1F 『KISE』に関わる人たちのこと ④

1F-④


『KISE』と『木瀬電鉄・百貨店』の事務所ビルは、駅を挟んで左右にそびえ立っている。

実は、駅地下には関係者しか入れない地下通路があり、

『KISE』で仕事をする社員やパートたちは、その地下通路を歩き、

本社ビルの最上階にある社員食堂に向かうことが多く、

逆に、売り場の状況を確認するため、販売企画の社員が、『KISE』に向かうのも、

この地下通路だった。


「朝から、肝を冷やしましたよ。小川課長をあれだけ怒らせるって言うのも、
なかなかないですよ」


芳樹はそういうと、大きく息を吐く。


「おい、大林」

「はい」

「お前は俺のストーカーか」


その日の昼食、拓也と芳樹は揃って社員食堂の『A定食』を注文した。

ご飯にみそしる。メインのおかずは『鯖の味噌煮』。

小鉢は2つ、選べるようになっていて、

拓也は選んだほうれん草のごま和えを箸でつかみ、口に入れた。

まだシャキシャキとした食感が残っていて、なかなか美味しい。


「ストーカーってどういうことですか。
昼休みになるから、僕もここへ来ただけですよ」


芳樹はきんぴらごぼうを同じように箸でつかみ、口に入れる。


「広瀬さん、冗談はともかく、少しはおとなしくした方がいいですよ。
いくつ目ですか、担当売り場、今の寝具で」

「4つ目」

「4つ」

「あぁ、4つ」

「入社5年で4つって、それ動きすぎでしょう。僕は入社4年目ですが、
今も最初の『男性衣料』ですよ。担当の異動なら2つ、
いや、1つを極めていく人間も多いのに」

「好きで異動しているわけじゃないだろうが。朝来たら、勝手に紙が置いてあった。
その繰り返しだ」


拓也はお茶の入った湯飲みを持ち、視線を芳樹の後ろに向ける。

『KISE久山坂店』の正面入り口で、受付をしている女性と、

ブライダルコーナーを担当している女性2名の3名が、

それぞれの昼食のメニューをお盆に乗せ、拓也の方を見ていた。

1ヶ月前くらいに誘われた、合同コンパのメンバーだったことを思い出した拓也は、

その視線に軽く左手をあげる。

女性陣は、なにやら嬉しそうにこっちへ向かってきた。


「そういえば、広瀬さんって途中入社なんですよね。
最初に仕事をした時、入社が1年しか違わなくて、
年の差ひとつかと思って、ビックリしましたけれど、後から……」

「大林、お前、食べるの遅いな。さっさと済ませろ」

「は? どういうことですか」


芳樹が、さらなる文句を拓也にぶつけようとした時、芳樹のまわりには影が出来た。

気付くと、芳樹を囲むように女性が3名立っている。

芳樹の口は、そのまま閉じた。


「広瀬さん、お久しぶりです」

「おぉ、お久しぶり。えっと……飲み会以来だよね」


ブライダルコーナーを担当する2人は、そうですねと返事をする。


「エ? やだ、それいつの話ですか? 私、誘われていませんけど」


受付の女性は、拓也を見ながら、軽く頬を膨らませた。


「あれ? そうだったかな?」


拓也がそういうと、話しかけた女性以外の2人が、

4人がけのテーブルで空いていた席の前に立つ。

芳樹がその素早さに驚いていると、拓也が空いているからどうぞと二人に勧めた。


「あ、すみません、お邪魔します」

「あ……何よ、ちょっと」


話しかけたことで動きが遅れた受付嬢は、どうすればいいのかとその場に立つ。


「いいよ、ここも空くから。なぁ、大林はもう終了だろ」

「は?」


芳樹は、まだ半分も終わっていない、自分の皿を見る。

拓也は、左足で目の前に座る芳樹の脚を軽く蹴り飛ばした。

文句を言いたげな芳樹に対して、さらに左手が『払い』のポーズを繰り返す。


「……って、広瀬さん」

「仕事が出来る男は、早飯なんだよ、大林君」


先に席を確保した女性陣の期待の目がそこにあり、

芳樹は途中の昼食が乗っているお盆を抱え、なぜか残りの受付嬢に、席を譲る。


「すみません……ありがとうございます」

「はぁ……」


芳樹は、納得のいかないまま、斜め右にあったテーブルに座り、

拓也に背を向けながら続きを食べ始めた。


「広瀬さん、飲み会、今度はいつならいいですか?」

「ん? 飲み会? そうだな……しばらくはいいかな」

「どうしてですか?」

「彼女にダメ出しされたからさ」


拓也のセリフに、テーブルが瞬間静かになる。


「エ……広瀬さん、おつきあいしている方、いらっしゃるんですか?」


受付嬢は、少しショックだと言いながら、口をとがらせた。

他の二人もその発言の先を知ろうと、拓也を見る。

拓也はそれぞれの顔を確認し、湯飲みのお茶を飲み干していく。


「……と言った方がかっこいいかなと思ったけど、そうでもないか」


そう言いながら、次はいつにするのかと、女性陣に尋ねた。


「もう、ふざけないでくださいよ……」


受付嬢の笑い声を背中越しに聞きながら、芳樹は鯖の味噌煮を何度も噛んでいく。


「ん?」


口の中で軽く存在をアピールした骨を見つけ、指で取り去った。





受付嬢たちが楽しそうに笑ったため、別の場所で食べていた彩希と恵那も、

一瞬顔を動かした。特別なことが起きたわけではないことがわかり視線を戻す。


「へぇ……『チルル』がねぇ」

「そうなの。どうして取引をやめてしまったのか、わからないけれど」

「売れていなかったわけではないもんね。だとすると、噂が本当ってことかな」

「うーん……」


彩希はナポリタンの麺を、クルクルとフォークに巻いていく。

恵那はサンドイッチを食べながら、よく同じ時間に店へ来る、

サラリーマンの話をし始めた。


「同じ時間?」

「そう、だいたい開店から30分後くらいかな。ひととおりお店の中を歩いて、
果物を買って、サンドイッチを買って、で、飲み物。
果物がりんごだったり、キウイだったり、
サンドイッチの種類もあれこれ変わるけど、飲み物だけはそう……『ヘルシティー』」

「あぁ、健康にいいってCMの?」

「そうそう。別に太っているわけでもないのになって、いつも気になるのよね」

「へぇ……恵那が気にするってことは、きっとかっこいい人なんだ」

「よくおわかりで。携帯のカメラにでもおさめたいところだけれど、
さすがにお客様に向かって、レンズ向けられないし」

「当たり前だよ」


恵那はコーンスープを飲みながら、外はもう雨が上がったねと、笑顔を見せた。





【 ご当地スイーツ紹介 】

各話のタイトルに使用している写真は、各都道府県の有名なお菓子です。
みなさん、味わってみたこと、ありますか?

【1】北海道  白い恋人  (ラング・ド・シャでチョコレートを挟んだ菓子)



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