13 嫉妬の鼓動 【ジェラシー】 ③

13-③


私は『いいえ』と言いながら、どうしてそんなことを話されるのか、

少し嫌な思いが先行する。


「私が園田亜矢子と言いますと自己紹介をしたら、啓太さん、『はい』と、
返事をしてくれて……」


園田さんは、啓太と挨拶をしたことを、話しているのだろうと思う。

でも、私はそれを素直に受け取れなかった。

園田さんは、恋愛の一文字目も知らない女性ではないだろう。

距離をあけたと言っているのだから、その名前を聞くことで、どんな気持ちになるのか、

わからないことはないはず。

今まで、眉村先生の作品を、一緒に支えてきた気がしていたけれど、

今日のこの態度は、気持ちが一気に冷めてしまう。


「そうですか」


私は『それだけの女』だった。

どれほど啓太を好きだと言っても、あいつは認めてくれなかった。

未来を夢見たい、新しい時間を積み重ねたいという思いを、

ただ、事務的に否定された。


「あ……うん、それだけだけど」


園田さんにも、私の不機嫌さが伝わったのだろう。

ここで、これ以上不満な顔をするのは、悔しさばかりが膨らむ気がする。


「啓太がモデルだと、話したのですか?」


あいつのことだ。

だからといって、別に驚くような反応はしないだろう。

そうですかと、軽く笑うくらい。



そう、愛想笑いを浮かべるくらい……



「うん……あなたの仕事姿を、参考にしましたってお話をして……」



そう、そうしたらきっと……




「だったら、完成品を見せてくださいって」




ウソ……


「自分がどんなふうに見えていたのか、気になりますって、そう言ってくれたの。
中谷さんの知り合いだと思っているからきっと、そうやって合わせてくれたのよね」


私は、園田さんの顔を見る。

まっすぐに私を見る目は、今までの仕事仲間ではない。



ライバルに、宣言する女の顔。



あなたが手放したのだから、私が近づいても文句はないでしょうという意味。

園田さんが、メイクを変えたのは、啓太を意識してだろうか。



そう、園田さんは啓太に恋をしていた。

だから、啓太をモデルにしたし、そのイメージを必死に作品にした。



「そうですか」



作品を見せるなとは言えない。見るなとも言えない。

私は、啓太の横にいる権利を、自ら放棄した。


「そろそろ帰ります」

「中谷さん」


まだ、何かあるのだろうか。


「私……あの作品で、気持ちの整理がついたの。
これからは、思いのままに、生きていこうと決めたから」


振り向いた私の目に映った園田さんの顔は、『これから』に期待を向ける、

恋する女の目。


「……失礼します」


長い間、影に沈んでいた園田さんに、作品の採用という光がさしたと思って、

ここへ来たのに。どうしてあんな言葉を、浴びせられるのだろう。

啓太が未来など考えないと決めているのなら、

新しくその胸に飛び込みたいと願う女を、拒絶するだろうか。

私の知り合いだから躊躇するかもと思うけれど、終わった相手との関係など、

簡単に飛び越えられるかもしれない。


思うままに生きようと思う園田さんなら、未来を約束して欲しいなどと、

啓太に迫らないはず。


私のように、泣いたり騒いだりせずに、大人の女として、

男の思いを受け入れ、そして包み込むのかもしれない。



もう、会いたくない。

園田さんが、綺麗になればなるほど、私はその後ろに、啓太を考えてしまう。

私ではない女を、抱きしめるあいつのことを、考えてしまう。



しばらくどこかに消えてしまいたい。

啓太のことなど、思い出せないくらい、遠い場所に……





仕事を終えて、家までの道を進む。

でも、途中で足が動かなくなった。

このまま帰って、ただ横になれば、考えてしまうことはわかっている。



『啓太さん』



私とは違う、さん付けの遠慮がちな台詞。

今までの女とは違う、新鮮な時間の中で、啓太はあの彫刻のような身体に、

触れさせるのだろうか。

新しい場所を得ることで、通り過ぎた相手のことなど、

思い出す瞬間もなくなるだろうか。

今まで立ち寄ったこともない、駅近くの居酒屋で、とりあえず数杯の日本酒を飲む。

ここから家まではほんの数分。

ほろ酔いくらいで戻れば、何も考えずに眠れるはず。

1杯のつもりが、2杯になる。

このままじゃ、また、記憶がなくなるかもしれない。

私は立ち上がり勘定を済ませて外に出る。

一瞬、ヒールにぐらつくと、すぐに壁をつかんだ。


「すみません」


声に振り返ると、男性が2人、立っていた。



13-④




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