14 予期せぬ出来事 【ハンター】 ④

14-④


『中谷さん、近頃忙しいの?』



こんなメールが眉村先生から届くようになった。

啓太と園田さんのことがわかってから、私はあの仕事場に行くことを正直、避けている。

いくらなんでも、園田さんから啓太との日々を聞くことにはならないだろうが、

女としての匂いを出し始めたあの姿を見るだけで、

視線をどこに置いたらいいのか、わからなくなるからだ。

しかし、仕事は仕事。今日は覚悟を決めて、原稿を取りに向かう。



あの人が席を外していることを、願いながら。



「こんにちは」

「あ、こんにちは」


すぐに元気な声を出してくれたのは、若いアシスタントの女性だった。

眉村先生に挨拶をするときにも、視線は彼女のデスクに向かう。

席は、片付いた状態のまま、誰もいない。


「はい、原稿」

「ありがとうございます」


『ただ……あなたが好き』の新しい回。

叶わない恋だと思いながら、どうしても社長との時間を作ってしまう主人公。

社長はその健気な思いを知りながら、着々と婚約の支度を始めていく。


「本当に婚約するんですか?」

「どっちがいい?」

「……それ、聞きます?」


心は君にあるけれど、会社のためだからなんてこと、実際あるのだろうか。

昔の財閥レベルの企業なら、身分だの家柄だのうるさいだろうが。


「今は言わないの。ドキドキを最高なところまで持っていくんだから」


眉村先生は、それでも聞きたいのかと、私に聞いてくる。


「今、答えを言っていたようなものですよね、先生」

「あら?」


最終的には主人公の方へ、風が吹くことになるだろう。

そうでなければ、後味が悪すぎる。

乱れきった別れなんて、現実世界だけで十分だ。


「ねぇ……中谷さんからも、言ってくれない?」

「何をですか」

「園田さんに、次を描いてごらんって」


私と園田さんの微妙な間柄を知らない先生は、

編集者と作家という立場の私に、当然のことを言ってきた。

園田さんの作品は、読みきりであったが評判もよく、

編集長自身が、自分が探した新人だと、妙な自慢をしているとも聞く。


「私は……」


園田さんが、あのタッチで絵を描くのを、また見るのかと思うと、

『頑張ってくださいよ』とは、言える気がしない。


「ここのところ、マイペースに仕事をしていいと言ったからなのか、
エンジョイしているみたいよ。今も、旅行だって言っていたし……」



『旅行』



別に、ただ情報はそれだけ。

でも、もしかしたら相手はと考えてしまう。

あいつは旅行なんてどうでもいいと言っていたけれど、それは私だったからで、

園田さんでは違うかもしれないし、旅行と言いながら、ただ、

あの部屋でのんびりとしているだけかもしれないし……



考えないでと思うのに、自分が嫌になる。



「そうですか」


私は先生の原稿を受け取ると、今日はこれから会議があるのでと、帰ることにする。

眉村先生は、雨がふりそうだから傘を持っていくかと聞いてくれたが、

私は首を振って、それを断った。





先生の心配どおり、雨はあっという間に勢いを増した。

秋もだいぶ深くなってきたので、ゲリラ豪雨も少なくはなったが、

今日は11月という暦にしては、気温が高めだったからなのか、

久しぶりに真っ暗な空が電車内からもハッキリ見える。

携帯でこれからの雨予想を見ると、1時間ほどでやむと思えたので、

私は途中下車をすると、喫茶店に入り、

空模様を見ながら、『カフェオレ』を飲むことにした。



雲が右から左に動くのなら、少しずつ回復しそうな気がする。

もし、これが逆なら、まだまだかかるだろう。



『逆』かぁ……



啓太の言っていた『逆』という意味。

私が子供を相手に作られたと言ったことの逆なら、

あの前に座って、啓太を責め立てていたような彼女が、

他の男と子供を作ってしまったということだったのだろうか。


テーブルに置いた携帯に、メールが届く。

誰かと思い開いてみると、最上級に派手な演出をくわえた、ひとみからのものだった。



『出来たの! 嬉しい!』



ひとみのメールには、かわいいドレスを着たイラストの女性が、

クルリと回転し、ダンスを踊るという演出がプラスされていた。

そうか……ひとみ、赤ちゃんが出来たんだ。

結婚して1年で、だんなさんが触れてくれなくなったと、ぼやいていたのに、

勘違いが解けてから、仲良くしているよと言っていたけれど。



そうか……よかった。



私は、すぐに『よかったね、おめでとう』のメールを打つ。

本当に気の合う友達の喜びだけに、自分のことのように嬉しくて、

何度もメールを見ているうちに、少し泣けてきた。



『未央 おめでとうの食事会しよう』



嬉しくてたまらないというひとみは、話したいことがあるからご飯を食べようと、

そう誘ってきた。私はそれならうちで何か作って食べようよと返信し、

久しぶりに我が家へお招きすることになる。

今までは、お酒の力を借りながら、愚痴を言っていたけれど、

赤ちゃんが出来たのだから、アルコールは厳禁。

私は体を冷やさないようなものを作ろうと決め、ひとみを迎えることにした。



14-⑤




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