15 明日への期待 【カイピロスカ】 ①

15 明日への期待

15-①


『今週の木曜日なら、9時くらいに家にいる』


啓太からの返信が届いたのは、最初にメールを送ってから5日後のことだった。

その間に、私は20通以上もメールを送り続けた。

自分でも、よく諦めずに続けたとそう思う。



『話すことだけ話したら、すぐに帰ってくれ。本当にこれが最後だ』



念を押すような、冷たい台詞。

わかっている。

私にはもう、あの部屋にとどまる権利がないことくらい。



『わかった、ありがとう』



それでも、言いたいことがある。

とりあえず返信をいれ、手帳を開く。

どうしてもこの日だけは、確保しなければならないと、日付に丸をつけた。





「お先に失礼します」

「おぉ」


編集長に見送られ、私は編集部を出た。

今日は木曜日、啓太と約束をした日だ。

話をするだけだと言ったので、飲み物を買っていくのもおかしいだろう。

ひとみと会った日、忘れないようにと取ったメモに、今まで思い出したことも、

あれこれ重ねて書いた。

あの日のことを、振り返ってというわけではないが、『病気』というキーワードは、

どうしても見逃せない。

久しぶりに歩く道、いつものペースで進み、

会社から5分くらいで、マンション前についた。

下から見上げる『303』、今日はしっかりと明かりがついている。

私が来るということを、啓太が理解しているということ。

何度も鳴らしたインターフォン前に立ち、番号を押す。


『はい』



啓太……


「こんばんは、未央です」


啓太からは言葉が戻らないまま、それでも扉は開かれた。

私は中に進み、一人エレベーターに乗る。

3階に到着すると、303の前に立ち、もう一度インターフォンを鳴らした。

カチャンと鍵を開ける音。

開いた扉……


「話をしたら、さっさと帰れよ」


出て来た啓太は、上半身が裸の状態だった。


「うん……」


部屋にはそれなりに暖房がついているが、

私はお風呂にでも入ろうとしたのかと思いながら、靴を脱ぐ。

リビングの方へ顔を向けたとき、奥の部屋に人の姿が見えた。



『細川香澄』



一瞬、目があったから、間違いない。

啓太のベッドの中に、あの子がいた。

洋服を着ていないのではないかと思える、両肩。


「何、話しって……」


啓太は部屋着のシャツをつかむと、とりあえず肌を隠す。

今まで、あのベッドで何かがあったと、そう思える景色がそこにある。


「……うん」


冷静に……。

私は、リビングのソファーに座ろうかと思ったが、

そこには彼女のものだとわかるスカートがあり、何やら入っていたのかと思える、

布の袋があった。

この間のことといい、今日といい……


「あのね、『ブルーストーン』でのことを、思い出して」

「またそれか……もういいだろう」

「もういいって、あのね、違うの」


どうでもいいことなら、ここには来ない。


「思い出したのは、啓太が自分に病気があるって、そう言ったことなの」


『病気』というキーワードが捨てられなかった。


「岡野さん」


香澄ちゃんがベッドから起きたいと、啓太を手招きする。

啓太はバスタオルをあの子に投げ、それを巻いた姿で彼女はこちらを向いた。


「あの……」


見たくもないのに、つい、顔を向けてしまう。

こっちへ来ることなどないのに、彼女は自分がこうなったということを自慢したいのか、

わざわざバスタオルだけの姿で、私の方へ歩いてくる。


「すみません、こんな格好で」


私と啓太が恋人同士ではないのなら、自分が奪い取ると宣言した女子大生。

まんまとそのとおりになってしまった。


「啓太……彼女は職場の子だからって、言ったわよね」


違う、冷静にならなければ……


「あぁ……」

「だったら」

「何度も会っていたら、その気になった。ただ、それだけだ」


私の目の前で、啓太はわざわざ香澄ちゃんの髪に触れる。

私にもしたことがあるような仕草。


「なんだか話があるのでしょう。私、今日はこれで帰ったほうがいい?」


香澄ちゃんは、啓太の腕をつかみ、甘えたような声を出す。


「すぐに終わる。待っていろって……」

「だって……」

「まだ……もの足りないだろう」


香澄ちゃんはわかったと頷き、またベッドへ戻っていった。



15-②




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