19 衝撃 【アースクエイク】 ④

19-④


片付けを終え、カウンターの中から出ると、悠のそばに向かう。


「もう、出来たの?」

「あともう少し」

「そっか」


悠は書類を見直しているのか、視線が上から下へ向かう。

英語の中には、いくつか読める単語があった。

おそらくこちらが商品になり、数字の方は金額だろう。

妙な質問をして、私は邪魔をしたくないと思い、黙って見続ける。


「あと、3分待って」

「大丈夫だって」


そうか、そばにいることがプレッシャーなのかも。

私は立ち上がり、コンロの前に戻る。

匂いも完成近くなったので、最後の味確認をして火を止めた。


「あ……」


後ろから回ってくる、悠の腕。


「まだ、3分経っていない気がするけれど」

「ん? まぁね」


私は料理の道具を元の位置に戻すと、思いに応えるため、悠と向かい合う。

悠は両手で私の頬を包むようにすると、優しくキスをしてくれる。


「3週間、長かった……」


いつものようなまっすぐな言葉に、私は素直に気持ちを預けていく。


「でも先に食べよう……せっかく作ったのだから」

「わかっている」


悠はそこから書類を片付けはじめ、テーブルは仕事場から食事の場所へと変化した。


「いただきます」


二人で手を合わせ、そこからはゆっくりと味わった。





真夜中に、ふと目が開いた。

喉が渇いたので、冷蔵庫まで飲み物を取りに行こうと思い、バスローブを身につける。


「どうしたの」

「喉が乾いたの、悠も何か飲む?」


悠は『いらない』というと、また眠ってしまう。

私は冷蔵庫から、ミネラルウォーターの小さなペットボトルを取った。

コップに移し、それをふた口飲む。

悠が食事の前に見ていた書類の入った袋には、『HANABISHI』と書いてある。

会社の住所も、表記は全て英語のようだった。

あの日、二宮さんが『花菱物産』との飲み会に誘ってくれなければ、

私は悠と出会うことなどなかっただろう。

これだけ生活の中に英語が入ってくることなど、自分の時間には想像が出来ない。



もし、悠と出会っていなかったら、

啓太を忘れないまま、思いを引きずり続けただろうか。

香澄ちゃんの芝居話に、『どうしてそんなことをしたのよ』と、文句を言いに行き……



また、啓太の元に……


いや、それは違う。

啓太自身が、私と別れようと決めていたのだから、

何を言っても、どう考えても、救いなどなかったはず……



悠と出会えなければ、私は今頃、どんな毎日を送っていたのか。

明日になれば、また……と……



『毎日を……1日ずつ……』



1日ずつ……

なんだろう、またどこかから言葉が浮かぶ。

誰に話したのか、それとも誰かから聞いたものなのか……

私はペットボトルを冷蔵庫に戻し、もう一度ベッドの中に戻った。





園田さんからメールが送られて来たのは、それから2日後だった。

6月20日に仕事が最終日で,その後はそれほど忙しくないので、

私の都合に合わせてくれると書いてある。

月の最終週は、締め切りがいくつかあるので、出来たらその前の週に会っておきたい。

私は、『23日』を指定し、返信をした。





「こんにちは」

「あぁ、いらっしゃい」


週末、私は兄の家に呼ばれたため、手土産を持ち、お邪魔することにした。

甥っ子の和貴は、朝からヒーローものの番組を見ていたらしく、

新潟にいるうちの親が買ってくれた、携帯の変身機械をズボンにつけ、

ソファーの上で、『変身』を繰り返している。


「トォー!」

「ほら、和貴。飛び降りない」


千波ちゃんは、以前、和貴が同じ場所から飛び降りて、

下に敷いてあったマットがずれ、頭を打ったことを気にして、すぐに注意をする。

兄は、男だからいいんだよと、和貴をまたノリノリ状態にしてしまう。


「奏樹は言うだけでしょう。後から面倒を見るのは私なの」


和貴が大泣きして面倒なことになると、千波ちゃんは兄に言い返す。

兄は、ここは逆らうべきではないと考えたのか、素直に和貴を下に下ろし、

床の上でやるようにと話しをする。


「お兄ちゃんも千波ちゃんには勝てないね」

「ん? そうそう、家庭の中ではな、男は小さくなってないと」


うまくいくものもいかなくなると、兄は私に向かっていった後、

千波ちゃんの視線を感じ、すぐに何か運ぼうかと手伝いを買ってでる。


「未央ちゃん。いつもこんなに優秀な旦那ではないからね」

「わかる、わかる。お兄ちゃんは昔から要領がいいのよ」

「なんだ、お前」


私は、千波ちゃんが作ってくれたものをテーブルに運んでいく。

お料理の得意な千波ちゃんの出してくれるものは、いつも間違いなく美味しい。


「うわぁ……これ、美味しいね」

「そう? ありがとう」


私は作り方を教えて欲しいと、千波ちゃんにお願いする。

千波ちゃんは簡単だから、メモに書いてあげるわよと、気の利いた返事をしてくれた。

私はお願いしますと、手を合わせる。


「なぁ、未央。お前、新潟の方に行くつもりがあるのか」


兄は、先日、実家に電話をしたら、父がそんなことを言い出したと口にする。

私は、年末に戻ったからそういう気持ちになったかもしれないが、

それはありえないからと言い返した。



19-⑤




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