時間は30分ほどだったが、その間も、数件電話が鳴り、

彼女のような人が必要とされていることを、あらためて気付かされた。



「女性のための雑誌ですからね、うちのは」

「そうね」


少女漫画ではない、女性向けの情報誌。

漫画が半分、そして情報部分が半分。


「どれくらいスペース取れますかね」

「予定はどうだっけ」

「2ページ見開きだと、編集長からは言われていますけれど」

「見開きか……」


写真と実際に起きた事件の内容と、

そこからこういった団体が全国に広がっていることなど、

前置きともいえる文章の量からすると、少し狭い気がする。


「ちょっときついかな」

「ですよね、私もそう思います」


二宮さんのメモ書き。

私の目は、ある部分で止まる。



『相手を受けているだけの人生』



女性が恋愛で受身であるのは、当然なのかもしれないが、

相手の意思に逆らえず、条件が悪くてもただ従っているだけ。

その結果、自分だけが重い荷物を背負わされ、途方にくれている人もいる。



踏み込まないのは……

不幸を呼ぶだけなのだろうか。



『必要ないんだよ』



あのセリフを頭の中に浮かべてから、私はずっと啓太との出会いを振り返り、

その忘れてしまった部分を取り戻そうとしている。

原点に戻り、互いの気持ちを正直に話し合って、勢いで始めた間柄から、

もう少し、『その先』を目指して行きたいと思っているから。


「さて、編集部に戻ろうか」

「はい」


二宮さんとランチを食べた店を出て、ページをどうまとめるか話し合いながら、

私たちは編集部へ戻ることになった。



12-②




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