12 あなたの心は 【セプテンバー・モーン】 ⑤

12-⑤


シルバーに光る、そこら辺にありそうな、鍵。

でも、私にとっては……



返すべきなのだろうけれど、今は返したくない。

無理だとわかっていても、ただ、ここにこれがあるだけで、

何もかもが終わったと、思わなくていい気がするから。



私は新しいバッグの内側にある、小さなポケットを開け、その鍵をしまう。

明日からも一緒に、電車に乗りたくて。



あまりにも、ばかげていると思いながら。



まだ……啓太の声を、探している。





「中谷、電話」

「はい」


次の日、編集部に電話が入った。私が出ると、その声に忘れていた出来事が一気に蘇る。


『すみません、園田です』

「あ……」


園田さんは、以前、見せてもらった作品が完成したのでと、そう言った。

眉村先生のところに来る予定があるのかと、私に尋ねてくる。


「えっと……」


そうだった。園田さんの作品、途中までしか読んでいない。

つい、この間まで楽しみで仕方が無かったのに、今は、それを見ると考えるだけで、

気持ちが重たくなる。



啓太が、モデルだと知っているから。



「わかりました。今日の午後に、伺います」


園田さんは、何も関係が無い。

ずっと長い間、眉村先生のアシスタントをしていて、やっと描き上げたものなのだから。

私が編集長に推薦すると、そう約束している。

少し早めの昼食を済ませると、私は眉村先生の仕事場に向かった。





いつも用意してくれる椅子に座り、園田さんの作品を読む。

途中まで読んでいたけれど、最初からもう一度しっかりと見ることにした。

わけありの男女が出会い、そこからエピソードが始まる。

互いに気持ちを隠したまま、思いだけが深くなっていくが……



彼は最終的に、彼女を選ばずに、昔の恋人の元へ帰って行く。



人は、いくら思いがあっても、体を2つには出来ない。

『究極の選択』。それがこのお話のテーマ。

私は読み終えても、そのままじっと絵を見続ける。



駅のホームに消えていく彼。

啓太の姿が、重なっていく。



「はぁ……」


言葉がなかった。これなら、編集長に勧めても、笑われることなどない。

絶対にいけますと、太鼓判を押せる。


「こうなりましたか」

「はい……」


園田さんは、読み切りなので、余韻を残したかったとそう話してくれる。

余韻かぁ……確かに、結ばれてしまうより、ずっと重たい。


「ダメですかね、ハッピーエンドじゃないと。
35にもなると、考え方がネガティブなのかな」


園田さんの言葉に、私は首を振る。


「いえ、これはこれでいいと思います。編集長に推しますから。
少し待っていてください」

「お願いします。最後なので……」

「あぁ、はい……エ?」


何気なく聞き逃すところだった。

今、園田さんは『最後』という単語を口にしていた気がする。


「園田さん、今」

「うん……自分で描くのは、これが最後」


園田さんは、眉村先生のように、連続で取り組むのは無理だと言い始める。

元々、ストーリーを考えるのは、得意だったはず。


「ちょっと待ってください。だって、園田さんはストーリー作りは得意ですよね」


主人公に色々な面を持たせることが出来るのは、園田さんの力。


「漫画は、絵と組み合わないと形にならないでしょう」


園田さんは、自分では納得できているのだと、完全に割り切った笑顔で語ってくれる。


「やりきったって、本当に思っているの」


眉村先生は、もったいないと思うけれどねと、私を見る。


「そうですよ、これが採用されたら、もっとと言われますよ」

「だから無理だなと」


園田さんは、締め切りのある世界で描こうとすると、このタッチは難しいと、

私が戻した原稿を、いとおしそうに見つめている。


「中谷さん」

「はい」

「本当に、本当に、川口さんに推してよ。お願い」

「先生、脅迫はダメですよ」


園田さんは、あらためて原稿を袋に入れると、私に向かって両手で出してくれる。

私は、わかりましたとその袋を、同じように両手で受け取っていく。


「それでね、中谷さん」

「はい」

「一つだけ、お願いがあるの」


園田さんはそういうと、少し言いづらいのか、タイミングがずれる。


「啓太さん……」



啓太……



「あ、えっと……中谷さんにもお話をした、啓太さん。
出来上がったから、お礼を言いたくて。一度だけ、3人で一緒に、
食事をしてもらえないかな」


園田さんは、自分の思いを表現できたことを、啓太に話したいのだと、そう言った。



13-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

12 【セプテンバー・モーン】

★カクテル言葉は『あなたの心は』

材料は、ホワイトラム 60ml、ライムジュース 15ml、グレナデンシロップ 1tsp. 卵白 1個





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