12 あなたの心は 【セプテンバー・モーン】 ②

12-②


『ブルーストーン』での時間は、啓太にとって思い出したくないことなのかもしれない。

それを追求したいわけではなく、どうして『未来』を見てくれないのか、

その理由を教えて欲しかった。



『結婚』して、兄と子供を育てる千波ちゃん。

ご主人と、子供が欲しいと話し合い、次のステップを夢見るひとみ。



好きな人がいないのなら、考えようもないが、

私には、啓太がいるのだから。



二宮さんの書き上げた原稿を、編集長に見せるためにファイルに挟む。

この特集がもう少しページを広げられるかどうかは、

編集会議で話し合うことになるだろう。



9月……



ふと見たカレンダー。

来週の今日は、私の誕生日だった。

27からいよいよ28。

30歳のエリアが、両手を広げて待っている。



そう……考えておかしな年齢ではないのだから。



誰に遠慮など、する必要もない。

その日は終電前だったが、立ち寄ってもいいかと連絡をし、編集部を出た。





いつもの部屋に、いつもの啓太。

私はバッグを置き、啓太の座るソファーの横ではなく、テーブルの反対側に座る。

顔をあげると、互いがよく見えた。

啓太は、いつもの席に来ない私を、不思議そうに見る。


「ねぇ……啓太」

「何」

「今日ね、女性の避難場所を作っている団体のリーダーさんと会ったの」

「避難場所?」

「そう……親子関係、恋人関係など、こじれたときに逃げ込める場所なのだけれど。
まぁ、色々と話を聞いて、少し考えたというか……」


この切り出し方でよかっただろうか。

啓太は、表情を変えず、話を聞こうとしてくれている。


「今までも、そういった取材には行ったし、話も聞いてきた。
でも、ここのところ、自分の中に疑問符があって、そのせいなのか、
すごく心に響いたというか、気になるというか……」


このままではいけないという思いが、忘れようと思っても、すぐにかぶさってくる。


「私ね……この間、『ブルーストーン』に行ってきたの」


そう、私は、自分から切り出した。

啓太にとって、触れられたくない場所に、触れてしまうかもしれないのに。


「うん……」

「啓太も知っている通り、私、あの日のこと、全然記憶になくて……。あ、うん、
カウンターに座ってお酒を飲んでいたことは覚えていたの。でも、その後は、
啓太がお酒を飲まないことを気にして、それで……」


その話しは、もう何度もしたことだった。

啓太は『うん』と言葉を乗せ、その先を話しなさいと私を押してくれる。


「たった一度しか行っていないのに、バーテンさんに、覚えられていたくらい、
みっともなく酔っていたことも、この間知ったの」


個人的な話しはしないけれど、聞いてきたのが本人だからと、

そういって、あの日を振り返ってくれた。


「あの日が、啓太にとっていい日だったとは思わない。だって、私が見た啓太は、
とても哀しそうだったし。私も、酔いつぶれるくらいの嫌な日だったから、
本来なら、忘れてしまいたいところなのだけれど……」


最低の日が、最高の日に……


「でもね……私にとっては、啓太に会えた日でもあるの。
おかしな出会いだったし、勢いであんなことになって、最低な女かもしれないけれど、
私は今、本当に真剣に、啓太が好きで……」


『そういう関係』でいいと、互いに約束したかもしれない。

干渉せずに、互いのことも知ろうとしない。

そんなことも言ったかも知れない。


「啓太のことが、本当に好きだから……だから、知りたいの」


何があったのか、どうして未来を見てくれないのか。

『結婚』を考えないと言い切れる理由がどこにあるのか、どうしても知りたい。


「このままでいいって、何度も自分に言い聞かせた。啓太が望まないのだから、
私はずっとこうして会うことが出来たらって……。でも……本当は苦しくて、
辛くて……」


普通の恋愛に傷ついたけれど、結局、それは『恋愛』でしか癒せない。

この数ヶ月で、それを実感している。


「私、啓太の前に座って泣いていたって、そう聞いた。
何を話していたのかは、バーテンダーの人もわからないって。
でも、なんだか、自分自身、励ますようなことを言ったこと……思い出して」


『前向きに』という言葉を思い浮かべたときに、

『必要ない』という反対の言葉が浮かんだ。


「タクシーの中に、私が啓太を引っ張っていたってことも、教えてもらった」


私ひとりが、戻せない時間を歩いている。

啓太からは、何ひとつ、言葉もため息も出てこない。

わかっていた……これを切り出せば、こうなることくらい。

それでも、迫ってくる自分の思いに、耐え切れなかった。


「こうして9ヶ月の時間が経って、あの日の感覚とは違った自分がいるの。
啓太が体調不良で苦しいときには、来て欲しいと思ってもらいたいし、
一緒に旅行にも行きたいし……当たり前のように、この先があるのだと、
そう思いたいの……」


だから私は、啓太と反対の場所に座った。

触れてしまったら、また、『これでいい』と思い込もうとしてしまう。


「私が言っていることは、おかしいことなの? 俺がいるのに、
どうして『見合い』なんてしたんだって、そう言ってほしいと願うのは、
おかしなこと?」


そう、私が親の薦めで見合いをしたのも、結局は、啓太の気持ちを知りたかったからだ。

どこかで、何をしているんだと、言って欲しかった。

自分の行動、全てが啓太に向かっていることを、押しつぶして生きていられない。



涙が出るかと思っていたのに、全然出てこない。

ため息だけは、何度も床に落ちる。



「過去なんて、知ってどうするんだ」


啓太のセリフ。

私は顔をあげる。


「過去を知りたいとか、そういうことじゃないの」

「そうだろう。あの日、何をしていたのか、何を話したのか、
全て話せとそういうことだろう」

「違う」


形的にはそうかもしれない。でも、私が知りたいのは過去ではなく、

啓太の未来のこと。


「何も見えないの……今の啓太からは」

「は?」

「迷いもなく、関係は変わらないと言われてしまうと、どうしてそうなのか、
あの日に何かヒントがあるのかと」


苦しいことがあるのなら、一緒に分かち合いたい。


「普通に悩みたいの。恋人同士のように、一緒に悩んだり、笑ったりしていきたいの。
将来は結婚して、子供を産んでって……」




普通の暮らしに、憧れるのは、あなただから……



12-③




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