14 予期せぬ出来事 【ハンター】 ②

14-②


「あ……あ、いたいた、おい、中谷」

「はい」


編集部に戻ると、ちょうど斉藤さんが電話に出ていて、私を手招きした。

誰からですかと聞くと、『佐野製薬』だと教えてくれる。

陽平からだと思い、すぐに受話器を取った。


「もしもし……」

『あ、もしもし、俺、未央?』

「うん」


陽平は、今回、二宮さんから紹介された美大卒の女の子と、

仕事をすることが決まったと、その連絡をくれた。

私は、それはよかったねと、返事をする。


『助かったよ。つてもないから、間に入る人に頼むと、金額を釣り上げられたりするし、
でも、未央たちはプロだからさ。会った若い担当の子も、すごく嬉しいって、前向きでね』


誠意のない男の代表、陽平に対して、手離しで喜ぶ気持ちにはなれないけれど、

仕事は仕事。あいつは、調子に乗っているのか、一回食事をしようと、そう言い出した。

私は別に担当をしたわけではないからいいよと返すが、

『仕事の間柄』だから、きちんとしたいという言葉に、そうかもしれないと考える。


「わかった。それならおごってもらう」

『おぉ、うまいところ、連れていくよ』


陽平との電話を切り、二宮さんに仕事が動き出したことを話す。


「あぁ、そうですか、よかった。原口先生のアシスタントの子で、去年、
美大を出たんです。色使いもよく出来ているし、こういう仕事は向いていると思うと、
先生からお墨付きをもらって」

「うん……」


私はバッグを一番下の引き出しに入れる。


「さて、今日も仕事をしましょう」


私はPCを立ち上げると、ダウンロードの状況を確認した。





『室井産婦人科』



妊娠検査薬から1週間後、それでも訪れない日に覚悟を決め、

私は、自分が住む駅の3つ先にある産婦人科に、思い切って行くことにした。

もし、本当に子供が出来ているのなら、どうするのかを考えなければならない。

あの言われ方をして、また啓太と連絡を取らないとならないのかと思うが、

でも、黙って終わりとするのはまずいだろう。



終わり……



もし、このお腹の中に、啓太の子供がいたとしたら、

私はなかったことにしようとするのだろうか。

覚悟のないまま、抱きしめあっていたから、あなたを産むつもりはありませんと、

勝手に命を絶つのだろうか。

きちんとしていても、絶対などありえないのだから。

こういうこともあるのだと、頭に入れていただろうか。

私は病院の扉の前で、思わず足が止まる。



私は、いったい、どうしたいのか。



それを考えながら、受付の前に立った。



当然だけれど、院内はお腹の大きい女性が並んでいた。

もう産まれてもおかしくないだろうなという人もいれば、

これから妊娠を告げてもらうのか、ご主人と一緒に手をつないで待っている人もいる。

私のように、ふらついた気持ちのまま来ているのは、誰もいないのではないか。


「そうなんですか」

「はい……私の子宮の状態があまりよくなくて、
自然妊娠は難しいのではないかと言われていたから、ここまで来て、
本当に嬉しくて」

「へぇ……」


妊婦さん同士の会話。

2人目ですと、上の子供を連れている人、初めてですと笑っている人、

そして、苦労の末、こうしてここまで来たと、涙ぐみながら話す人、

それぞれの人生模様。


「子供が出来ないと思っていたから……」




『子供が出来てしまったんです。だから別れないとならなくて』




また、思い出した。

『ブルーストーン』で私、そうだ、啓太に自分の話を押し付けた。

自分が3年も付き合っていた男に、子供が出来たという理由で振られて、

こうして悔しい思いを抱えていると、なぜか熱弁した。

どうしてお酒を飲まないのか、きちんとしないのかと、人だけを責めて……



あぁ、そうだった。

あの日、啓太の前に座っていたのは、彼女だとそう言っていた。

彼女と別れたと聞いたから、私も自分のことを話した。



『子供? 子供なの?』



あなたも子供を他の人に作ったのかと、なんだかわからないけれど、

威張ったまま、啓太を指差して……



「中谷さん……ですよね」

「エ?」


顔をあげると、看護師が私をじっと見ていた。

診察室へと言われて中に入ると、女性の医師が座っている。

女性だと思うと、少し緊張感が薄れていく。


「中谷未央です」

「はい。今日は妊娠判定ということですか」


医師にそう言われ、私は『はい』と返事をした。

予定の日はいつだったのかと聞かれ、カレンダーの日付を見る。

妊娠するような行為があったのか、薬などは飲んでいないのかと、尋ねられる。


「はい……」

「そうですか、それではこちらに」


経験したことのない診察台が、そこにあった。

言われるままに姿勢を取り、診察を終える。

結果を待ってほしいと言われ待合室に戻ると、先ほどまで話をしていた人たちは、

いなくなっていた。

それから20分後、もう一度名前を呼ばれる。


「……妊娠ではないですね」


結果は、違っていた。


「違いますか」

「はい……検査の結果も、そのホルモンが確認できませんでしたし、
こうしてみてみても、うーん……違うなと」


医師は、強いストレスなどが起こると、体調の変化があると言い、

少しリラックスした時間を持ちなさいと、そうアドバイスをくれる。

私は『ありがとうございました』と頭を下げると、待合室に戻る。



ほっとしたのが半分と、どこか残念だったのが半分。



啓太の子供が出来たわけではなかった。



14-③




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント