16 言葉の本質 【クラシック】 ③

16-③


食べ物を口に入れた後の動き、それから喉仏も動いた。

どうだろう、おかしな味付けではないと思うけれど。


「……どう?」


人には好みがある。

私の顔を見た上村さんは、しっかりと大きく頷いてくれた。


「うまい……大丈夫だって」

「本当? よかった」


ほっとした。

自分で、作りますと宣言しておいて、『なんだこれ』では話にならない。

そこからは、私の食事も進んでいく。

いつもの食事会と同じように、世間話もあり、仕事の愚痴もあった。

でも、いつもの時間と違うのは、いつまで笑っていても、追加注文する必要はないし、

他の人に遠慮をする必要もないこと。


私たちは食事を終えて、それから片づけを済ませていく。

私が洗い、上村さんが横で拭いてくれる。

すぐに食器戸棚に入れるより、少しだけ遅れて入れたほうが湿気もなくなるからと、

とりあえずお皿は積み重ねた。

2つのカップ、2つのお皿。

全てが2つ……


私は蛇口を閉め、濡れた手を拭く。

上村さんがお皿を拭き終えたのがわかり、その布巾を受け取ると、乾きがいいように、

洗いものカゴの横に広げた。


「なんだか、今になって緊張する」

「エ……」

「いや、お皿を洗っているときに、後ろから抱きしめちゃおうかと、
考えたりもしたのに、驚いて皿を割って、怪我でもしたらとか、あれこれ……」


上村さんは、そういうと、照れくさそうに笑う。


「緊張しているなんて言われると、私も緊張するのに」

「あ……ごめん」


上村さんはそういうと、今度は心配そうな顔を見せた。

どうしてこんなに穏やかなのだろう。

ただ、時の流れに任せていられるなんて時間、今までにあっただろうか。

私は、気持ちを整えながら、『その時』を待つ。


「未央さん……」

「……はい」

「今日はありがとう」


上村さんは、私の肩に触れ、そして抱きしめてくれた。

私はその思いに応えようと、腕を回す。

頬に感じる唇。

私は少し顔をあげる。

見つめあい、そしてゆっくりと触れていく。

唇という身体の一部分が、私の全身にしびれるような感覚を回した。

上村さんの息遣い。

深めの呼吸が、こちらにも緊張を運んでくる。

つながれた手……

私は導かれるままに、ゆっくりとついていく。


「ねぇ……シャワーを浴びてもいい?」


私の言葉に、上村さんは確かに頷いてくれた。

場所を教えてもらい、そして、タオルの場所も聞く。


「ありがとう」


ひとりになった空間で、まとったものを脱いでいく。

これから私は、新しい恋を受け入れ、歩き出すのだ。

優しく言葉を授けてくれる人と、きっと、見えてくる未来に向けて。

シャワーをひねると、自分の肌に、その温かいお湯を当てる。

少しでも綺麗でいたくて、そのぬくもりに自らの全てを差し出した。



扉を開けて、タオルに身を包むと、リビングに上村さんが見えた。

私に気付くと、すぐに立ち上がり、そばに来てくれる。


「向こうに……」


言葉に前を向くと、今まで閉じられていた場所が開いていて、

そこには彼のベッドがあった。私は手をつないだまま、一緒に向かう。

上村さんは、布団をあげ、私を中へ入れてくれた。

そして、自分もシャワーを浴びてくると、浴室に向かう。

扉の閉まる音、水音、ひとつずつが気持ちを高め、鼓動を速めていく。

その時間がすぐにでも来て欲しいという思いと、緊張とで、

なかなか呼吸が落ち着かなかった。


水音が止まる。

扉が開く、少しずつ近くなる上村さんの気配。


私は自分の身体を包んでいたタオルを外し、そっと下に落とす。

布団のぬくもりが消えたとき、彼の姿が目の前に迫る。

同じようにタオルを外し、横に並んでくれたことがわかり、自分から少し手を伸ばした。

互いに隠すものなどない姿で、今度は寄り添うようになりながら、唇を重ねていく。

遠慮がちに触れた舌先の動きに、私の手が腕をつかむ。

彼の指が、胸の先端に触れたとき、私の身体が反応し、唇から声が漏れ、

その動きに、弱いと思われたのか、指はさらに『声をあげなさい』と挑発した。

私は両手で抵抗しようとするが、

上村さんの脚が、またさらに別の場所を目覚めさせようと動き、

私を追い込もうとする。

少し前には緊張しているなんて言っていたくせに、

そんな遠慮がちな彼はそこにいなくて、強く、そしてまっすぐに私に向かってくる。

伸ばす手の動きに、身勝手に飛び出していく声。

まだ、始まったばかりなのだから、もう少し余裕のある顔でいたいのに、

明らかに自分だけ、乱れていくのがわかる。

それでも、『愛されている』という思いに、私の全てが満たされていく。

そして、その先を願う目で彼を見ると、

互いの気持ちが重なったのだとわかってくれたのか、ゆっくりとそのときが訪れる。


ゆっくりと、深く重なり合い、何度も揺れながら……

震えるような声を抑えたくて、唇をかみしめる。

呼吸をするつもりなのに、唇はただあふれる感覚を声にしてしまう。

自分に届く刺激に、心と身体が酔い始めるのか、もっと触れて欲しいと、目で語りかけた。


「はぁ……」


彼の唇が、耳元に近づいたとき、それまでには聞けなかった吐き出すような声が届く。


私だけではなく、彼にも余裕がなかったことがわかり、思わず目を閉じた。

そしてもっと、私を欲する彼の声を聞きたくなっていく。


シングルベッドという幅のない空間が、

側にいたい気持ちを、膨らませるのだろうか。

ゆっくりと穏やかな時間は、長く、深く、つながり続けた。



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