2F 意地っ張りで身勝手な男たち ③

2F-③


『朝の決闘』を見届けた、それぞれの売り場のトップも、

会議に出るため席を立ち始める。

その波を見送ったエリカは、立ち上がると少し前に歩き、

上司のデスク上にある、拓也が提出したファイルを広げた。

その行動に、別の社員が声をかける。


「横山さん、ちょっと待って」

「何?」

「何って。それ、勝手に見ては……」


上司の机の上にあるものを、許可なく勝手に見るのはよくないと、

他の社員がエリカに忠告した。エリカはその言葉を無視したまま自分の席に戻り、

ファイルを開く。



『トータルブランド』



全ての売り場に『KISE』ブランドを作り、トータルで購入する楽しさを導き出す。

それが拓也の打ち出したものだった。

品質は落とさず、しかし協力企業を絞ることで、

リーズナブルな価格にすることが出来れば、あまり百貨店では味わえない、

お得感も演出出来る。

エリカはまた足を組み、書類の中身を読み進める。

企画書から顔を上げ、椅子に座り両手を頭の後ろに組んだ拓也を見た。


「ねぇ、あの広瀬って人、どんな人?」


エリカは隣に座る社員に、そう問いかけた。





「広瀬さんは、僕の寿命を縮めるつもりですか」


芳樹は、その日、『B定食』を注文し、拓也の前に座った。

拓也は『本日のパスタ』のボンゴレを選び、フォークで丸め始める。


「大林、お前、俺以上に勝手な男だぞ。何が寿命だ」

「寿命ですよ。僕がどれだけハラハラしていたか、わかりますか」


拓也はそう言われて、芳樹の表情を確認する。

見た目は、いつもの芳樹であり、多少、口が尖っているようにしか思えない。


「わかるわけないだろうが」


芳樹は、この間の成功があったのだから、少しおとなしくしていれば、

自然に拓也の話を聞く雰囲気が出来てくるのにと、ため息をつく。


「少しってどれくらいだよ」

「それは具体的に何日とは言えませんけれど、流れで……」

「何が流れだ。抽象的な言葉を使うな」


拓也の視線は、芳樹の顔を越えて、その後ろからこっちに近付く女性に向かった。

スタイルがよく、その細い脚をさらに綺麗に見せる高いヒールを履いた女は、

カツカツと音をさせながら、だんだん近付いてくる。

拓也は合コンをした受付嬢たちや、ブライダル部門にいる社員たちを思い浮かべるが、

当てはまる顔は出てこない。


「ここに座ってもいいですか……広瀬さん」


拓也は、自分の名前を知っていることに驚き、

芳樹は、また合コンの誘いかと、振り返る。

エリカは、芳樹には視線を向けず、拓也にだけ焦点を合わせていた。


「構いませんが……」

「すみません」


拓也と芳樹が向かいあう丸テーブルに、エリカが入った。

エリカはすぐに名刺を取り出すと、拓也の前に置く。



『女性衣料2ライン 横山エリカ』



「誰だと思っているのでしょう。そうですよね、
私、南の『新原店』管理から急に異動になったので」


『南』というのは、都内にあるもうひとつの『木瀬百貨店 新原店』と、

隣の県にある『橋岡店』を示す。ちなみに『北』というのは、

今、彩希が働いている『久山坂店』と、同じく隣の県に出来た『緑沼店』を示す。

管理部門の社員たちは地図を上下にわり、4店舗を『北』と『南』で担当分けしていた。


「企画書、勝手に読ませていただきました。とてもおもしろい企画だと思います」

「あぁ……ありがとうございます」

「確かに、『絶対』という『ブランド力』を生かさない手はないですよね」


エリカは体全体を少し斜めにし、拓也に話しかける。

芳樹は、自分に対して挨拶すらないエリカの態度に腹を立てながらも、

無理に割り込むわけにもいかず、食事を続ける。


「でも、一人で押し切ろうとするのは無謀でしょう」

「無謀……ですか」


拓也はボンゴレを食べながら、ふっと口元をゆるめた。

その笑みを見て、エリカも少し表情を変える。


「無謀だわ。企画が無事に提出出来たとして、
そうね、一応『木瀬百貨店』の『北』が立場は上という暗黙の了解はあるけれど、
売り上げは『南』もあまり変わらないですし。
『北』の調査のみで押し付けられるのは、嫌がりますよ。
もっと具体的に、色々と聞かせてもらえませんか?
私も、このままでいいとは思っていない一人なんです。
これでも『南』では、色々とアイデアを出して、賞もいただいたことがありますし、
少しはお力になれるかもしれません」


エリカは賛同するものが増えれば、上司たちも無視できなくなると、そう提案する。


「変えていきましょうよ、この組織」


エリカはそう言った後、初めて『ねっ』と芳樹の方を向く。


「えっと……」

「大林と言います。今は、男性衣料2ラインの担当で」

「そうですか。よろしくお願いします」


エリカの笑みに、芳樹は引きつった笑みしか戻せなくなる。

拓也はその返しがおかしくて、顔をそらした。


「横山さん」

「はい」

「興味を持っていただいて、ありがたいですが……俺には俺のやり方がありますので」


拓也はそういうと、食べ終えたお盆を持ち、立ち上がる。


「あの」

「まぁ、お名前は覚えましたから。名刺はお返しします」


エリカの出した名刺を残し、拓也はさっさと歩いていく。

芳樹も急いで食べ物を口に入れると、飲み込みながら同じように席を立った。





「やっぱりここですね」


食堂を抜けてから5分後、拓也の姿は喫煙所にあった。

芳樹は、ポケットから財布を取り出し、自動販売機で缶コーヒーを買う。


「お前、本当にストーカーだな」

「違いますよ」


拓也はタバコを灰皿に押し付けると、芳樹が買ったコーヒーを勝手に取り上げた。

許可なくプルを開けると、口をつけてしまう。


「あ……ちょっと」

「ブレンドの豆にこだわりがある男は、自動販売機なんて使うなって。
俺はほら、『味覚バカ』だからさ……」


芳樹に向かって、拓也は『バカ』を強調する。


「根に持ってるでしょう、昨日の話」


芳樹は仕方なくもう1本コーヒーを買い、拓也の横に座った。


「あの人、『南』から来たんですね」

「あの人?」

「ほら、さっき、声をかけてきた人ですよ、横山さんでしたっけ?」

「あぁ……」


拓也はスマートフォンを取り出し、これから会う予定の相手に、

何か不都合が出ていないかを確認する。


「私が手伝いますけどって雰囲気、出てましたよね」

「そうだったな」

「よかったんですか、味方、1人より2人の方がいいですよ」


芳樹の言葉に、拓也は横を向く。


「なんだ、それ」

「味方ですよ。僕だけより、あの人も入れて2人って方が」

「お前、味方、味方って、
俺は化け物と戦う、ロールプレイングゲームをしているわけじゃない」


拓也は背もたれに寄りかかり、首を左右に動かし始めた。



2F-④




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