13 嫉妬の鼓動 【ジェラシー】 ⑤

13-⑤



「『佐野製薬』ですか」

「そうなの。まぁ、一流とは言えないけれど、社内で使う宣伝用の誌面だから、
仕事としては悪くないと思うのよね」


私は次の日、先に編集長へ話を振り、

そういったことならと、陽平あてに電話を入れてもらった。

昨日の今日という展開に、陽平の方が驚いたようだったが、

話しはいい加減なものではないということがわかり、紹介に対してのゴーサインが出る。

そのため、同じように担当の先生を持ち、アシスタントたちの顔を知っている、

二宮さんに、誰かいないかと話を振った。


「中谷さん。眉村先生のところに出入りしているでしょう。そこでお願いしたら、
やりたい人がいるんじゃないですか?」


当然でもっともな意見が、戻ってくる。


「まぁ、そうなんだけれど」


行きたくないのだ。今、あの家に。

細かく言えば、先生に会うことも、アシスタントに会うことも問題はない。

園田さんに会いたくない。


「前にね、別件で同じようなことを頼んだでしょ。だから、今回はと」


それらしき理由をくっつけて、二宮さんに話を押し付けていく。


「わかりました。それならちょっと連絡を取ってみます」


私は『よろしくお願いします』と頭を下げ、自分の席に座った。





10月もそろそろ終わりそうな日、園田さんの読みきりが掲載された号が、

発売日を迎えた。それと同時に、電子書籍としてのダウンロードも開始される。



『一生、忘れられない恋もある』



サブタイトルは、これ。

彼女の態度の変化に、腹を立てる前、私が考えたもの。



あんなふうに啓太と距離を近づけます宣言されていたら、

きっと、こんな優しいサブタイトルなんて、つけなかったはず。



パソコンを開くと、眉村先生のところで長い間仕事をしていたという

プロフィールが注目されたのか、ダウンロード数が、あっという間に増えていった。

発売して半日、午後3時ごろになると、OLたちが昼休みに漫画を読んだのか、

感想コーナーにコメントが入り始める。

こういうことは、それほど珍しいとは言えないが。

贔屓の先生とファンという関係性がない中では、最上級の反応だと言っても、

過言ではない気がする。



『タッチが素敵ですね。男性の横顔は、ドキドキしました』



しばらくすると、話の内容と、さらに絵に対する感想も入りだした。


雑誌には『贈呈誌』と呼ばれるものがある。

先生方や編集者が、作品に取り組む中で、お世話になった人、

たとえば業界ものの作品ならば、その道のプロの人や退職者に、

そして、特集記事などでは、取材でお世話になった人や会社に、

出来上がった雑誌を感謝の意味を込めて送っているのだ。

今回は、連載がある眉村先生と、園田さんのリストが同時にデスクに届けられた。

いつものお店や、建物のデザインを参考にさせてもらっているデザイン事務所。

それに、園田と名前があるのは、おそらく家族だろう。



『岡野啓太』



送付リストの中に、啓太の名前があった。

どこに送るのかと思い、住所を見る。




あの部屋の住所




ここから5分くらいでつくことが出来る、私の『オアシス』だった場所。

園田さんが、啓太の部屋の住所を知っていた。

私は大きく息を吐く。



責めることなど出来ないのかもしれないが、あまりにもやることが露骨だ。

こうして私が送らないとならないことを、今までの仕事の中で何度も経験して、

園田さんは知っているはずなのに。

気をつかうのなら、黙って仕事場にでも届けてもらってから、

啓太のところに、持って行けばいいのに。



悔しい……

悔しくて仕方がない。

いまだに未練の残る男のところに、自分が知っている女性が近付いているという現実を、

こんなふうに感じなければならないなんて。

私はPC前に座り、住所の一覧をシールにして印刷すると、

それを掲載誌を入れた封筒に貼って行く。

啓太の分だけ、しっかりと貼り付けた後、郵送をお願いする箱には入れず、

自分の引き出しにそっと納めた。





バカだと思う。

でも、一言言ってやりたくて仕方がなかった。

誰と付き合おうが、どう生きていこうが、私に許可を得るものではないが、

まだ別れて1ヶ月程度しか経っていないのに。

仕事に影響が出るような女を選ぶなんて、あまりにも余裕がない。


私は仕事を終えると、そのまま啓太のマンションを目指す。

信号を渡る前に部屋を見ると、まだ明かりはついていなかった。

それでもインターフォンを鳴らしてみる。

啓太からの返事はなかった。

これから何時間待たされるのかわからない。

それでも、このまま黙って消えていくのは嫌だった。

今、私がどれだけ惨めなのか、辛い思いの中で仕事をしているのか、

せめてそれだけでもわからせてやりたいと思い、扉の前で待ち続ける。

終電がなくなったら、タクシーを呼べばいい。

絶対に、この場所を動かないと決めたのだから。

時間は確実に過ぎていき、携帯を見ると、10時半をまわった。

人影が見えたので、視線を向ける。



……啓太



互いに視線が重なった。

でも、言葉が出てこない。


「こんばんは」


ここは用事を持ってきた私が、切り出すべきだろう。


「……あぁ」


あまりにもつれない返事。


「話しがあって来たの。出来たら部屋に入れて欲しい」


ここは公共の場。他の住民が通る場所でもある。

感情的になっているところを、あまり見て欲しいとは思わないから。


「悪いけれど、どうしても話があるのなら、ここにしてくれ」


啓太は、部屋に入れる理由がないと、そう言った。


「話があるの」

「だから、ここでいい」


私は持っている鍵をバッグから出そうと思ったが、それは辞めた。


「マンションの方に、聞かれていいとは思わないけれど」

「脅迫か」

「……は?」


脅迫などしているだろうか。

私はそれならわかったと返事をし、啓太と一緒に扉の前から少しだけ離れることにする。

道路でなら、入り口部分より声も響かないだろう。


「これ……」


まずは掲載誌を渡す。

啓太はすぐに意味がわかったのか、『あぁ』と言いながら封筒を受け取った。



14-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

13 【ジェラシー】

★カクテル言葉は『嫉妬』

材料は、チェリーブランデー 2/6、スイートベルモット 1/6、パイナップルジュース 1/6、
レモンジュース 1/6、グレナデンシロップ 1/6





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