13 嫉妬の鼓動 【ジェラシー】 ④

13-④


「はい……」

「ちょっと、道を聞いてもいいですか」


男の一人は私の前に立ち、鞄から何かを取り出そうとしている。

もう一人は、私の横に立ち、壁と男二人に、挟まれるようになった。

妙な距離感。


「えっとですね……」


前に立っていた男は、地図を見せるふりをして、少し近づいてくる。

目の前に大きな地図があるので、目を動かしたが、妙な感覚が下から襲ってくる。

横にいた男も、私に一歩近づき、耳元に息を吐く。



手が、おしりに触れている。


「あの……」

「ねぇ……もっと酔いたいでしょう。このままどこかに行きませんか。
僕達と一夜限りの恋っていうのも、悪くないと思うし……」


妙な感覚は、地図を見せたその男の手が、スカートの前部分に触れていたからだった。

私は『やめてください』と体を少し動かし、声に出すと強くにらみつける。

申し訳ないが、ふらついたのはヒールのせいで、実はそれほど酔っていない。

この二人に連れ去られるなんて、絶対にいや。


「……叫ぶわよ」


夜とはいえ、人もまだまだ通っている。

地元だけに、交番がどこにあるのかだって知っている。

男達は顔を見合わせて、ヘラヘラ笑うと、その場を去って行く。

何が『一夜限りの恋』よ。バカにするな。



『もう1回どう? ……どうせ、もう会わないのだし』



啓太の言葉が、こんな瞬間に浮かんできた。

裸のままベッドに横になり、ずうずうしく指を1本立てていて……



人をバカにしていると言えば、今の二人とどこが違うのか。

そうか、あの時から、私は啓太を好きになっていて、それを見抜かれて使われただけ。

この状態と、あまり変わらない。



だから、ずっと、ずっと、こうなることは決まっていた。



『寂しいときは……一人でいない方がいいから』





一人でいると寂しいから、私はあなたと一緒にいる。





そうだった。

私、タクシーに乗って、啓太にそう言った。

住所を聞き出そうとする啓太に、なんども首を振り、

『あなたはひとりになったらダメ』と、必死に手を引っ張った。





私がそばにいてあげるから……と。





何があったのだろう。

私は啓太の何を聞き、どうして泣いたのだろう。





どうして、あの日の記憶を、無くしてしまったのだろう。





半泣きしながら、自分の部屋に向かっていくと、男の人が立っているのが見えた。

暗さで誰なのかわからないけれど、私は勝手に走り出す。



啓太だと、そう信じて。



あと、数歩というところで足が止まる。


「……陽平」


3年間付き合った私を振り、他の女との責任を全うすると決めた、あの男が立っていた。



今更、何だというのだろう。

この部屋の前で待つなんて……



「久しぶり」

「何か用?」


当たり前のように、冷たく言ってやる。


「うん……今、ポストに手紙を入れたところなんだ。電話をかけようかと思ったけれど、
いきなり声で話すのも思って。それがさ、だから手紙を入れたのに、
今度は、ただ手紙を入れっぱなしというのも、またどうかなと……」


結局、どこが一番言いたい部分なのかわからないくらい、

グルグルと回っている言葉。私は陽平の横を通り、ポストの中を見る。

確かに封筒が入っていた。とりあえず鍵でポストを開き、それを取る。

部屋にあげるつもりもないし、あなたと話し込むつもりもないからと、

今、できる限りの冷たい態度を取った。


「わかっている。そんなに俺もずうずうしくはないよ」


陽平はそういうと、言いたいことは手紙に書いてあるのでと、頭を下げてくれる。


「もう遅いし、今日はこれで帰るよ」


陽平はそういうと、少しずつ離れていく。

背は高いけれど、ひょろっとしていて、筋肉はあまりない。

あんな押したら倒れてしまいそうな男の、どこがよかったのだろう。

見送っているのもおかしいので、私はさっさと階段をあがり、部屋に入る。

どうでもいいやと思いながらも、封筒を一応テーブルに置いた。

部屋着に着替えて、冷たいウーロン茶で、酔いを覚ます。

落ち着いたところで、封筒の中身を出し、読むことにした。


陽平の勤めているのは、『佐野製薬』という中堅くらいの製薬会社で、

病院や薬局に薬を配達している。

手紙の内容というのは、今度、社内で広報誌を出すことになり、

女性の色々なイラストを、描いてくれる人を紹介してもらえないかというものだった。

名前の知られている先生だと、もちろん金額も高い。

だから、私が仕事の中で知っている、見習い程度の人で構わないと書いてある。

あくまでも主役は薬の話で、イラストはその補助でしかない。

私は手紙を読むと、天井を見た。

眉村先生のところに行けば、勉強中のアシスタントもいるし、実際、イラストならば、

園田さんが、仕事で何度も描いている。



でも今、彼女に話を振りたくない。



くだらない女の意地。

近づけない女と、近づけるかもしれない女。

その差はあまりにも大きいから。



「こんなもの、自分で探しなさいよ。あれだけひどいことをしておいて、
バカじゃないの!」


便箋をテーブルに落とし、誰もいない部屋で、そう叫んでみる。

それでも、私は紙を再び手に取り、どうしようかと考えた。



13-⑤




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント